北山悦史 姉弟相姦 肉欲の扉
目 次
第一章 裏切りの肉交
第二章 女教師の秘臭
第三章 甘美な凌辱
第四章 夢見た淫獣
第五章 約束された相姦
(C)Etsushi Kitayama
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第一章 裏切りの肉交
１
巨大に膨脹した真っ赤な夕日がビル群の向こうに見える初冬の下刻時刻――。
校門を出るまで、川島靖之は三浦美菜との距離をとって歩いた。靖之がただ急ぎ足に歩いているとばかり思っているらしい美菜は、靖之が先にすすめばすすんだだけ小走りになってついてきて、結局は一メートルと距離をあけることはできなかった。
生徒玄関から校門に向かう男女は、たくさんいた。だから教員玄関の外で、同僚の教師たちと世間話でもしながらこっちに顔を向けているふうな英語教師、本田朝香の目に、自分たちの姿が見えていない可能性は、十分にあった。
が、それでも靖之は、朝香の目を気にしないわけにはいかなかった。もし今、自分が一人であれば、行動は逆だった。別に用もないのにわざと教員玄関のほうに行くとか、そこまではしなくても、うようよいる生徒たちの間を縫って、朝香の目につきやすい位置を確保し、ゆっくりした歩調で歩いただろう。
美菜と一緒にいるところを、朝香には見られたくなかった。学校の中、廊下とかホールとかで美菜に話しかけられたりするときも、靖之は朝香に見られやしないかと、いつもびくびくしている。そんなところを美菜に気付かれるのもまた望むところではないので、校内ではなるべく一緒にならないようにしている。
本田朝香は、憧れの女性だった。教師になって三年、二十五歳の、輝くばかりの美女だ。靖之が去年、この私立誠光学園高校に入学してきたときから、朝香は靖之の心を引きつけていた。が、クラス担任でもなく、教科担任でもないために、口をきくことすらできなかった。朝香は、一年生の授業を、持ってはいたのだが、靖之の一つ前のクラスと、一つ後ろのクラスを受け持っていた。
（あー、運命のいたずらだあー。おれ、クラス、変わりたいよおー）
みずみずしい、抜けるような色白の肌、胸とヒップがむちむちに肉の厚い朝香が廊下を歩いていく姿を盗み見ながら、靖之は何度〃運命〃を呪ったか知れない。
しかし、運命は靖之を見捨てなかった。二年になるときにクラス替えをしたのが幸運をもたらした。豊満な肉体の本田朝香が、なんと教科担任となったのだった。靖之は、少しでも朝香の目を引くため、猛烈に勉強を始めた。一年のときは、六十〜七十点の成績だったが、二年の一学期中間テストで八十二点、期末で八十六点、そして二学期中間では、なんと九十一点と、うなぎのぼりの成績をおさめたのだ。
そのときのテストは、クラスで三番だった。クラスで三番というと、まわりからは「秀才」あるいはときに、「天才」の呼び方をされたりする。気分のいいこと、この上もない。ほかの教科はさておき、靖之はいよいよ本物の英語の天才目指して、がんばるようになった。発表もよくしたし、朝香の目を引きつけるのに大成功どころか、いつしか靖之はクラスで一番の朝香の〃お気にいり〃にまでなっていた。
順風満帆のような靖之ではあったが、しかし、運命の神は、靖之に喜びだけをもたらしたわけではなかった。新たな苦しみを背負わせたのだ。三浦美菜という一年生の美少女が、目の前に出現したからだった。
靖之が初めて美菜と会ったのは、一学期が終わる少し前のことだった。靖之の男の友達の、中学が同じだった女の友達の後輩が美菜だった。学校帰りに偶然一緒になって、おしゃべりしながら駅に向かった。靖之の男友達とその女の友達は、恋人というほどの関係ではなかったが、よく一緒にいた。そんなこともあって、靖之はちょくちょく美菜とおしゃべりをする間柄になった。
美菜は、十歳年上の本田朝香とはまた違った、透明感の強い白い肌をしていて、とびきり白い、つぶのそろった歯が特徴的な女の子だ。脱色も染めることもしていないが、北欧の美少女のような明るい栗色の髪をしている。全体に色素が少ないのか、瞳も薄茶色をしていて、ふとしたおりに、妖精のように見えることもある。
