子母澤 類 金沢名門夫人の悦涙
目 次
第一章 快楽への序曲
第二章 名門夫人の喘ぎ
第三章 淫楽の秘室
第四章 倒錯、悶え妻
第五章 覗かれた恥態
第六章 至福の痴戯
(C)Rui Shimozawa
◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。
第一章 快楽への序曲
1
さわさわと水の音が聞こえてくる。せせらぎの音はふいに、美夜子の乾いた身体の中に、流れ込んできたようだった。
女の身体が、みだらにざわめいてくる。頬が染まった。ふと、秘奥にむずがゆさが走った。
偶然に見つけた、夫の写真を見てからだった。
美夜子は夫の背広の内ポケットからみつけた写真を、もういちど見つめた。
写真には、裸の若い女を組みしいて、片足をかかえ挿入している夫が写っていた。女の花びらはめくれあがり、ぬらぬらと光っていて、そこには確かに、硬くなっている肉棒が見えている。
硬そうだ、と思う。
これはたぶん、盗み撮りでもなんでもなく、夫が好んで撮ったものだろう。
花冷えのする夜半過ぎ。美夜子はふとんの中で、けだるく寝返りをうった。
今宵はなぜか、せせらぎのかすかな音が耳について眠れない。
水音は、広い屋敷のぐるりを囲む厚い土塀に沿って流れている、大野庄用水のせせらぎだった。
春先の、なまめいた夜気のせいだろうか。
夕方に、桜の花びらを乗せた用水の、友禅模様のようなあでやかな流れを見たせいかもしれなかった。
ふとんの中はしめっぽい甘さがあって、今夜も熟れはぐれた、女の身体がうずいたままだ。
乳首が甘がゆく、起きあがってくる。腿のあいだの秘めやかなあわいが、妖しく昂ぶってくる。
美夜子はうつぶせのまま、となりの床をちらりと見やり、唇を咬んだ。
今夜も夫の床は冷えたままで、平べったく並んでいるだけだった。
美夜子の身体が忘れられて、もうずいぶんになる。
気まぐれにまかせ、夫の指がたまに這った女の身体が、ちりちりと灼け焦げているような気がする。閉じているはずの桃色の秘苑が、こんなにみだらにうずくのだから……。
夫の松崎希一郎は、今夜も金沢の町を遊び歩いている。
今宵はどちらの川沿いにいるのだろうか、と美夜子はふと思った。
金沢には、城下町をかたち造ったふたつの流れがある。犀川と、浅野川、夫はそのいずれかのほとりにいるはずであった。
男川とも呼ばれる犀川の、犀川大橋から広がる、繁華街の片町か、または女川と呼ばれる浅野川の、左岸にある東の廓で、芸者をあげての茶屋あそびか、だいたいそのどちらかであった。
俺は水商売の女たちにもてるんだ、といばってはいるが、そんなことはあたりまえだと、美夜子は思う。夫が、金沢に本店を持つ雪国銀行の、頭取の息子だからである。
|