丸茂ジュン 人妻 獣の匂い
目 次
第一章 妻の秘密
第二章 愛人と夫
第三章 メスの疼き
第四章 苛めて
第五章 新鮮な悦び
第六章 レズ・シーン
第七章 禁断の夜
第八章 求め、燃える
第九章 蠢くおんな
第十章 潤んだ花唇
第十一章 嫉妬の果て
第十二章 妻の誤算
(C)Jun Marumo
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第一章 妻の秘密
1
「呆れたな。君が人妻だったなんて……」
約束より少し遅れてホテルの部屋に入ってきた志垣は、手に持っていた上着を、沙織の坐っているソファに叩きつけるように置くと、真っすぐ沙織を睨みつけ、低い声で言った。
目が血走っている。足を組んだまま、タバコをふかしながら、志垣を見上げ、
「どうしたのよ。やぶからぼうに……」
と言いかけたが、すぐに志垣の「まだとぼけるつもりか!」という怒鳴り声に遮られた。
「知ってるんだよ、もう……君がライバル社の営業部長、安岡氏の令夫人だってことはな。驚いたよ。確かに苗字は同じだが、まさか四十過ぎのあの男の妻が、二十四歳の君だなんて、想像もつかなかった。それに、君は結婚してるなんて言わなかったし……」
「言う必要なんてないでしょ? あたしとあなたの関係に、安岡は関係ないもの……」
「そうかな? 偶然にしては、出来すぎてるじゃないか。いったい、どんな魂胆があるんだ。君に……」
「魂胆だなんて……バカバカしいわ。でも、そう……バレちゃったの? 調べたのね」
開き直ったように、沙織は真っすぐ志垣を見上げながら言った。人妻であることを彼に知られたくはなかっただけに、多少は動揺している。しかし、どうせいつかは判ることという覚悟は、沙織の中にあった。それだけに、志垣の目には、沙織は落ち着きはらっているように見えるかもしれない。
「ああ、君に夢中だったからね。君をもっと深く知りたいと思った。それに、正直言って、あのスポーツ・カーを君に売りたかったんだ。ウチの社は、一応、契約前にお客さまのことは内密に調べるんだよ……特に高級車を売るなんて時はね」
「なるほど……そういうこと……会社で調べてもらったの……じゃあ、みんな呆れたでしょうね。T社の営業部長の妻がN社の車を買おうとしてるなんて……」
「みんななんか知りゃしないよ。一応、顧客のプライバシーは担当が管理することになってるし……ただ、オレに報告した奴は言ったね。ひやかしでしょうねって……そりゃそうだろう? T車の営業部長夫人がN車のスポーツ・カーを買うなんて、あり得ない」
志垣は、沙織を睨みつけたまま断言した。
「魂胆だの、ひやかしだのって……ずいぶん、疑い深いのね。何なら、本当に契約してあげましょうか? あなたがその方が喜ぶんなら、私はいいわよ。ただし、お金払ったら、すぐに中古車として引き取っていただかなきゃならないけど……」
「バカバカしい……本気でそんなことを言ってるんなら、君は狂ってる」
吐き棄てるように言い、志垣は沙織から目をそらした。
「狂ってる……そうかもしれない。だって、あなたが好きなんだもん。恋って、一種の狂気よね。あなたが喜ぶんなら、あたし、何でもしてあげたいの」
歌うような声で、沙織は言った。
「よく言うよ、人妻のくせに……何か狙いがあるんだろう? ちゃんと言えよ」
志垣が、沙織の腕を掴んだ。
「ないわ。あなたが好きってだけ……」
「それだけじゃないだろう?」
「それだけよ。いけない?」
真っすぐ志垣を見返し、沙織は言った。
「誰がそんな言葉を信じるもんか。偶然じゃないんだろう? モーター・ショーでN社のスポーツ・カーに興味を示して、オレに説明を求めたんだもんな、君は……。T社の有能営業マンの妻が、どうしてN社のオレに近づくんだよ。おまけに、一週間後、オレの行き付けの六本木のスナックにまで来て……あれも偶然だって言うのか?」
沙織の腕を掴んだまま絨毯の上にしゃがみ、志垣は沙織の顔を覗き込んで、詰問するように言った。太い眉が男らしい。年齢の差と言ってしまえばそれまでだが、やはり二十代の志垣は、四十代の夫よりずっと野獣の匂いがする。それが、たまらなくセクシーだ。
「お願いだから、そんな怖い顔しないで……いいから隣に坐ってよ。二人きりなんだもん。そんな大きな声出さなくても、ちゃんと聞こえるわ。それに、あたしが安岡の妻だったらどうだって言うの? あたしの魅力がなくなる? もう抱きたくもない?」
