官能小説販売サイト 横溝美晶 『女使い師』
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横溝美晶    女使い師

目 次
第1章 女優の愛技
第2章 淫導師襲撃
第3章 意外な依頼
第4章 アイドル尋問
第5章 雇われママ
第6章 黒幕の女
第7章 逆転の仕掛け

(C)Yoshiaki Yokomizo

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   第1章 女優の愛技

     1

 横浜の事務所を出たのが、十一時すぎだった。
 昼間の中途半端な時間だったせいか、渋滞が慢性的になっている、保土ヶ谷バイパスもよく流れていた。
 月のなかばの平日だ。
 横浜インターから乗った東名高速も、厚木で乗りかえた小田原厚木道路もすいていた。
 横浜から箱根の温泉まで、車でほんの一時間半ほどの行程だった。
 箱根の山道を駆けあがると、老舗の温泉旅館の玄関に黒塗りのメルセデス・ベンツS600Lが大柄なボディを横付けにした。
「先生」
 と、助手席から秘書が声をかける。
 ボディガードも兼ねている運転手が、すかさず車から降りて、後席のドアを開けた。
「ああ、もう着いたか」
 太田しげるは、広々とした後席で、大きく伸びをした。
 あくびを洩らす。
 ここ数日、今日のことを思って、そわそわしっぱなしだった。
 昨夜も興奮していて、寝床に入ってもなかなか寝つけなかった。
 その疲れが出たのか、車が高速道路を走りだすと、とたんに眠気に襲われた。
 一時間ほど熟睡しただろうか。
 太田は、昨夜までの興奮が嘘のように、ぐっすりと眠ることのできた自分の胆力に満足した。
 いつでも、どこでも、しっかり飯が食えて、しっかり眠れるのも、政治家に必要な才能のひとつだと思っているのだ。
(おれには、その才能がある……)
 太田が、常々、ひとに自慢していることだった。
 そして、いつでもどこでも、しっかり飯が食えて眠れるというのは、肉体が健康で、まだ若々しい証拠だとも思っていた。
(おれは、まだ若い……)
 というのもまた、太田が自慢していることだった。
 もう五十代後半にさしかかっているが、肉体的にはまだ四十代の前半で通用すると自負している。
 肉体的にというのは、体力と精力ということだ。
 男にとっては、どちらも大事なことだ。
 そのどちらが衰えても、意思力が弱くなり、新しいことに挑戦してやろうという気概がなくなる。
 現状維持に執着し、策ばかりを弄するようになる。
 これは、太田のような、まだ野心のある男にとっては致命的だ。
 そうならないためには、まず身体を動かさなければいけない。
 体力と精力のための運動。
 つまり、武道と女だ。
 太田の考えは、その二点にたどりつく。
 若いころから柔道をやってきた太田は、いまだに、週に一、二度は、道着をつけることを忘れないようにしている。
 そして、こちらは、さすがにもう、週に一、二度とはいかないが、ときどきは若い女を抱くことも忘れないようにしていた。
 若い女を相手に一匹の牡になれるというのは、男に自身と生命力をあたえてくれる。
 セックスは、女の身体にうるおいをあたえるが、男の身体にもうるおいをあたえてくれるのだ。
 それがまた、肉体の若々しさをたもつことになる。
 こうして、いそがしい合間をぬって、箱根までやってきたのも、若い女を抱くためだった。
「すっかり寝てしまったな」
 太田は、メルセデスから降りると、また伸びをした。
 五月晴れと呼ぶにふさわしい、すがすがしい快晴だった。
 横浜からほんの一時間半ほどの距離なのに、空の青さがちがう。
 空気も澄んでいるようだった。
「いい空気を吸ったら、腹がへってきた」
「まったく、先生は若い」
 車から降りた秘書が、あきれたように言った。
 太田をよろこばせる台詞せりふだった。
「ようこそいらっしゃいました」
 玄関からは、客を迎えに旅館の者が出てくる。
 案内のままに、太田は、秘書とともに旅館の玄関をくぐった。
 運転手も、ボディガードを兼ねているから、車のキーを駐車係にあずけてついてくる。
 下足番の男が用意したスリッパにはきかえて、ロビーへ行くと、すでに先方の姿があった。
 若い女がふたり、ロビーのすみのソファに、玄関に背をむける形で腰を降ろしていた。
 ふたりとも、きちんとしたスーツ姿で、荷物は持っていない。
(あれが、そうか……)
 顔は確認できないが、そうなのだろう。
 平日の昼間、温泉旅館のロビーに、ほかに人影は見あたらなかった。
 背の高いほうのうしろ姿には、見覚えもある。
 しかし、太田は、あえて気づかないふりで、女たちに背をむけるソファに腰を降ろした。
 秘書も知らん顔で、フロントへチェック・インに行く。
「先生、お部屋のほうへ」
 たいして待たないうちに、フロントから秘書がもどってきた。
 
 
 
 
〜〜『女使い師』(横溝美晶)〜〜
 
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