小林秀美 小説・画家とモデル
目 次
第一景 白昼夢
第二景 淫らな背信
第三景 不倫の香り
第四景 氷雨の中に
第五景 花は翔び交う
第六景 画布の中の女
第七景 可愛い娘
第八景 パリの夜
(C)Hidemi Kobayashi 1987
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第一景 白昼夢
アトリエの中は、ひっそりとしていた。
長い梅雨の晴れ間である。今年の梅雨はだらだら鬱陶しい日が続いていた。
(今日も遅刻か……)
向井明が呟いた。天上の明かり取りから夏陽がアトリエの一部を斜めにさしている。他の部分は暗い陰の中に静まり返っていた。
向井明はそのひっそりした中で、長い時間を大きな椅子に深く腰をおろしていた。
いらだちで落ち着かないようであった。
前のテーブルには、茶の道具やポットなどがキチンと誰かを待つように揃えられていた。
茶布巾のかかったのは茶菓子であった。
向井明の膝の上には大きなクロッキーブックが置かれていた。
毎週日曜日に来るモデルの由紀を待っているのだが、約束の時間の午後一時はとうに過ぎていた。
いつもはこんなことはなかった。先々週あたりから少しずつ遅刻するようになってはいたが、こんな大幅の遅れはなかった。
(そろそろ替えどきなのかも知れない)
向井明はそんなことを考えながら、先週のクロッキーを一枚一枚めくって丹念に見ていた。
開け放された窓から涼風がアトリエを通り抜けている。庭の大きな柿の樹の葉がさやさやと音をたて、夏の光が葉かげで踊っていた。
久しぶりの晴れ間の日曜日とあって末っ娘の敏子も、隣りに住む長女夫婦や小学生の子供たちと新宿のデパートに先ほど出かけていったばかりだ。家の中には愛犬ケロと向井明だけだった。
いつもは弟子の吉本が一緒にデッサンをつきあっていた。それが昨夜のこと、鎌倉の姉の家に急用で行かなければならなくなったからという電話があった。
久しぶりに二人だけで対面して描く由紀と、いつも第三者を交えて描く気分の変化はどんなものかなどと想像しては由紀の若いなめらかな肌の動きなどを想像していた。だが由紀の来る気配はなかった。
モデル台に横たわりうっとりとうたた寝のようなポーズの由紀の肌は静かに息づいているが、一点をみつめた瞳は濡れて、いつもの輝きとちがった光を放っている。
サッサッと向井明は真剣に描き続ける。紙の上を走るコンテの音だけが静かなアトリエにかすかに流れた。
ときおりいつまでもモデルの陰影をみつめては中指でシュッ、シュッとこすり陰をいれていった。
モデルのポーズタイムは二十分にしていた。そのあと二十分ほど休憩するというのが向井明のやりかたであった。
そのタイムを弟子の誰かが計っている間が、向井明と一緒に勉強できるということになる。
その二十分ポーズで向井明は三枚はきれいに裸婦像を仕上げていた。
二十畳ほどのアトリエの中には大きなイーゼルや、描きかけの風景画や裸婦像などが、周りに掛かっていたり、立てかけられていた。本棚には、ぎっしり画集がつまっている。
モデル台の周りには大きな鏡が置かれ、三脚にとりつけられた、ライトなどが雑然と置かれてあった。
向井明の腰かけている周りには油絵具や、水彩絵具類やパレットナイフが雑然と置かれ、絵筆が缶や花瓶などに混然と入れられている。
ときおり向井明は鏡の方にチラチラと視線を向けたが、すぐ裸婦に眼をうつした。
鏡には由紀の丸い尻が映っているからだ。
露をふくんだ肌の稜線をたどって進むと丸い丘陵のような臀部だ。その下にはピンクに染まったクレバスがチラリと見えて、そのあたりにチラホラ若草が息づいていた。
向井明はのどをならした。四枚目のデッサンが終わると、さすがに疲労の色が顔に出ていた。
「ハイ、ごくろうさん」
