村咲数馬 夢太郎色暦
目 次
桜紅の章
淫雨の章
欲炎の章
快悦の章
紫艶の章
忘我の章
(C)Kazuma Murasaki
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桜紅の章
一
笹色紅の下唇が押しあてられた。そして、紅をさしていない上唇も重ねられる。芳しい鬢付け油の伽羅と、むせ返るように生々しい体臭が匂った。
女の舌が割り入り絡め取ってきた。永久に続くと思われるほど濃密な口吸いの音が、出会い茶屋の座敷に響いている。
ほの甘い唾が、男の口へじゅるりと滴り流れてきた。
目を潤ませた女の唇が静かに離れた。頬に降りかかるほつれ毛が妖艶に揺れている。螺鈿の菊桐文様櫛に、鼈甲のこうがい。薄紫の珠簪。角行燈の仄かな灯りを浴びた島田髷の黒髪が艶やかに輝いている。
「お歯黒もとってきたの。抱いて……」
横座りのお京が、淡い朱色の長襦袢から太股を露わにしどけなく言った。
夢太郎は、お京を抱き寄せた。
「越えちゃいけねえ川を渡ろうってんだ。それでもいいかい」
夢太郎の問いに、お京が無言でうなずいた。
瓜実顔に抜けるような白い肌。涼しげな目鼻立ちの美麗な造作。おとがいが微かに震えている。
「あんな男と、好きで夫婦になったわけじゃないよ。男手一つであたしを育ててくれた、おとっつぁんに背けなかっただけ」
お京が肉置き豊かな躰をギュッと押しつけてきた。はだけた長襦袢の襟元から雪兎のような白い膨らみが垣間見えている。
「なんにも言うな。あれもこれも、すべて宿命だろうよ」
夢太郎の手が胸元に差し込まれ、乳房をまさぐった。激しく揉みしだいた。
「あ、あん……」
お京が身をのけ反らせ切なく喘いでいる。
透き通るように白い、お京の両足が擦り合わされた。しゅるるしゅるると、衣擦れの音が聞こえていた。
揉みしだいている乳房は、徐々に固さが解きほぐされ、切なく甘い女の吐息が激しくなる。
夢太郎は、お京へ覆い被さるように盆の窪を箱枕にのせた。長襦袢を脱がせる。崩れのない美しい稜線を描く乳房が露わになった。
蒼い血管が透き通るほど白い双丘。桜色がかった乳輪の上へ、吸って欲しいとばかりに肉の蕾が芽吹いている。
「この二年、おれは辛抱してきたんだ。そいつがどうだ。ばったり、下谷広小路でおめえと会おうとは……」
逡巡するような夢太郎の言の葉に、お京が頬ならず、耳や襟足までも朱に染め躰をくねらせた。
「後生だよ。ねえ、早くぅ」
夢太郎とて、もう我慢できない。一物は下帯を突き上げるようにそそり立っている。
「二年前のベタ惚れが、今日の出会い茶屋……。床惚れさせてやろうか」
夢太郎は息を荒げながら素早く帯を解き着物を脱いだ。痩身ながらも筋骨逞しい体躯が露わになった。
乳首に吸いつき、舌でねぶった。
「んん、は、はぁぁ……」
身悶えするお京が、しなやかな両手を首に回してきた。甘噛みし、舌でねぶるほど肉の蕾がしこってくる。
柔肌にサッと鳥肌が立ち、女体に喜悦が走っているのがわかる。乳首を吸い上げねぶりながら、右手を下肢へ伸ばした。茜色の蹴出しを外した。
これまで隠されていた恥毛が露出した。春草のようにうっすらと股間を覆っている。裂け目が垣間見える。
夢太郎の舌が乳肉の蕾から離れ、草むらへ蠢いていった。べろの這った跡に唾の筋が残り濡れ光った。
「ああ……。あたし、まだ湯に入ってないの。おもはゆいよぉ……」
顔を真っ赤にしたお京が両手で恥毛を隠そうとする。それを夢太郎がはね除けた。
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