そんな可憐な後輩と親しく口をきくようになったのが、夏休み間近のことだった。しかし、だからといって、靖之は美菜にぞっこんまいってしまったというわけではなかった。恋人的な存在としてつきあうようになったのは事実だったが、心の大半を占めていたのは、依然として憧れの美人教師、本田朝香だった。
（美菜はかわいい。天使みたいな女の子だ。だけど、朝香先生は、大人の女の魅力を持ってる。どっちか選べ、といわれたら、やっぱり朝香先生のほうだな）
自問を繰り返しては、いつもそんな結論を下す靖之だった。『美菜の肩を抱く』というのと、『朝香先生に肩を抱かれる』というのを比べると、だんぜん『先生に抱かれる』ほうがまさるのだ。人間としても、持っている能力的にも、はるかに自分を越えている本田朝香に甘え、優しくされたい、という気持ちを、どうしても断ち切ることができない。
しかし、憧れの女教師に『肩を抱かれる』というのは、夢でしかなかった。クラスで一番に目をかけられていることはわかっていても、それはあくまでも勉強に関してであり、男と女のことはまったく別問題だ。靖之十六、朝香二十五、という年齢差を考えてみても、当たり前のことではあった。
靖之は、頭の片隅に常に本田朝香の姿をおさめながら、美菜との仲を深めていった。といっても、靖之が美菜に言い寄ったりしたわけではない。天使みたいな女の子、とは思っていても、朝香を裏切るような気がして、自分からは、特別な働きかけはしなかった。美菜のほうが、熱心だったのだ。
夏休みのうちは、何度か電話でしゃべることはあったが、直接会ったのは一度きりだった。ところが二学期に入ると、どこで見ているのか、校内校外を問わず、美菜がいきなり靖之の目の前に出現することが頻発した。まるで待ち伏せでもしているふうな感じがしたものだ。校内だったりすると、朝香に見られるおそれがあるので、靖之としては戦々兢々の思いだった。
ひそかに思いを寄せている朝香にだけは、見られたくなかった。自分だって、朝香先生が男と仲よくしてるとこなんて見たくない。それと同じことだった。朝香先生が、自分たちのことを見て気を悪くすること、それを靖之は最も恐れていたのだった。
「靖之さん、なんか今日、急ぐこととか、あるんですか？」
ちょうど校門を出たところで、美菜が靖之に寄り添うようにして訊いてきた。大きめの紺のセーラー服の袖が靖之の詰め襟の制服の袖に触り、やんわりとした温もりを伝えてきた。手を握ったことはあるが、それ以上はない二人だった。
「ううん、別に、ないけど」
とりあえず本田朝香の視野の外に出たのでほっとしながら、靖之は答えた。歩調も、ゆったりしたものに戻した。美菜が同じ歩調をとり、腕同士が、柔らかい律動でぶつかりあった。
「なんか、靖之さん、歩くの、すっごい速いみたいだから」
見上げて言う美菜に、靖之はにっこり笑いかけた。美菜の白い丸顔は西日を受け、上気したようになっている。薄茶色の瞳に赤っぽさが混じり、ほんとに外国人みたいだ。セーラー服の胸当ての白い星が、ピンクに染まっている。美菜が妖精のような笑顔を返してきた。白い歯が、キラキラ光る。〃こぼれるような笑顔〃というのは、こんなのを言うのだろう。
（かーわいいなーっ！）
靖之は思った。現金なもので、つい今し方まで気になっていた本田朝香のことを忘れてしまっている。靖之はさらに歩調を遅くした。駅へ向かう生徒たちの流れを邪魔するような遅さだ。
右肘にぼよ〜んと何か柔らかいものが当たり、ハッとして振り向くと、たぶん三年生の女の生徒のおっぱいが当たったのだった。靖之はあわてて彼女に頭を下げ、左によけた。その女の子は何事もなかったかのように靖之を無視して追い抜いていった。
靖之が左に寄ったので、美菜の体を押す格好となった。美菜はいくらか左にコースを変えたが、靖之に密着しているのが心地よいふうに、靖之に押されつづけている。が、それは、何か、すねてるような身のこなしにも思える。靖之が急ぎ足で歩いてきたので、そのことでかも、と靖之は思った。フォローしなければならない。
「考えてみたら、急ぐ理由は何もないから、もっとゆっくり歩いていこうか」