掴まれているもう一方の手を伸ばし、マニキュアを光らせた指を、志垣の手に絡ませながら、沙織は甘え声で言った。このマニキュアも化粧も、夫を会社に送り出した後、志垣のために丹念にしてきたものだ。
「その質問に答える前に、オレの質問にちゃんと答えろよ。オレに意識的に近づいたのは、どうしてなんだ。偶然じゃないだろう?」
厳しい顔で、志垣はさらに訊き返す。
「そうね。スナックに行ったのは、偶然とは言えないわ。あなたに逢いに行ったのよ。でも、モーター・ショーは偶然……バレたから言うけど、あの日、あたしは安岡にもらった切符があったから、ヒマつぶしにモーター・ショーへ行ったのよ。別に安岡に逢いに行ったんでもなければ、T社の車を見にいったわけでもないけど……安岡はあの日、会場に来ないことを知ってたし、あたし自身、もともと車には、たいして興味はなかったもの。ただ、あなたにひかれたの。若いのに、何だかとっても一生懸命で、車なんて買ってくれそうもない客のつまんない質問にも笑顔で応えて……ああ、こういう男と一度寝てみたいなって、ふっと思ったのよ。あたしって、そう思うともうダメなの。フラフラッと近づいてっちゃって……自分の立場なんか考える余裕もなくなっちゃって……」
「冗談じゃない。オレは、そんな色男じゃないよ。自慢じゃないが、これでも硬派でね。街で女に声をかけたこともない。恋人だっていない。社会に出てからはずっと仕事一筋だった……少なくとも、君とこうして特別な関係になるまでは……」
「あたしといるのが楽しかったんでしょ? なら、いいじゃない。あたしが安岡の妻だからって何も変わらない。変える必要もないのよ。ねえ、抱いて……」
言いながら、沙織は志垣に身を擦り寄せた。体がたまらなく志垣を欲しがっている。もう我慢できないほどだ。
「しかし……オレはやっぱり……」
志垣の方も、恐らく肉体的には沙織を欲しがっているのだろう。押し殺したような声で呟きながらも、しなだれかかってきた沙織をはねのけようとはしない。
沙織は、志垣の顔をゆっくり自分の方に向けさせると、彼の唇を軽く吸った。そして、いったん離してから、また誘うようにゆっくり唇を彼の方に近づけていく。
志垣が、荒々しく沙織を抱き締め、唇を重ねながらソファに押し倒したのは、次の瞬間だった。
2
志垣は、無言のまま沙織の花唇を指でまさぐっている。いつもよりやや乱暴な手つきだ。しかし、すでに志垣を欲しがって濡れ始めていた沙織のそこは、沙織自身も驚くほど敏感に彼の愛撫に反応している。
「あっ、うう……あううう……」
沙織の口から、熱い吐息が洩れた。体が小刻みに震え、オルガスムスに似た軽い陶酔が、続けざまに沙織の全身を包み込む。
「オレが、ホントにそんなにいいか?」
ふいに、志垣が低い声で言った。
「いい……好きよ。だからこんなに……判るでしょ? あたしの体が証明してるわ……あっ、あああン……あなたのも……」
沙織は、上ずった声で言いながら、志垣の股間に手を伸ばしていた。
彼はまだズボンを脱いでいない。しかし、ズボンの上からもはっきりと判るほど、彼の男は硬く怒張していた。
「オレとのセックスが好きなのか?」
いつになく、志垣はストレートに訊き返してくる。沙織が安岡の妻だと知って、やはり彼の中では何か変化があったのだろう。口調も、愛撫の仕方も、この間までの優しさはまったく感じられない。まるで、セックスしながらも沙織を詰問し、責めている感じである。
だが、それがまた妙に刺激的だ。沙織は、いつも以上に昂奮している自分を感じた。
「ええ、好きよ。あなたとセックスしてると、女に生まれてよかったって思える。妻なんて仮面をさっさとはずして、女に戻れるんだもん。ステキよ……ああっ、もっと……もっと乱暴にしていいわァ」
体をくねらせ、腰をせり上げながら、沙織は叫んだ。声のオクターブがまた少し上がっているのが、沙織自身にも自覚できる。
「まったく、なんて色っぽいんだ。もう二度と抱くもんかと思って来たのに……」
志垣は舌打ちしている。だが、沙織から離れようとはしていない。恐らく、彼の中で理性と欲望が激しく葛藤しているのだろう。
「ねえ、しゃぶらせて……あなたの……理性なんか追い払ってあげる」
沙織が、ふいに体を起こして言った。
「いいよ、そんなことしなくても、オレのはもう充分立ってる。ただ……」
「いいから……させて……しゃぶりたいの」
とまどっている志垣を、逆に強姦でもするように、沙織はズボンを脱がせた。そして、雄々しい姿を現した彼の男根に、いきなりしゃぶりついたのだ。
志垣とベッドを共にするのはこれで五度目だ。しかし、沙織が彼のものを口に含んだのは、これが初めてである。それだけに、志垣には、よけいに刺激的だったのだろう。
