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作者不詳 監修・小宮 卓 激情の嵐〜性の秘本セレクション4〜

目 次
激情の嵐
童  貞
 若きつばめ
 乱  舞
 恋の淵―しんかい
現代好色 童  貞
 一、わがゆくかなた月明り
 一、憂愁夫人おはしけり
 一、海にも潮の満干あり
 一、幾山河をへだつとも
 一、けがれは知らで眉目わかく
 一、桃の日生れし男雛
 一、せめては影と添はまほし
 一、夢をうつつにかへがたき
 一、人恋初めしはじめなり
解説

(C)Taku Komiya

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 激情の嵐

  忍び入つた家には女三人が寝乱れ姿で肉の香りをむせかえるように匂はせていた、雪白のやは肌、激情に狂つた彼の血は逆流した……。法の裁きを受ける彼、証人として喚問される女三人の陳述……公判記録をつづる強姦男の実話。


 は、神戸地裁十七号法廷――。
 ようやく九月に入つたばかりの、まだ残暑のはげしい午後は、むし暑さが法廷にこもつて、傍聴席では、遠慮気味に扇子を使ふ者もあつた。
 被告席にじつとうなだれて、いま検事の起訴状を読み上げられるのを聞いている男、頬こけて顔色悪く、犯罪者らしい陰惨な感じをただよはしているが、きりつと引きしまつた口もとから鼻筋の通つたあたり、万更下層階級の人間ではなさそうである。いや、むしろ、可成の好男子で、インテリ臭くもあつた。
〃――――その時、中川は玄関の次の三畳間の室に就寝中の芳子(二十二歳)の寝姿を見出し、暴力を以てこれを犯し、事後同女より、夫人と令嬢の就寝せることを聞出し、次の六畳の間に足を進め、神山春子(三十八歳)と同じく美代子(十九歳)の熟睡せるを、づ春子を起し、暴力を以て性交したるのち、娘美代子の美貌に心惹かれ、再び性行為に及ばんとしたとき、春子が必死にこれを防止せるを、暴力にて縛り上げ、春子の目前にて娘美代子の身体に挑みかゝり、性交を遂行したものである。よつて刑法第百七十五条ワイセツ行為及び……〃
 そこまで読み上げられたとき、突如、被告席の中川健次が叫んだ。
「違ふ! 嘘だツ、三人も強姦なんかするもんか、……違ふんだツ!」
 静かな法廷はざはめいた。裁判長は制止し、起訴状を続けさせた。
 検事の論告が述べられている間も、被告はいらいらするように、身体を動かしていた。彼の脳裡には、一ケ月前のある夜のことが描き出されていたのである。

