北山悦史 人妻たちの謝肉祭
目 次
けだるい時間
蠢く後穴
絶品マッサージ
童貞ねぶり
義母となる人妻
ねじれた秘密
未亡人のプレゼント
秘められた欲望
同性のわななき
淫魔の姦導
(C)Etsushi Kitayama
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けだるい時間
1
何やら妙な声が聞こえた。
はっきりした声ではない。呻き声のような、内にこもったものだった。耳に聞こえてきたというよりは、頭の中でひそかに響いた感じだった。
これから足を向けようとした家かららしいのを、新堀慶吾は知った。住所録や工事の記録ファイルをたたんで、門から離れようとしたところだった。
(何だろ……)
と思いながら、慶吾はその家に足を向けた。声らしいのが聞こえてきたから、人がいるのはいるのだろう。誰もいなければ、行く意味がない。
ここは、千葉県最北部にある野田市の、南西の端。車で五分も南に走れば流山市。江戸川を挟んで西は、埼玉県吉川市。
十戸、二十戸のミニ開発の住宅が、ぎっしり建っている。別々の開発なのだが、お互いにくっついてしまって、遠くから見ると、大規模開発団地の様相を呈している。
慶吾は、炎天下のもと、噴き出す汗を拭いながら、その一軒一軒を回って営業をしていた。ベランダやカーポートの新設、修理の注文訊きに回っている。
今日は午前中、カーポートのルーフの修理の注文が一つ取れただけだった。がんばって、午後は新設の仕事を四つは取らなければ、やっていけない。
固定給は六万。あとは歩合制だから、たくさん仕事が取れれば、それはそれでリッチになれる。先輩や同僚で、慶吾の四倍もサラリーを取っているのがいる。成績の悪い同僚でも、倍近くは取っているだろう。
(営業は、おれにゃむいてないのかもな)
そう思ったことは、二百回はあるだろう。情報処理関係の専門学校を出て、この五年間、まともなもの、ちょっとアブナイものも含め、いくつかの営業の仕事をした。浄水器の販売、外装、白アリ駆除、消火器販売、格安の小型家電販売、などだ。
考えてみれば、みんな似たような仕事だった。やめてしまったのは、労力と収入が合わないからだ。しかし、何か仕事をしなくちゃ……と思って、いざ就いてみると、前と似たような仕事をしている。
採用されやすいからだ。それはやはり自分には、机に向かってチマチマやる仕事はむかないと思ってもいるからだ。だが、こういう仕事をしたらしたで、自分にはむいていない……と思ってしまう。
そんな思いが声や顔に出てしまうのか、午後になって十軒以上回って、まだ一つも注文は取れていない。インターホンでしゃべっても、じかに顔を合わせて話しても、ほとんど、にべもなく断られてしまう。
(もすこしがんばらなくちゃな)
慶吾は、絞れば滴るようなハンカチで顔の汗を拭き、その家に向かった。暑いの何のと言っていられない。固定給だけじゃ、どうしようもないのだ。アパートの部屋代だけで消えてしまう。
これから訪問しようとしている家は、今まで回っていたのとは別の開発の何軒かだ。今までのはモルタル壁だったが、今度のは横縞が目立つボード壁だ。車がぎりぎりすれ違える幅の道路と、一軒分の空き地を隔てたところから始まっていた。
「うーん……」
と、またしても何か呻き声のようなものが聞こえてきて、慶吾は思わず足を止めた。さっきと同じく、はっきりと耳に聞こえるものではなかった。やはり頭の中でかすかに響く感じのものだったが、その家からなのは間違いないようだった。
慶吾は訝しく思いながら、ブロックの門のインターホンを押した。が、音は出ない。インターホンを切ってある家も、けっこうある。訪問販売の者にいちいち応答するのが面倒だ、というわけだろう。
慶吾は、門扉を開けて中に入った。誰かがいるのは間違いないのだ。同じ断られるにしても、インターホンでにべもなく断られるよりはいい、ともいえた。
ドアを開ける前に、もう一度、顔の汗を拭った。赤鬼のように見えるかもしれないとも思ったが、気合いを入れて、カッと目を見開いた。ドアを開けた。
「ごめんください」
返事があったら、すかさず「新星エクステリアの新堀と申しますが」と言おうと、息を整えた。
が、返事はない。もう一度「ごめんください」と言おうとしながら、一呼吸入れた。と、何やらまた、あの呻き声のようなものが……。
いや、それは人間の出す声とは、どこか違っているように聞こえた。外で聞いたとき、頭の中で響くような感じがしたのは、それでなのかもしれなかった。
それはウーウーウーという、モーターか何かのような響きだった。単調な響きではなく、大きくなったり小さくなったり、どこかくぐもった感じになったり、いろいろ変化している。洗濯機とかドライヤーの音とは、明らかに異なったものだった。
(えー? まさかあ!)
あるものが突如頭にひらめき、汗だくの背中に冷水を浴びせられたように、慶吾は感じた。
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