ふっくらした感触の美菜の腕をぐいぐい押し、靖之は言った。美菜が普通に家に帰るのであれば、二人が一緒にいられる時間は、いくらもない。
一学年十五クラス、生徒数六百人余り、専門講師を入れて教職員七十人を擁する誠光学園は、調布市中石原にある。中央道調布インターのすぐ近くだ。もよりの駅は京王線西調布で、学校から徒歩で十分足らず。
美菜は調布駅から歩いて五分ばかりのところにあるマンションに住んでいる。それで、乗るのはたった一駅だ。三鷹市北野台に住んでいる靖之は、そこから四つ新宿寄りのつつじケ丘で降りるが、美菜がまっすぐ帰宅するのであれば、一緒にいられるのは十五分とないだろう。それで靖之は、「もっとゆっくり歩いて」と言ったのだった。
「靖之さん、急がないんだったら、急いで歩いていって、いいですか」
何やらわけのわからないことを言って、美菜が靖之の体を押し返してきた。さらさら、背中までの長さの栗色の髪がセーラー服の肩を滑り、靖之の腕にかかった。
「なんじゃ、そりゃあ。意味がわかんない」
「靖之さんが、今、急がないんだったら、ちょっと、あたしのうちに、寄ってきませんか。ううん？ 無理してとかじゃなくていいんですけど」
靖之を見上げる美菜の顔が、ぱあーっと赤くなった。西日をそっくり移し替えたみたいだ。大きな瞳の真ん中で、空の西日が赤々と燃えている。もったりと触れ合っている美菜の腕が、自分の何倍もの体温を持っているように、靖之は感じた。さっきぶつかった女の子のふくよかな乳房を、靖之は反対側の腕によみがえらせていた。
２
父はいつも帰りが遅いが、今日は母も用事があって、六時前に帰ってくることはないはず、と美菜は言った。時間は今、五時十四分だ。
「もし帰ってきたって、わかるし、平気です」
真っ赤なカバーの掛かったベッドに腰を下ろし、美菜はどこか潤みの増した目で、靖之を見つめた。長い髪の左の一筋が、ほっぺたにかかっている。桜貝のような耳が、ちょっとだけ、覗いている。髪の量は多くない。というか、髪の毛が細いのだ。
靖之は、モノトーンに近い自分の机とはまるで別世界のような、赤、オレンジ、白、ピンク、黄色と、色とりどりの美菜の机に片肘をつき、適度な固さの椅子に座っていた。目の前には、半分飲んだカルピスウォーターのグラスがある。三分の二ばかり飲んだ美菜は、ベッドサイドのキャスターに載せている。
夏でもないのに美菜がカルピスウォーターなんかを出してくれたことで、靖之は美菜の気持ちを察していた。「母も六時前には帰らない」と言ったことも、それを裏づけている。かなり露骨な誘いだ。しかし、二学期が始まってからの美菜の行動からすると、美菜の攻勢は、いよいよ最終段階に突入した、というところだろう。あれからもう、三ヵ月だ。
『あたしのこと、どう思ってるんですか。好きなんですか。好きじゃないんですか』
美菜の潤んだ大きな瞳は、答えを迫っている。好きなのなら、好きだっていうとこ、見せてください。靖之さん、自分からは、何もしてこようとしないじゃないですか。あたしはもう十六です。子供じゃないんです……。
（天使のような美少女を、こんなことで苦しめてはだめなんだ。ほんとは）
そうは思うものの、いざ、となると、最後の決断が鈍ってしまう。頭の片隅にいる本田朝香が、大人の女の笑み、妖艶な微笑をたたえて、いきなり目の前に現れる。心の恋人を裏切る気がして、最後の一歩を踏み出すことができない。
（どうしたらいいんだ？ 美菜は大好きだけど……）
美菜の気持ちがわかるだけに、靖之は靖之で苦しい思いをしていた。心の恋人を裏切ってでも、現実の恋人の要求に応えるべきなのか。何のかの言っても、本田朝香に対しては片思いの域を出ないのは事実。ならば、答えは明らかなのではないか。
内心の葛藤と、そう思っていること自体を隠し、靖之は初めて入った美菜の部屋を見回した。
靖之が今座っている机とドアの間に、アイボリーホワイトの整理タンスがある。五段の大きな引き出しと、一番上に、半分の幅の二つの引き出しがあるもので、タンスの上には、ミッキーやドナルドなどの、ディズニーキャラクターが並んでいる。