一息ついて、今描いたスケッチブックを足もとの床に置くと、フキサチーフを手にとってデッサンした絵にシューッとかけた。
コンテや、鉛筆の色止めである。
由紀はモデル台からゆっくり体を起こすと、足元のガウンを肩にかけて立った。
そのまま向井明の座っているほうに進んでくる。
(今日の由紀はどうしたのだ)
いつもはテーブルの向こうでガウンを着ると、女の子らしく、
「お茶をいれますネ」
言いながらキビキビと行動していたものだ。
由紀の顔は上気して瞳は燃えていた。
向井明は何も言えなかった。今日の由紀は挑発的でセクシーだ。清純な妖婦のようだ。向井明の前にたちはだかり、大きく脚を広げ、彼の太腿に腰を沈め、首に両手を巻いて呻き、自分のぬめりとした唇を頬や首すじに這わせて腰を揺すり身悶えていた。
あらたな官能が向井明の体の中を疾り抜けた。
火のような由紀の吐息に向井明の血は熱くふくらんだ。ジーパンにとじこめられた股間の性器がぐいぐい漲り痛いほどであった。そのうごめきは由紀の濡れた秘唇に伝わっているはずだ。
「ああん……ああ…」
由紀は腰をもみながら彼のジッパーを引きおろすと首に絡めていた片手を離し、向井明の猛りたった性器を掴み出した。
「わア、大きいんだ。ステキよ、お口で愛してあげる」
由紀は裸身をさらし向井明の前に跪いて股間に顔をうめると、チロリと可愛い舌を思ったより巧にポコチンの裏側、つまり亀頭のエラの部分にやさしく這わせ、そのあとアリノトワタリを舌端が静かに這いまわる。右手の平にはタマタマをのせ、いらっている。
「あ……いい」
眼を深く閉じた向井明の口から何度かよろこびの声が洩れる。
由紀の左手は男根をささえてゆるやかに上下に愛撫していた。
向井明は由紀の黒髪を撫でながらのけ反っていた。由紀の口がすっぽりと亀頭を含んでいる。向井明は思わず腰をまるめ、上気した由紀の顔を両手ではさみ、浮かした腰を律動しはじめた。
「ああ……いい……はじけてしまう、由紀の口の中に……いい」
おもいきり由紀の口から男根を抜いた。
「いやん、もっと愛したいィ……」
由紀の眼は潤み、口のまわりは唾液で濡れて淫らに見えた。
そんな由紀の顔が愛おしいと思った。
向井明は椅子から立つとブラウスを取り、ジーパンも脱ぎ捨てた。
怒張した男根は由紀の唾液にまみれて輝いて、まだ上下に揺らいでいる。
「先生のって太くて大きいィ」
愛おしげに手をかけ、顔は向井明を見上げていた。
「どうして大きいとわかる?」
「よくわからないけど、そんな気がする。先生はカサブランカだって噂よ。バー『ポエム』でお客さんが話してたの聴いたことある」
「それはジョークだよ」
「カサブランカって傘のように大きいことなの……」
向井明の周りに集まる編集者のジョークが伝説のように流れていたのは事実であった。
由紀の裸身を抱き寄せると椅子に腰を浮かせて座った向井明は由紀の太腿を開かせた。疼きの残っている由紀は、熱っぽく向井明にすり寄せると厚い胸に抱きついてまだ腰を揉んでいた。
向井明の手はゆっくりと由紀の背を愛撫しながら腰に移る。その手は尻に下がり、尻臀を両掌でつかみ、ぐいっと引き寄せた。
静かなアトリエには交互にかわす吐息が激しく昂まっていたが、アトリエを吹き抜ける風がそれを呑み消して過ぎて行った。
向井明はゆっくりと今度は揉んでいた手を離し、乳房に唇を這わせると、固くなった乳首を舌先でコロコロころがしはじめた。
「あーン、ああ……」
由紀は両手で向井明の肩をつかみ、上体を反らして腰をよじってくる。
そのたびにカサブランカが由紀のカッと開かれた股間の熱い沼のような花唇をなぞることになった。
「もうだめ、きて……ああン……」
由紀の眼はうつろであった。頭を左右に振り、ぶるっと身震いをひとつし、唇を噛む。
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