赤松光夫 うわき妻
目 次
うわき妻
盗みの愉しみ
テクニカル飛行
おあとで失礼
ボディ・ジャック
ああ愛妻族
(C)Mitsuo Akamatsu
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うわき妻
1
『八月三日、浜辺に出ると、向うに昨夜の彼がいる。サングラスをかけていてもひと目でわかる。
たくましい肩や胸。日灼けした肌は赤銅色に光り、しかもあの胸毛がたくましい。
わたしが、水着姿で近づくと、まぶしげに腹ばいになったまま見上げる。
わたしは肩に羽織ったリゾートウエアを脱ぎながら、彼のパラソルの中に入り、腰をおろすと、彼は、わたしの太腿にそっと手を乗せ、当然のように膝枕をしながら、股の愛撫をつづける。
まるで外国映画のようだ。
誰も知らない男と女。昼さがりの情事は、見られていることにむしろ刺激がある。
「……タベはいかが……」
「おいしかったわ……」
彼のたくましくも強靭なバネを感じさせる太い腿にピッチリとフィットした水着の中ですでに彼のものが、息づいている。
ああ、なんてたくましかったことでしょう。
十五センチ、いいえ、それ以上だったのではないでしょうか。
しかも固くひきしまり、スーッと侵入したかと思うと、ぐっとモリで引き出す感じ。
想い出すだけで、わたしの肌が紅潮しそう……』
いや、もうそこまで読むだけで何度、桐野は狂い出しそうになったことか。
それも当然だろう。一年二カ月ぶりに単身赴任のヨーロッパから戻り、ふと妻の留守になにげなく机の中をさぐっていて、鍵を見つけ、その鍵で錠のかかっている抽出を開け、中にあった妻の日記帳を開いて、桐野は失神しそうになっていた。
悪いと思いながらなにげなく覗いた日記帳に、そのような情事が、妻の手によって綿々と綴られている。
それは、まるで肉体の遍歴日記とでもいえるもので、日付とともに交情の模様がこと細かに記述してある。
しかもその海辺の男だけではない。
学生、サラリーマン、教授、社長、つぎからつぎへと、まるで売春人妻のように相手をかえている。
『「あら、社長さん、どうしたの?」
というと、
「どうも近頃、すぐなえてしまうんだよ」
と、悲しそうな顔をする。
「じゃ、あたしが、元気出させてあげますわ」
そういい、起きあがって、手にすると、さすがに骨なしクラゲの感じ。頼りないことおびただしいし、こちらの気分までそがれてしまう。
それでも、なんだか可哀相で、口にふくみ、舌で上下に、それから特に裏側を入念に掃くようになめるとみるみる情感を催して来た……』
などという記述もあり、もうすごいのなんの、ポルノ記事の比ではない。
第一に、それが自分の妻の日記だけに、桐野は嫉妬に狂い、妄想の虜になると、だんだんに心臓の鼓動も怪しくなる程であった。
桐野は三十歳。妻の恵は二十六歳、主婦である。
桐野は電機メーカーの営業マンであった。
二人は恋愛結婚をしたが、たしかに妻の恵は男好きのする体をしている。
中肉中背ながら、彫りの深い美人でしかも肉感的、男性にもてても不思議はないプロポーションをしている。
しかし、それほど簡単に夫を裏切る女だったのだろうか。
信じられなかったが、新婚早々の女にとって一年二カ月の別居は長過ぎたのかも知れない。
その間、彼女はパートの勤めに出てもいたし、身をもてあまし、こうして男狩りをしていたというのだろうか。
それにしても最も近い所では、彼が、帰国する三日前にハントした男性は、なんと十七歳の高校生坊や……。
『……体格は一人前だし、なんとなく男臭いが、裸にするとふるえているところが可愛い。
さっそく乳房にむしゃぶりついてくるし、
「アア、痛い!!」
と思わず口走ってしまう。
「ぼく、知らないんだ。オバさん、教えて……」
はにかみながら、そういう所は、スレた男どもより可愛くて、なんでもしてやりたい感じだが、少々わずらわしくなる。
第一に、いざという時になって、
「ねえ、これ、なんだっけ?」
などと、質問されると、つい気が散って、ついつい、夢心地から引きもどされて、とうとうこちらはいかずじまい。
「じゃ、明日またよ」
と、念を押して帰したが、あとにモヤモヤが残り、しかたなくスナックでひとり酒を飲んでいると、中年男が、話しかけてくる。
それで、ご一緒することになったが、やはり、中年男のテクニックは、憎い。
アッという間に昇天させられて、遂に二度の挑戦をあっさりこなしてしまう』
と、いうことになっていた。
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