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南里征典    欲望重役室

目 次
重役室の名花
愛人志願の女
美貌社長の欲情
蜜の罠
深夜の女唇
牝犬の予感
裸体会議
淫花神殿
社外重役の女
片巻貝の女
肉の大団円
野望の着手

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   重役室の名花

     1

 退社間際に、電話が鳴りだした。
 武蔵電機の営業第一課長、秋山慎太郎が卓上の受話器を取りあげると、
「わたしよ。美希子だけど……」
 電話は、武蔵電機の名花といわれる重役室秘書の有森美希子からだった。
「今夜、どう?」
 美人秘書は、素直に訊いた。
 どう? というのは、金曜の今夜、秋山とのアフターファイブの密会のことである。
「ああ、いいね。何時に?」
 秋山は卓上に、うず高く積まれている決裁書類の山を、うんざりした眼で眺めながら、水を得た魚のように張り切って言う。
「七時。場所は新宿のいつものところ、というのはいかが?」
「ますます、結構だよ。じゃ、残業を片付けてからすぐ駆けつけるから、先にシャワーでも浴びておいで」
 重役室の有森美希子と秋山は、いわばそういう仲であり、美希子は今夜、何か別の用事もあるらしい雰囲気であった。
「わかったわ。じゃあ、七時よ」
「必ず行くから、部屋に食事を取っておいてくれないか」
「OK。ばっちり、スタミナ食を予約しとくわ」
 電話は、それだけで終わった。
 秋山は、さて……とばっちりスタミナ食を摂取しての今夜のアフターファイブに大いに期待して、やり残しの卓上の仕事に猛烈に取り組みはじめた。

 夜七時に、二人は宴の場所にいた。
「片巻貝の女、まだ見つからないの?」
 ラブホテルの大きな円型ベッドの上に、若々しい裸の肢体を伸びやかにうつ伏せにして、有森美希子が訊いた。
 秋山はシャワーを浴びてきたところで、ベッドの端に腰をおろしてバスタオルで頭髪をごしごし拭いている。
 美希子は、武蔵電機の名花といわれる通り、うつ伏せになった姿態も見事で、ウエストが糸でくくったように締まり、ヒップが豊かに張っていて、弾むように豊満であった。太腿もミルクを塗ったように、ぬめらかに張りつめた肌をしていて、足首がかもしかのように細い。要するに、一刻も早く仰むけにして、ふるいつきたくなるぐらい、セクシーな身体なのであった。
 それなのに、秋山はまだ行為に入ってはいない。
 ホテルに駆けつけてすぐ、二人分のうなじゅうに肝吸いをたいらげ、風呂からあがって、さて、と張り切っているところに、片巻貝の女のことを尋ねられて、秋山はいささかおあずけを喰った気分で、
「それがねえ、なかなか、見つからないんだよう」
 頭にあてていたバスタオルを丸めて、ぽい、とサイドボードに投げる。
「今までに何人ぐらい、あたったの?」
「さあて、十二、三人かな。いや、それじゃきかないくらい抱きまくったよ。いずれも、これは……と見当をつけた女ばかりだったんだけどね、どれも片巻貝ではなかったな」
「変ねえ。じゃ、片巻貝の女、武蔵電機の関係者じゃなかったのかしら」
「そんなことはないだろう。社長と交渉のあった女なんだ。必ず会社の内部か、あるいはその周辺にいるはずだよ」
 秋山慎太郎はそう答えながら、美希子の肩にチュッとキスをし、ボディラインに手を這わせてゆく。
 今、二人の間で話題に出ている片巻貝の女というのは、女性の秘められた場所の、ある特殊な構造のことである。
 その構造の性器をもつ女性は、きわめて少ない。
 秋山は今、その女性を探している。
 片巻貝の構造について、有森美希子がいつぞや説明したところによると、女性の内陰唇にあたるびらつき部分が、えらく発達して肥大化し、肉紐のように膨れあがっていて、片側の内陰唇を覆いつくし、巻き込んでいる女のことだそうである。
 それは一種の名器であって、この種の女性は挿入する時、ただやみくもに男性を入れようとすると、片側の花びらが巻き込まれて痛がるようである。
 けれども、その覆い被さっている部分を指でめくって挿入すると、佳境に入るにつれ、片巻貝の肉紐が男性の道具にねっとりと絡みついてきて、もいわれぬ感触だというのである。
 その得もいえぬ名器のびらつきの構造に巻きつかれて、がんばりすぎたかどうか、武蔵電機の社長、種村重義が五か月前の一月上旬、都内のあるホテルの一室で急逝した。
 性交中の急死なので、いわゆる腹上死である。
 ところが、その部屋から肝心の相手の女性が消え、同時に武蔵電機にとって大事な機密書類がなくなったのである。
(もしかしたら、女産業スパイ……?)
 重役室は色めきたった。いずれにしろ、探さなければならない。探すといっても、片巻貝の場所が場所だけに、女と寝る必要がある。
 そこで、事態を重視した武蔵電機の重役は、ニューヨークに赴任中だった社内きってのプレイボーイ、秋山慎太郎を営業第一課長という肩書をつけて、急遽、日本に呼び戻したのである。
 秋山慎太郎は、優秀な企業戦士であると同時に、社内でもナンバー1といわれるほどのいまなりひら、今様ひかるげんであり、マダムキラーであり、女の道にかけてはエキスパートなのである。
 加えて、急死した社長、種村重義の隠れた落としだねでもあった。
(これほどの適任者はいない――)
 そこで、社長亡きあとの会社を運営する重役室の実力者、前田常務は、
「秋山君。きみ、通常の仕事の傍ら、腕によりをかけて片巻貝の女を探してくれないか」
 そういう密命を与えたのである。
 それ以来、秋山は頑張っている。
 目的にむかって、まいしんしているのである。
 今、美希子に話したように、社内のOL、取引先の女、種村社長の愛人だった女優、株主未亡人など、これはと思う女を次々に口説いてベッドインし、女性のしかるべきところを調査し、その数、十数人にのぼっているが、ただ今のところ、まだ秘められた片巻貝の女は発見してはいないのである。
 どうやら、重役室秘書の有森美希子は今夜、その幻の女探しの情勢把握と、督促をかねて秋山慎太郎をホテルに誘いだした趣きがあった。
「チッキショーッ、けるな」
 秋山がいささかのジェラシーを感じたのは、この美人秘書、どうやら前田常務のお手つきとなっている女らしいからである。
 おれと仲よくしているのも、もしかしたら前田常務のさしがねかもしれんぞ、と秋山は考えた。
 そうすると、いっそう胸にねたましさが充ちてきて、今夜はこの美人秘書を徹底的に抱きまくってやるぞ、と心を新たにした。
(そうさ、腰を抜かすまでやりまくってやる。このお上品な知的美人が、腰を抜かして、壁を両手でつたわなければ歩けないくらい、やりまくってやる)
 秋山は広い円型ベッドにうつ伏せになったままの美希子の背中に覆い被さり、肩から背中へと、キスを移していった。
 
 
 
 
〜〜『欲望重役室』(南里征典)〜〜
 
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