ドアから入ってすぐ右手に天井まで届きそうな本棚があり、小説らしい本や雑誌の棚、コミックの棚、勉強関係の棚と、きれいに整理してある。本棚の最上段と天板の上は、やはりディズニーキャラクターを主にしたぬいぐるみ類だ。幼稚園か小学校のときにでも自分で作ったらしい、へぼっぽい犬のぬいぐるみもある。熊かタヌキかもしれない。
本棚の向こうに、壁に沿わせて、美菜が腰かけているベッドがある。真っ赤なカバーは、ピンクのカーペットまで届きそうなくらい大きい。カバーは、ベッドの上を完全におおっていて、枕も見えない。カバーは、あるにはあるが、今や〃布団〃と化し、たいてい足元でよれよれになっている靖之のベッドとは、月とスッポンだった。
ベッドと机の間の窓の下には、黄色いカラーボックスが横倒しで置かれていて、その上には、十四インチくらいのテレビとラジカセが乗っかっている。白いレースのカーテンは引いてあるが、寄せられている内側のカーテンは、黄色の地に赤とかピンクとか緑色とかの、小さないろんな図形が散らばったデザイン。ブルーの地に、黒とオレンジ色のチェック柄の靖之の部屋のカーテンは見せたくないと思うほどのきれいさだ。
手持ち無沙汰なのを隠すように、珍しそうな目で部屋を見る靖之を、美菜はじれる思いで見た。
（あたしにここまで誘わせて、靖之さん、何もしてくれないんですか。そんなのって、ありですか。あたしって、靖之さんの、なんなんですか。恋人じゃ、ないんですか）
ディズニーキャラクターを一つ一つ目で追う靖之は、いかにも秀才という顔をしている。英語なんか、クラスでトップ争いをしてるという。クラスで二番としても、計算上は学年で三十番以内に入ってる。六百人中三十番だ。これはスゴイ。場合によっては、一ケタということもあるはず。これはスゴイ！
すらりとした長身に、紺の詰め襟の制服がよく似合っている。大好きな細面の顔に、りりしい眉。真ん中で分ける長めのヘアスタイルが、これまたすごくよく似合っている。唇がキッと締まっていて、あごも細め。目が、男にしては大きめで、とくにまつげが濃くて長いが、それがイイ。
靖之の顔を思い浮かべるだけで、胸がきゅーっと締めつけられそうになる。大きな目で見つめられると、体の力が抜けてしまう。「抱いて。思いっきり抱きしめて！」って叫びたくなる。毎晩、そのときを思い、悶々として眠れない時間を過ごしている。
「美菜はディズニーランドに、何回も行ったの？」
靖之は言った。ちょうどいい話題だと思った。
「三回です。また、行きたいなーって思ってるんですけど。クリスマスとかに」
美菜は熱いまなざしで靖之を見つめた。誘いだった。願ってもないチャンス。だけど、その前に、今……。心の中は、煮立ったお湯みたいになっている。
美菜の心を、靖之は痛いくらいに感じた。ワンウェイラブはワンウェイラブとして、ここまでモーションをかけられた以上、黙っているのはかわいそうすぎる、と思った。美菜とは相思相愛の仲なのだ。現実的に。
「いいね、それ。だけどクリスマスまで待たなくても、いつでも行けるよ」
本田朝香から美菜に一歩踏み出し、靖之は言った。見つめる美菜の目が、大きく見開かれた。白い顔がさーっとバラ色に発色し、紺のセーラー服にいよいよまばゆく映えた。
真っ赤なベッドカバーに腰かけている美菜は、プリーツスカートの上、というより下腹部に、両手を乗せている。白魚のようなきゃしゃな指だ。マニキュアはしていないが、手入れの行き届いた爪は、パールホワイトの輝きを持っている。
セーラー服の襟と袖口には、三本の白線が走っている。胸当ての真ん中に白い星が刺繍されていて、誠光学園の『誠の光』を象徴している。程よい盛り上がりを見せている胸のポケットに、「ＩＧ」と、学年およびクラスのバッジがつけてある。
靖之たち男子生徒でいうと、詰め襟の右側に学校を表す白い星、左側に学年、クラスだ。靖之は「IIＬ」。仕方がないが、「IIＬ」そのものは、靖之たちのクラスの誰も気に入っていない。ほかのクラスの子に、「ＬＬクラス」「でぶクラス」などと言われるからだ。三年は持ち上がりになっているので、今から憂鬱な顔をしてる女の子もいる。
