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赤松光夫    あそび妻

目 次
1章 もんぜつ同窓会
2章 ねやしごき
3章 盗まれたいの
4章 夜の蝶遊び
5章 絶頂パーティ
6章 あっぱれ女房

(C)Mitsuo Akamatsu 1986

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   1章 もんぜつ同窓会

     1

 空はコバルト・ブルー。褐色の草原の中に一本の滑走路が走っている。
 その滑走路に降りたったYS11型機の昇降口からタラップを降り、桂木桐子は、懐かしい親友三浦美和子の出迎えに気づいた。
 もう何年目であろう。
 高校を卒業してすぐ桐子は、父の転勤で東京に転居して、それ以来である。
 いや、今は二人ながら結婚しているものの、美和子は、もう子供を二人もかかえ、しかも田舎街の料亭の女将として、ちゃんとやっている。
「わあ、桐子も変わっちゃったわねえ」
「なによ、あなたの方こそ――」
 十三年目の再会だけに、桐子は、その空白を埋めるのに多少時間がかかったが、美和子の運転する車に乗り込んだ時には、もう昔の二人にかえっていた。
「それで、桐子は、今もって出張未亡人?」
「そういうこと。亭主は、お正月も帰ってこなかったわ」
「それじゃ、もう三カ月近くご無沙汰なのね……」
「そういう訳……」
「可哀想に……。じゃ、田舎に来たついでに少し羽根をのばして帰るといいわ」
「そうもいかないでしょう」
 コートの肩を桐子はすぼめたが、久しぶりの故郷は懐かしくもあり、また明日の同窓会に集まる面々の顔を待ちこがれる思いがつのった。
 その夜、桐子は、美和子の経営する料亭〃鈴の屋〃で泊めてもらうことになっていた。
 二人は、小学校以来の親友である。
 さて、久しぶりの再会を祝って、美和子と桐子は、その夜、杯を重ねた。
 どちらも多少は飲める。
「ねえ、桐子、あなたの初恋はたしか中学時代だったわね。ほら、野口クン。今彼は、お医者さんになって、街で開業しているのよ。あれから逢ったことがあって?」
「いいえ……」
「そう、ずいぶん変わったわよ。二年前結婚したんだけど、その奥さんは、ミスなんとかっていう美人なの……」
「ヘッー……」
 と、いったものの、桐子は、心中おだやかでないものがあった。
 実をいうと、桐子が、田舎の小・中学校時代の同窓会に出席しようと思ったのも、その彼に逢ってみたいと思う気持ちが強かったからである。
 つまりその彼が桐子の初恋の人であり、そのことは美和子も知っていた。
「実はね、今夜、彼を呼んであるの……」
「呼ぶって……」
「気をきかせてあげたのよ。昔だって、わたし、桐子のためには、いろいろと気をきかせてあげたでしょう」
「………」
 突然、少し酔っぱらった美和子が、そんなことをいいだした。
「それ、どういうこと?」
「桐子が、淋しいだろうと思って、とぎの男性として頼んであるの。いいでしょう」
 アルコールでポーッと赤い桐子の頬が、なお赤くほてった。
「じゃあ、そろそろ、お風呂に入って、お休みなさいよ」
「あら、そんな、困るわ――」
 と、いったものの、桐子は、胸をときめかせ、同時に美和子の配慮に感謝せざるを得なかったが、今は人妻、そんなあからさまな顔はできない。
「あら、ダメよ。なにいってるのよ。今はこれでれっきとした人妻なのよ。そんな不倫なことができて――」
 と、いい、冗談にまぎらわせるように炬燵をでて、
「ダメ、ダメ――。話する程度ならいいけど……。ほんとにダメよ。じゃ、お風呂に入れさせていただくわ」
 と、桐子は席を立ったのであった。

