官能小説販売サイト 北山悦史 『暗闇坂の法悦』
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北山悦史    暗闇坂の法悦

目 次
暗闇坂の法悦
目覚めた秘悦
飛沫のわななき
後れ毛の喘ぎ
震える淫ら蝶
誘惑の天使
ママは美人看護婦
若蜜すすり

(C)Etushi Kitayama

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   暗闇坂の法悦

     1

 タクシーは夜の六本木通りを渋谷方面に向かっていた。
 銀座でタクシーに乗ったとき、六本木通りは混んでいて走れないから日比谷通りを行ったほうがいいかな、というようなことを、この個人タクシーの中年の運転手は言っていた。
「おまかせします」
 発進してすぐ、西山悦士は運転手に言った。
 横に乗っている吉田美々子のマンションに着きさえすればよかった。マンションは南麻布だという。悦士は初めて行く場所だ。
 その吉田美々子はかなり酔っていた。バーボンとスコッチの飲み比べ、なんてことをやってベロベロ状態だ。
 会社の帰り、悦士は同僚の森下武治に誘われ、香川沙織という女とこの吉田美々子との四人で飲んだ。
 香川沙織というのは一カ月ほど前に森下が合コンで知り合った丸の内のOLだった。この吉田美々子は別の会社に勤めるOLで、短大時代からの沙織の親友ということだった。
 明日は土曜日、徹底的に飲もう、と勇んで銀座に繰り出したが、一軒目で吉田美々子はあっけなくダウンした。
 美々子がヘベレケになると、森下と沙織はソワソワしだした。自分たちだけどこかに行きたいとでもいうそぶりだ。
(ひょっとしてこれは予定のコースか)
 という思いが悦士の頭に浮かんだ。森下からは何も聞かされていなかったが、こういうことだったのかもしれないと、悦士は邪念を胸に美々子をエスコートして店を出たのだった――。
 六本木通りを走っていると思っていたが、それにしては暗い。まだ十時を回って間もない時間だし、右も左も明かりがあふれていていいはずなのに、田舎道みたいに暗くて淋しい感じだ。
「あの、運転手さん、ここ、六本木通りですか」
 何となく妙な感じがして、悦士は聞いた。
 とっくに南下して元麻布から南麻布に向かっていると運転手は答えた。
(なんか変だなー)
 悦士は頭をひねってしまった。タクシーが左折した記憶が、悦士にはまったくなかった。美々子に負けないぐらい酔っているのだろうか。
「いつか曲がったっけ」
 右横にいる美々子に訊いてみようとしたが、美々子は長い髪を幽霊のように顔に乱れかけてうつむいている。すっかり眠っているようでもある。
 窓外に目をやって、妙な感じがますます深みにはまっていくのを悦士は覚えた。
 恐ろしく暗い。信じられないぐらい道も狭い。冬枯れの木々が森みたいにうっそうとしている。
 家並みがつづいているのはわかるが、明かりはきわめて乏しく、野中の一軒家がぽつりぽつりとあるようにさえ見える。
 ここは東京の麻布だ。都会の真ん中だ。なのになんで……と悦士が目を疑ったとき、
「ここは暗闇坂っていうんですよ」
 沈んだ口調で運転手がそう言ったので、悦士はゾゾ〜ッとした。
「はあ……だからこんなに暗いんですか」
 訊き返しながら外を見た。確かにタクシーは上り坂を走っていた。
「このあと、一本松跡、首切り坂とつづきます」
「えっ、首切り坂!」
 シートから飛び上がった悦士を見て、運転手は、いや、冗談冗談、と笑った。
「ところでどのあたりなんですか。もうすぐ広尾に出ますけど」
 運転手の言葉に、悦士は美々子を揺り起こした。南麻布から広尾に出る少し前、と美々子は言っていたのだ。
 
 
 
 
〜〜『暗闇坂の法悦』(北山悦史)〜〜
 
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