園 ひとみ 魅惑の愛戯
目 次
一章 悶える柔肌
二章 メイク・ラブ・コール
三章 燃えて乱れて
四章 童貞少年の悪戯
五章 女の露出願望
六章 強姦魔の淫らな囁き
(C)Hitomi Sono
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一章 悶える柔肌
1
その夜、夫は思いがけないことを言い出した。
「スワッピング……?」
ドレッサーの前で里香子は呟いて、ヘア・ブラシを持つ手を止めた。
夜の十一時である。十畳ほどの洋間の寝室で、夫は窓ぎわのソファに坐り、雑誌とブランディグラスを手にしている。
入浴をすませた里香子は、ブルーのネグリジェ姿で、肌と髪の手入れをしているところだった。
スワッピングという言葉を、知識としてだけ知っている。夫婦をそれぞれ交換したカップルが、性行為を愉しむ。公認の浮気、ということになるだろうか。
そのスワッピングを、夫は試してみようと言うのだ。彼は面白そうな口調で、その提案を里香子に告げた。
里香子は、黙っていた。妻として、スワッピングという行為に抵抗感がある。
けれども、抵抗も反発も許されない里香子だった。夫の命令として、従うほかはない。
夫の命令――。そんな言葉は、現代の夫婦の間にはないだろう。けれども、藤堂夫婦には通用する言葉だった。
藤堂圭介は四十七歳。ホテル、不動産、デパート、ゴルフ場などを大規模に経営する藤堂企業グループの社長である。
里香子は二十九歳。
結婚して七年だが、子供はなかった。
藤堂家は田園調布の閑静な住宅街の一画にある。敷地千五百坪。和洋折衷の二階建ての家、住み込みのお手伝いと運転手、それに通いの秘書がいる。
十八も年上の夫。
社長夫人という座。
人並み以上の贅沢を、許されている。
しかも、里香子は上流家庭の出身ではない。父は里香子が五歳の時に病死し、看護婦をしている母と二人暮らしの家庭で育った。短大の保育科を卒業して、私立幼稚園に勤めたが、一年で退職。その後、藤堂グランドホテルのレストランのウェイトレスになり、藤堂圭介と出会った。
見合いではないが恋愛結婚でもない。藤堂圭介に見そめられたのである。
家柄、資産、家庭環境を考えれば、とても釣り合う結婚ではなかった。けれども、藤堂圭介は気ままで、非常識なところがあり、エゴイストだった。里香子を知って、肉体関係を持つと、彼は結婚を決意した。里香子にプロポーズするより先に、周囲に彼女との結婚を宣言したのである。
里香子は、そのころ生きる意欲を失っていた。男にも、人生にも失望していた。というのは、幼稚園を退職した理由は、初老の園長から、ひどい仕打ちを受けたためだった。
信頼していたその園長によって、強引に肉体を奪われたのである。
場所は園長室のソファの上で、しかも服や下着の乱れた、あられもない姿をビデオカメラで撮られていた。死んだほうがまし、と思いたくなるような恥ずかしい要求をされ、男の執拗な凌辱に、里香子は最後に気を失ってしまった。
そんな忌わしい記憶も、まだ消えていないうちに、藤堂圭介と出会い、プロポーズされた。
玉の輿である。
投げやりな気分になっていた里香子は、そう喜びも、迷いもせずに彼のプロポーズを受け入れた。
藤堂圭介は美男子というほどではないが、男っぽく知的なムードを漂わせ、スマートな体格は青年のように若々しい。社長らしい貫禄もあり、包容力もあった。
けれども里香子には、恋愛感情を抱く心の余裕はなかった。
藤堂圭介とのセックスで、里香子の肉体は開拓されたといっていい。レイプの記憶は消え、夫の肉体に馴染んで愛しさも生れてくる。精神的にも、夫に対して愛に近い感情を持ち始めたと、自覚できるようになったのである。
そんな時、夫はスワッピングを提案し、里香子の心は冷えてゆくようだった。
「どうだい。やってみようじゃないか」
藤堂圭介は『レインボウ』というスワッピングの専門雑誌をめくりながら言った。
里香子は、物憂げなしぐさでヘア・ブラシを動かしながら、
「あなたは本当に私の肉体だけが目的で、結婚なさったのね」
と静かな声で言った。彼女としては珍しい皮肉の言葉だった。
「肉体だけが目的? ああ、そのとおりかもしれないな」
藤堂圭介は立ち上がってガウンを脱ぎ捨て、雑誌を手にベッドに上がった。
「しかし君は、若いのに古いことを言うね」
「そうかしら」
「肉体だけじゃなく心を愛して、と言いたいのだろう? 古いというより稚いね」
「あなたの口から、心とか愛という言葉、初めて聞きましたわ」
「早くこっちに来なさい。それからブランディを頼む」
「はい」
里香子はスツールから立ち上がった。テーブルの上のブランディのボトルから、グラスに注ぎ入れて夫に手渡した。
それからフロアスタンドの灯を残して、部屋の明りを消した。
ブルーのネグリジェ姿でベッドに入る里香子の姿を眼にしながら、藤堂圭介はブランディを口に含んだ。
ベッドはキングサイズのダブルベッドである。
ゴブラン織の布張りのヘッドボードに凭れた圭介は、開いた雑誌を里香子の膝に乗せ、
「見てごらん」
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