     2

 風呂場は、茶の間から廊下をへだてた向こう側にある。
 料亭といっても客は宴会のために来ている訳ではない。それだけに、至極閑静である。
 つまり芸者と寝ることを目的に来る客がほとんどで、ほんの口よごしに一杯飲んで、それから布団を敷いてある部屋に行き、目的を達して帰るというためにあるような料亭である。
 もちろん、宴会もあって、ドンチャンと賑やかなこともあるが、店そのものは、十数年前、まだ桐子が、高校生であった時代とさ程変わってはいない。
 桐子が、風呂に入る直前にも芸者とつれの男が風呂を出ていった。
 なんとなく夫と別れ別れの生活をもう三カ月近くも経ている桐子の体は、なにかを求めてほてるようであった。
 本気で美和子は、あんな夜伽の話などしたのだろうか。
 冗談なのだろうが、もし頼めば、本気で彼女は、そうしてくれるかも知れない。
 誰にも知られなければ、一夜、この体を男の肌で癒やしたいとも思う。いや、そのためには野口クンはかけがえのない相手なのだ。
 白い肌、むっちりした脚、腰、そしてふっくらした胸の乳房にたっぷりとシャボンを塗り、洗いながら、桐子は、彼が欲しいと思った。
 そして、いつかあの遠い昔、処女を失った夜のことを思い出していた。
 それは、彼女が高校三年の冬休み、卒業と同時に父親の転勤先の東京へ一家をあげて移ることが決まってしばらくたった日のことである。
 正月六日、桐子は、晴れ着姿で、それまで稽古に通っていたお茶の先生の初釜に参加した帰り道、ボーイ・フレンドの野口とデートした。
 その日、初めから桐子は、自分の一番大切なものを彼にあげる決心をしていた。
 恐らくこの機会を逃せば、二度とそんなチャンスはないだろうと思ったからだ。
 たまたまその日、野口クンの家では、一家で親戚の新年会に出かけ、受験を間近にひかえた彼だけが、留守番をしていた。桐子にすれば、振り袖の晴れ着姿で、薄化粧して、口紅もつけたそんな姿で、できることなら自分の一番大切なものを彼に与え、記念すべき日にしたかった。
「……東京へいったら、もう二度とお目にかかれないかも知れないわ。いいの……。わたしの初恋の人ですもの。後悔なんかしないわ。あなたにあげないで、誰にあげるというの……」
 そういいながら、桐子は彼のベッドに横になった。
 今から思えば向こう見ずで大胆な行動であったけれど、その時は、二度と逢えないかも知れないとかなり感傷的になりながら、また一方で、本当は、それほど切実には、別れを感じていなかったフシがあった。
 むしろ、今までのようには逢えなくなるから、もっと二人の間のきずなを強くしておきたい、そんな気持ちで彼に求めたようであった。
 しかし、その後現実の方が、きびしく、本当に二人は、別れ別れの人生を歩むようになったのだ。
 だが、あの夜のことは、まだ桐子の脳裡に鮮やかに去来する。そして肌は、まだ想い出すと熱くなるほどに覚えていた。
 その野口に明日は十三年ぶりに逢える。そんな思いがあるだけに、もし今夜、彼が来てくれるなら、それは、もう夢の実現のようなものであった。
 風呂を出ると、寝室に案内された。恐らくその部屋も芸者衆に利用されているのだろう。なまめいた屏風があり、床におうなの掛け軸がかかっている。
「ねえ、桐子、あたしの好意受けるでしょう」
 寝巻の浴衣に着がえていると、美和子が入って来て、なお問うた。
「好意って?」
「まどろっこしいのね。あたしは、昔のあなたのことなんでも知ってるのよ。じゃ、いいわ。今夜、あなたの部屋に誰かが入って来るわ。でもその人、決して言葉をかけないわ。だからあなたも無言で過ごせばいいの」
「そんな――、困るわ」
「困る人じゃあるまいし――。じゃ、すべては、無言――。夢をみていたと思えばいいのよ。じゃ、ビ・サイレント――」
 そういうなり、美和子は、
「じゃ、お休みなさい」
 と、枕もとの電気スタンドを片づけ、全部の電灯のスイッチを切って部屋を真っ暗にしてしまった。
 桐子は、美和子の行為が本気らしいことに、暗闇の中で、息をひそめた。
 とてもこのまま眠れそうにはない。
 もしあの人が来てくれたら……。そう思うだけで、胸が、息苦しく、全身がたかぶって、喉はカラカラに渇いてくる。だが、それは、また甘美な苦痛でもあった。
 それから二十分ほどして、桐子は、廊下の足音を耳にして、息をひそめた。その足音は部屋の襖の前で停まった。


 
 
 
 
〜〜『あそび妻』(赤松光夫)〜〜
 
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