花森えりか 人妻は欲情に濡れて
目 次
凌辱の快楽に溺れて
未亡人の肌は疼いて
セクシー下着で燃えて
人妻は欲情に濡れて
男を狂おしく求めて
二人の男をむさぼって
快楽の世界に連れてって
熱い欲望に悶えて
(C)Erika Hanamori
◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。
凌辱の快楽に溺れて
1
夜の十時だが、夫も妻も、ベッドに入っていた。
週末である。翌日は土曜日で朝寝坊ができるからと、夜更かしをする気にもなれないのだ。
結婚して十二年の夫婦である。愛の交わりを求めて早々にベッドに入る新婚夫婦ではなかった。
夫は会社の残業もなく、午後八時前に帰宅した。
妻の紗江子は、小学五年の息子と一緒に、夕食をすませていた。キッチンで後片づけをしている時に、夫が帰宅し、彼のぶんの食卓を整えた。
息子はテレビを見たり、ゲームをしたりした後、お風呂に入って九時には寝た。
以前の夫は、食後にウイスキーを飲みながらテレビを見てくつろいでいた。
最近は、そうしなかった。テレビをつけても、手許にウィスキーのグラスはない。
酒代の倹約、つまり家計の節約のため、食事の時に発泡酒の缶ビール一本が晩酌になった。
酒好きの夫にとっては晩酌ともいえないが、不満は言わなかった。
だから夫は、テレビでナイターを見た後、つまらなそうにリモコンでスイッチを切って、
「風呂でも入るか」
と、のろのろと浴室へ立って行く。
ウイスキーを飲みながらナイターを見ていた時は、
「ヤッタ!」
とか、
「ヨッシャ!」
などと楽しそうな声をあげていたものである。けれど最近は、そんな掛け声もなく、黙然とテレビへ眼をやっているだけだった。
入浴をすませた夫は、湯上がりのビールの代わりに冷えた麦茶を飲んで、けだるそうに寝室へ足を運ぶ。
紗江子も、ひととおり家事をすませると、テレビのドラマやバラエティ番組など見る気にはなれなくて、入浴する。
身体を洗って、浴槽に入り、
「ああ……」
と、何となくため息をついてしまう。
(この先、どうなるのかしら……)
生活の不安である。どんなに家計を節約しても、心細い。
住宅ローンがある。年々、かかるようになる息子の教育費もある。
それなのに夫の会社は景気が悪く、残業がないから給料は下がり、ボーナスはカットされる。
住宅ローンの支払いは、毎月十二万、ボーナス時に四十万である。
ボーナスをカットされれば、当然支払えない。昨年は預金から下ろしていたが、それも底をついている。
実家の親兄弟に、泣きついて借りる金額も、限度があった。
「いっそのこと、この家を売ってしまおう。賃貸の家賃はかかるが、ローンの支払いよりはマシだ」
夫は最近、そう言うようになった。
紗江子は、反対した。せっかく手に入れたマイホームである。敷地三十五坪の小さな家でも、家庭という〈巣〉を守る主婦の紗江子にとっては、三人家族のかけがえのない城だった。
(何とかしなくちゃ……パートでもして、わたしが働けば……)
もう何度も考えたことを、呟きながら紗江子は浴槽から出た。
ドレッサーの前で肌の手入れをして、ベッドに入る。
八畳の洋間の寝室は、ツインベッドをくっつけて置いてある。
部屋の明かりは消し、サイドテーブルのスタンドの淡い灯をつけておく。
「おやすみ」も言い合わず、それぞれのベッドで、夫婦は黙って身動きもしない。
夫も妻も、夜の十時に、寝つけるものではなかった。
寝息は聞こえず、静寂が部屋を支配している。
眠気など、おとずれそうにない紗江子は、やがて呟くように言った。
「まだ、十時よ……」
「うん……」
こちらに背中を向けた夫が、短く答える。
やはり眠そうな声ではなかった。
「こんな早い時間に寝るなんて……」
「早寝早起きは健康にいいんだろう」
どうでもいいような夫の口ぶりである。
「お年寄りってわけでもないのに……」
高齢者は早寝早起きの習慣と聞くけれど、紗江子は三十五歳、夫は四十歳である。女ざかりの妻と、働きざかりの夫――のはずだった。
静寂の中、ふいに夫が重いため息をつき、仰向けになった。
「あなた、眠れそう?」
|