「今でも行けるよ。行こうか？」
あるひらめきがあり、靖之は表情を明るくして言った。頭の片隅にいた憧れの女性は、ケシ粒みたいに小さくなった。
「えっ？ 今？ 今ですか？ これからですか？」
美菜は、バラ色の顔をとまどわせた。誘っているのは自分だが、あまりにも唐突なことなので、ちょっとパニックになってる。靖之は椅子から立ち上がり、タンスの上のミッキーを取って、美菜のところに歩み寄った。ひとかかえもあるミッキーを美菜の胸に押しつけ、右隣に腰を下ろした。
「ここが、ぼくたちのディズニーランド」
「えー？ 変なのー。だけど、いいですう」
ミッキーを抱いた美菜は、目のまわりを赤くして靖之を見つめた。
「ディズニーランドで、ビッグサンダーマウンテンに乗ってる気分」
靖之は美菜の肩を抱き、体を弾ませた。ベッドがきしみ音を立て、靖之と微妙にタイミングのずれたリズムで、美菜の体が弾んだ。
「ああ〜ん、落っこちそうですーっ」
ミッキーを片手で抱き、美菜はもう一方の手を靖之の背中に回した。右の乳房が靖之の左の二の腕に当たった。さっきの三年生の半分ぐらいのボリュームしかないようだが、それでも靖之にとっては、初めて触れる愛しの乳房だった。肉体の、具体的な接触が、靖之を押し出した。もはや、心の恋人も何もない。靖之は美菜の肩を抱き寄せた。
「あん……」
声になるかならないかの吐息を漏らし、美菜はひしとミッキーを抱き締めた。体中燃え立つような歓びに包まれている。感激で、思いっきり泣きたいような気持ちでもある。が、これからのことを思うと、正直言って怖い。
抱いてほしいと毎晩思ってるのに、いざこんなふうになってみると、震えそうになっているのだった。「抱く」というのは、当然、〃男と女の〃ことだ。靖之だって、こうなった以上は、それを考えているに違いなかった。
まずどうしたらいいのかと、靖之は靖之で思った。今まで自分たちは、手を握ったきりだ。口づけ一つしたことがない。そうなると、やはり口づけ、というのが、自然の流れというものであるはずだった。
靖之は、空いている右手を、美菜の前に回した。が、愛のキューピット役のミッキーが、邪魔なのだった。ミッキーのやつをどかそうとしても、体をこわばらせている美菜は、しっかり抱き、顔をうずめそうにしている。
「ちょっと……ちょっと、美菜……」
靖之は、ぐいぐい、ミッキーを引っ張った。しかしミッキーのやつは、なかなか離れてくれない。事情を察した美菜は、さらに力を入れて抱き締め、今やすっかり顔をうずめてしまっている。
「ちょっとお、なあ、美菜ァ、ミッキーと口づけしてどうなるんだよ。ちょっとお、力、抜いてさあ。なあー、力、抜いてくんないー？」
言葉はやんわりと、一方では実力行使で、靖之は美菜の顔とミッキーの間に手を突っ込んだ。指先が、ほてったほっぺに触った。唇にも触った。丸いあごにも触った。美菜はいやいやと、かぶりを振った。長いストレートの髪が乱れて、顔のほとんどを隠した。
途中でやめることなんて、できなかった。引いても駄目ならで、靖之は美菜の体を、ミッキーごと、押した。ミッキーを引き剥がされまいとやっきになっていた美菜は、ものの見事に引っ繰り返った。その動きに乗り、靖之はおおいかぶさっていった。
おおいかぶさるといっても、ミッキーに乗っかったわけではなかった。やや開いた格好の美菜の両腿に、靖之は膝を乗せたのだった。弾力に富み、それでいて恐ろしく柔らかい肉の感触だった。ゾクゾクーッと、靖之は鳥肌立つのを感じた。膝を、上にずらした。ふっくらした、女の子の秘密のゾーンに触った。ミッキーは大きいが、そこまではカバーできない。靖之は、膝の内側で、デルタゾーンを愛撫するようにさすった。
「いや……靖之さん、やあん」
両腿をぴったり合わせ、ミッキーの下から美菜がくぐもった声を漏らした。やるせなさそうな甘い声だ。もとより拒む気持ちはないのだ。
（ここをやればうまくいくぞ、絶対）
靖之は確かな手応えを得た。キスは後回しだった。
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