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子母澤 類   惑乱の輪舞

目 次
第一章 嗜虐のシンフォニー
第二章 痴悦の
第三章 淫靡なコンチェルト
第四章 爛熟の小夜曲セレナーデ
第五章 虐悦のカプリッチオ
第六章 美爛の二重奏デュエット
第七章 蜜戯色の組曲
第八章 花唇月露のカデンツァ

(C)Rui Shimozawa

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   第一章 嗜虐のシンフォニー

     1

「あたし、やっぱりいや。できないわ」
 宿の縁側の窓を開けて、湯上がりのほてった身体を冷ましながら、えりがつぶやいた。
 かしむらは黙ったまま、後ろ姿の衿子を見つめた。
 素肌にまとった浴衣ゆかたは、ふっくらとした衿子の柔肌を包みこんで、美しい肢体を浮き彫りにしていた。
 腰は小気味いいほどにくびれ、そこから上向きに張った優美なでんへと流れていく。ほっそりしているように見えるが、脱いだとき尻やももや乳房の、たっぷりとした肉づきに手が沈み込むほどだ。
「ねえ、キャンセルして……あなた」
 黙っている夫に、衿子は困ったようにもう一度言った。ほとんど泣きそうな声だった。
「もう話はついているんだ」
「本当に、あなた、平気なの?」
 衿子がふり向いた。切れ長の黒い瞳が、露をためて濡れている。だが白い顔は上気して、すでに被虐の性感をにじませているようにも見える。
「今さら何を言うんだ。一時間後にはもう、始まるんだよ」
 樫村はやさしく言って籐椅子から立ち上がると、衿子を後ろから抱きしめた。
「あたしをぜんぶ、見せるなんて……」
「だいじょうぶだ。いつもやっているとおりにやればいいんだから」
 正直言えば、樫村もひどく緊張していた。
 なにしろ夫婦のセックスを、ショーとして見せるはじめての日である。交渉した宿のおかみにも、今さらやめるなどと、言えるわけがなかった。
 樫村しょういちは、四十四歳。ついこの間まで、都内の一流商社の販売企画部長をしていた。やり手と評価も高く、若くして次期取締役にも内定していた。
 出世を約束されたエリート社員が、新卒で入社したたかやなぎ衿子に手を出したことで、人生が変わってしまった。
 はじめは衿子の知的な美貌にかれた樫村だったが、何よりも、みごとな身体に溺れてしまった。樫村の手のままに、めきめきと女に目覚めていく衿子に魅了され、夢中になった。
 ふたりの愛欲関係は、すぐに妻の知るところとなり、離婚さわぎになった。樫村はもう、世間体など、どうでもよかった。結局、出世も妻子も世俗も、すべてを捨てて、衿子との放浪を選んだのだった。
 衿子がいれば、何も欲しいものはなかった。ただ衿子があえぎ、喜ぶことが、樫村の悦びだった。
 とくに、衿子のセックスが最も燃えるのは、行為を人に見せるときと、他の男とのことを話させるときの二つだった。そんな淫らな衿子のために、樫村はセックスショーの興行を考えだしたのだった。
 まだ二十四歳である新妻の、つやめきはじめたみずみずしい裸身を、ショーとして人前にさらすのである。なるべくなら、ふたりが働いていた東京から、ずっと離れている土地の方が望ましい。
 そのために選んだのが、神戸六甲山の北西麓にある有馬温泉の、山の上にひっそりと建つ、この宿だった。窓から眺めると、紅葉した木々をかすめて、他の旅館の建物がみな眼下に見えた。
「いや。いやよ……こわいわ。ねえ、やめましょう」
 夫の腕のなかで、衿子は小鳥のようにふるえ、もがいた。
 樫村は、湯を吸って薄桃色に染まった女のうなじに、そっと唇をあてた。力を抜いた衿子が、甘い吐息をついた。若い女の香気が、むせぶように匂い立った。
「ああ……」
「できないはずないさ。おまえのことは、俺がよく知っているんだ」
 耳に熱い吐息を吹きかけ、耳たぶを舐めながら、樫村はなだめるように言った。
「おまえは、こんなに上品な顔をしているが、思いきり淫らな女なんだ。男に見られると、もっともっと美しくなっていくよ」
「だからって、見せ物なんて、ひどい。恥ずかしすぎるわ……」
「きれいな身体をしているじゃないか。ほら、このでかいおっぱい。いいかたちだ。おま×こだってさ。これを、男たちに見せびらかしてやるんだ」
 しだいに自分の言葉に酔いしれてきて、樫村は矢も楯もたまらず、衿子の浴衣の胸のあわせをかき開いた。雪のように白いたわわな実りが、弾けるようにこぼれた。
 樫村は息をあらげ、乳房をむしりつかんで、てのひらの中で手触りを楽しむ。
「あっ、いや……」
 衿子は身体をくねらせて、樫村の手から逃れようとした。だが乳首に触れられると、ふいに柔らかくしおれた。
「どうしたんだい? 乳首がこんなに硬くなってるじゃないか」
「……」
「ほら、スケベなやつめ。いやだと言いながら、おまえはもうその気になっているんだよ」
 むなまれて、衿子は美しい眉をよせ、アップにした髪を乱れさせてあえいだ。しっとりとした美貌は、ますます妖しい華やぎにいろどられている。
「や、やめて。あ、ああ」
 二人は畳の上に倒れ込んだ。
 樫村は荒々しくすそ前をめくった。しゅうにふるえる、張りのある太ももがあらわれた。
 もみじ柄の宿の浴衣の下は、なにもつけていなかった。太腿の間が割れ、ふっくらと盛り上がった柔らかそうな茂みがあやしいばかりに、かぐろく照りはえている。
 衿子はしきりに身体をくねらせ、腿をぴたりと閉じようとするのだが、すでに樫村の指は、こじ開けるように脚のすきまに入り込んでいた。
「おま×こがどうなっているか、確かめてやる」
「あなた……いや。今はゆるして……」
 腰をひねり、身をすくめるのをむりやりに花びらをさぐる。ぷっくりとした花弁をこじ開け、指を差し入れた。朱唇の内がわはじっとりとして、たちまちとろみの液が、指を湿らせた。
「あ、ああン……いやなのに……」
「いやだと言いながら、衿子……ほら、セックスショーをすると思うだけで、こんなに濡れているじゃないか」
「ううっ……」
 こすりあげると、蜜はねっとりとして指にからみついてくる。そのままたぎりの海の、水ぎわをさぐった。卑猥な水音がする。さらにあふれてくるようだ。
「ああ……あなた、いやよ……ああん」
 
 
 
 
〜〜『惑乱の輪舞』(子母澤類)〜〜
 
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