「ううっ……よせ……」
沙織に含まれた瞬間、志垣は、唸るような声で言った。
しかし、沙織の口の中に根元まですっぽり含まれ、小刻みに動く舌に刺激された志垣の分身は、その時点からもう明らかに悦んでいる。硬さも太さもグーンと増し、ヒクつきも激しくなってきているのが、沙織にもはっきり伝わってくるのだ。
そして、数分もたたないうちに、志垣自身の口からも喘ぎが洩れ始めた。
「もういい……君の中に入りたい」
かすれ声で、志垣が言った。
沙織は、素直に志垣のそれを離した。彼のものを口に含んでいる間も、沙織のヒダはずっと彼のものを求めて、ヒクついていたのだ。
「今日はバックからさせてくれ……君の顔を見ながらするのが、何だか怖い」
仰向けになって足を大きく広げた沙織に、志垣は低い声で言った。
どうやら、彼の中ではまだ葛藤が続いているようだ。
「バックはイヤ……バックって痛いもの」
沙織は、思わず首を横に振った。出来ることなら、彼の言うとおりさせてやりたい。だが、本当に後背位は嫌いなのだ。夫とも何度か試みたが、どうしてもなじめず、今では夫にもこの体位だけは許していない。
「こんなに濡れてりゃ、痛くなんかないさ。オレが好きなら、言うとおりしろよ!」
イライラした調子で、志垣が怒鳴った。
「でも……」
さらに拒否しようとした沙織を、志垣が強引にうつ伏せにさせたのは、次の瞬間だった。
「あっ、イヤ……やめて……」
わずかに沙織は抗ったが、無駄な抵抗だった。うつ伏せにさせた沙織の尻を、志垣が後ろからグッと持ち上げ、そのまま一気にいきり立ったものを……。
「あぐっ、ぎゃううううっ……」
沙織は、悲鳴に近い声を上げ、のけぞった。やはり、入ってきた時の感触は、正常位とはまるで違う。角度のせいもあるのだろうが、いつもよりずっとキツイ感じだ。しかし、新婚当時、夫にされた時のような痛みは、不思議になかった。
「ほら、イヤだなんて言いながら、ちゃんと締めつけてきてるじゃないか」
根元まですっぽり沙織のヒダの中に収めると、志垣は動きを止め、勝ち誇ったように言った。
「ああっ、でも、キツイ……イヤよ、怖い。ねえ、顔見せて……志垣さん、あああン……」
向き合った体位なら、かなり大胆なポーズも平気な沙織である。しかし、こうやって後ろから見られ、犯されていると思うと、たまらなく恥ずかしい。
沙織は、今にも泣き出しそうな声で哀願した。
「そうやって、セックスの時恥ずかしがる君、初めて見たな。初々しいよ、とっても……これが人妻だなんて、信じられない」
皮肉ともとれる口調で、志垣は言った。言いながら、指を沙織の前の部分に滑り込ませ、クリトリスをゆっくり撫で上げた。
「あっ、あああン……」
痺れるような快感が、沙織の全身を走り抜けた。すでに愛撫を受け、敏感になっていたそこは、ちょっとした刺激にも弱い。おまけに、ヒダの間には彼のものが、バックからスッポリ埋まっているのだ。
「女がバックを嫌がるのは、この刺激がなくなるからなんだ。クリちゃんを、こうやっていじりながらやれば、正常位よりずっと感じるはずだよ」
耳元で志垣が囁く言葉が、妙に鮮明に沙織の頭の中で響きわたっている。そして、それが暗示にでもなったのか、また沙織の体が小刻みに震え出し、快感が増してきている。
「あっ、あっ、あああああっ……」
志垣にズーンズーンと続けざまに子宮を突き上げられ、沙織は思わず声を上げてのけぞった。急激に昇りつめていくのが、沙織自身にもはっきり自覚できる。
(こんな、こんな……たまんない。いい、よすぎる。バックなのに、ああ、どうして?)
沙織はとまどっている。
あれほど嫌っていた後背位で、正常位以上の悦びを感じてしまっているのだ。沙織は、自分の体が自分のものではないような錯覚にすら捉われた。
「す、すごく締まる……食いちぎられそうだ。うっ……」
志垣の呻くような声が、今度はエコーのように小さく聞こえてきている。沙織は、獣のような声を上げ、さらにのけぞった。
「ぐっ、だめだ、オレももう……」
志垣の呻くような呟きと同時に、沙織のヒダの奥で迸るものがあった。沙織は完全に昇りつめたままである。
ヒダがまたキューッと締まった。もちろん、沙織が意識的にしたわけではない。しかし、沙織の官能が彼の精液を一滴残らず絞りだそうとした感じはある。後ろで、志垣がさらに低く呻くのを聞いて、沙織は何となく自分が勝ったような気分になっていた。
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