勝目 梓 イヴたちの神話
目 次
第一章 それぞれの秋
第二章 欲望実験室
第三章 快楽主義
第四章 約 束
第五章 迷 路
第六章 回転扉
(C)Azusa Katsume
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第一章 それぞれの秋
1
原宿のスナックを出たところで、黒川はタクシーに手を挙げた。
ウインカーをつけたタクシーが寄ってきて、二人の前に停まるまでの短い間、直美は黒川の手をにぎっていた。
直美の手は、さらりとした感触を持っていたが、長い指は黒川の指の間にすべりこんできて、まとわりつくように彼の手の甲を撫でていた。
タクシーの運転手は、頭に白いものが目立つ、初老の小柄な男だった。黒川は直美を先に乗せた。直美は上手にスカートの裾をさばいて、品よくシートの奥に体をずらした。
「上野広小路まで行ってください」
「下を行きますか? それとも高速?」
「ああ、高速を行ってもらおうか。ここからだと外苑から入ったほうがいいのかな」
「外苑から入りましょう」
タクシーはスピードをあげた。
「ソルティドッグおいしかったわ。三杯も飲んじゃった」
直美が言った。黒川は膝の上に置かれた直美の手に手を重ねた。手を押しつけるようにすると、スカートの下の直美の太腿の心地よいはずみが伝わってきた。
「一時間ちょっとで、ソルティドッグ三杯は、ちょっとハイピッチすぎるんじゃない?」
「調子がいいとそれくらい入っちゃうのよ」
「もっとも、ぼくも一時間ちょっとで水割り三杯だからな」
「いやあね、時間に追われてるみたいで」
「仕方ないね。追われてるみたいじゃなくて、実際に時間がないんだから」
「まあね」
「ぼくたちのデイトは時間との闘いさ。短い時間をいかに有意義に、濃密にすごすかだ」
「同感よ。だけど、時間との闘いという言い方は感心しないわ」
「どうして?」
「だってムードないもの」
「そりゃそうだな」
黒川は笑った。二人は声をひそめるような話し方になっていた。運転手にはやはり聞かれたくない話だった。
車は外苑ランプから首都高速に入った。黒川は直美の肩を抱き寄せた。二人はすばやく唇を重ねた。短いキスだった。舌が一瞬、触れ合った。
「唇の端がしょっぱかった」
「ソルティドッグのせいね」
直美が忍び笑いを洩らした。そのようすが黒川の気持ちをそそった。黒川はいたずら心を起こした。直美を困らせてみたくなった。
黒川の手が直美の手から離れて、彼女の太腿の上を這った。スカートの上から内股に手が割りこんだ。直美の膝がいったんゆるみ、黒川の手を内股の深いところに誘った。直美はすぐに、黒川の手を柔らかい内股で強くはさみつけてきた。
黒川は指を動かした。パンティストッキングのざらついた感触の下に、柔らかいふくらみが隠れていた。黒川は温かくかつ窮屈な場所で、せいいっぱい指を動かした。直美の頭が黒川の肩に落ちてきた。直美はかすかに息をはずませながら、黒川の耳を甘く咬んだ。
黒川は調子づいてしまった。直美のスカートの下に手をさし入れた。指でたぐり寄せるようにして、パンティストッキングを引きおろした。パンティストッキングの前面だけが伸びて、手が入った。手はすぐに素肌に触れた。
さすがに直美はためらいを示して、小さく身じろぎした。黒川はフロントガラスの先に眼を投げたまま、パンティの下に手をさし入れた。指がしげみに分け入った。わずかに湿り気をおびた柔らかい小さなふくらみが、指に触れてきた。
「だめ……」
直美が黒川の耳に口をつけて囁いた。息がいっそうはずんでいるのがわかった。黒川は思いきって、クレバスに指を割りこませた。直美がシートの上で小さく腰を引いた。指先が温かいくぼみに浅く沈んだ。かすかなうるみが感じられた。直美の膝がゆるんだ。
「これも時間との闘い?」
「そうさ……」
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