 中川健次は、近頃、妻とも子の、自分に対する素振りが、だんだん冷淡になつてきているのに、焦燥を感じていた。もともとキヤバレーの女で、一生の伴侶とする程の覚悟は出来ていなかつたが、女の方からそういふ態度で出られると腹が立つのだ。
 おそらくは、男が出来ているに相違ない、と確信を持つたのは、あれ程交合の好きな女が、近ごろは彼を拒否しつゞけ、たまに応じてもお義理一遍の、単なる肉体提供に過ぎず、なんの感激もない性交に了るのがつねで、これは、必ずや別の男と満足する行為があるに違ひない、さもなくば彼女が、こんな陽気なのびのびした顔でいる訳がない……健次はそう結論づけたのであつた。
 とすると、その相手の男とは、一体どんな奴か、なんとかして現場をおさえねばならぬ。それには……と、ある日、朝の出かけに「けふは宿直だよ」といつわつて今夜の様子を見てやろう、と計画をたてたのである。
 会社にあつても落着かなかつた。昼間からまさか男を引入れているんぢやあるまいが、いやいや、ひよつとすると昼間だとて安心は出来ん……と考へているうちに、男の顔が浮んで来た。それがとも子の顔とダブつて、二人の肉体がからみ合つて、妖しい形を見せはじめる。豊かに揺らぐ乳房、すべすべした腹、ぐつと入れたトタンに、ぎゆツぎゆツと締めつける陰門、……あゝあ、畜生め。……
 健次は居ても立つても居られない焦燥にとりつかれて、仕事もろくに出来なかつた。やつと退出時間が来ると、ほつとして社から出たが、さて今から帰宅したんでは早すぎる。彼の足は元町へと向ふ。商店をひやかし、喫茶店へ這入り、路行く若い娘たちの、軽やかな夏すがたを眺めやつた。
 まるで男の気をそゝり立てるのが目的のように、腕を出し、胸をのぞかせ、わきをあらはに見せる近ごろの女の姿、いつそ、乳房を丸出しにして歩けばよいと健次は思つた。
 元町から三宮へ出て、とある串カツ屋ののれんをくゞり、そこで、女を相手にビールを何本かあけた。
「ちよいと兄さん、なにさ、浮かぬ顔して。なんか悩みがあるの、え、しつかりなさいよ、ねえ、あたし、今夜、なんだかムズムズしてんのよ、遊ばない?」
 健次はジロリと女を値踏みした。脂肪がたるんでいるような魅力のない身体だ。
「元気ないのね、ちよいと……」
 女はぐつと手を延ばしたかとみると、ズボンの上から彼の一物を握りしめるのだ。あつ、と思つたが、くねくねとやられると、気持は悪くなく、たちまちぐーつと一物に力がみなぎつて来る。
「あゝら、たのしいわ、うふゝゝゝ、あたし、催してきた。ねえ、どこかへ行きませうよ、……うづくのよ、こゝ……ほら、……どう……」
 女は身体をすりよせて来て、チラと腿のあたりを見せた。紅い腰のものにくるまれて、白い太腿がチカと健次の眼を刺した。
 苦笑した健次は、女を突きのけて立上つた。誘惑を感じないではなかつたが、ポケツトの中の金を考へると、話にならないのだつた。
 女の何やら言ふのを聞き流して、串カツ屋を出たときは、もう八時を廻つていた。もう、そろそろよかろうと、中山手の自宅へと歩いた。我が家に着いた健次は、表を素通りして、裏口へ廻り、板塀のすき間に眼をあてた。
 もしかして、疑念が、疑念だけで済んでくれゝば、と祈つた健次の願ひも破れて彼の眼に映つた奥の六畳には、夜具の上に横たはる二人の男女の姿があつた。
 くらくらツと血が脳天に上つて、ぶるぶると身ぶるいした健次は、かねて用意しておいた釘で、掛け金を外し、くゞり戸を開けた。ギイツと音を立てたが、笑声さえ交じえて語り合ふ中の二人には聞こえなかつたらしい。
 健次は庭の植込のかげにうづくまつた。血走った彼の目は、立上つた男の腰にすがりつく妻の姿を見た。シヤツ一枚の男は、見たこともない若い男だ。
 とも子に抱きつかれて、どたりとくづれるように座つた男は、膝の上へ仰むいた女の顔の上へ、おひかぶさつてキスした。くねくねと蛇のようにとも子の腰がくねつて、白い足がむき出しになつている。
「はよう、はよう……もう……たまんないのよ」
 とも子の鼻にかゝつた甘つたれた声……ふーツふーツとらあらしい男の息吹き、……健次は煮え返る心を抑えて、のび上つた。
 男はパンツもいつしかはずして、とも子の身体を下に、のりかかゝつた。浴衣ゆかたを着たまゝのとも子は、ぱツと股を割つて、男を迎えた。白い太ももが男の太ももにからまる。燃え立つような紅い色が、はらはらとたれ下る。ぐつと二人の脚に力がこもつたと見ると、ごつしごつしと躍り上つた男の腰が、一際、力強くうねつたとみるや、女の腰も、ぐんと躍つた。
「あアゝゝゝゝ、あんたツ!」
 なんともいへない蕩けるようなとも子の喜びにふるえる声だ。近ごろ自分との交合には出さない声だ。健次は激しい嫉妬に胸をかきむしられる思ひで、ワナワナと手足がふるえた。
 部屋の二人の痴戯はますます高まつて、女の片足をかつぐようにして、ブスリ、ブスリと黒い男根が、女の陰部に出没するさまが、まともに健次の視野に映つてくると、もう我慢がならなかつた。
「あれえツ……そこ好いのよ、うツ、うツフン、フン、あゝツ、ああ、ああ、いくわよ、もう、いくわ、いく、いく、……そこ、そこ、あツ、いくいくいく」
 そのうわづつたよがり声と同時に、健次の身体は、靴のまゝ座敷へ飛び上つていた。無言で、男の肩に手をかけ、力一パイ引よせて突き倒した。
 あツ、と妙な声がとも子と男の口から発せられ、二人は蒼くなつた。
「貴様……き、きさま達は、なんてことをしていやがつたんだツ」
 射精寸前に中断させられたとみえ、妻のひろげた脚と脚との間の、くしやくしやになつた腰巻の中へ、どろりとした液体が点々とこぼれている。それを見ると、一そうむらむらと腹が立つてきて、はつたと男をにらみつけた。
「きさまは……きさまは……」
 じりじりと寄つてゆくと、ぱツと脱兎の如く、男は飛び上り、サル又とシヤツを掴むが早いか、玄関へ逃げ出して行くのだつた。
 それを見送つて、健次はとも子に目を移した。
 とも子も、流石さすがに顔を隠して、うつ伏している。その肩から胸へ手を廻し、ぐいと抱え起し、
「おい、とも子……お前は、よくも俺の顔に泥をぬつたな」
「いやいやいや。かんにんして……悪かつたわ、謝るわ。もう決してしないから、堪忍して……ねえ、あんた、ねえ」
「馬鹿ツ! 今頃そんなこと手おくれだツ、くそツ! こんな汚れたに未練はないんだ。出て行け! もう今夜限り別れてやる、出て行け、出て行きやがれ」
 狂へる野獣のように、健次は、とも子をなぐりつけては、またあしにした。
 ひいツと悲痛な声をしぼつて、とも子は転々とした。浴衣は乱れて、乳房から腹部へかけて、白い肌がむき出され、伊達巻一本にとゞめられた浴衣の下半身は、ぐいとひろげられたまゝ、くろぐろと茂つた陰毛に包まれた玉門をあらはに見せている。べとべとに濡れた玉門の赤ぐろい色が、不気味に光っているのが、腹立たしい。
「出て行け、出て行け、……」
 と叫び乍ら、健次は頭をかゝえて庭へ下りた。
 夜の道路をフラフラと歩く健次の心は重かつた。
 やっぱり、あいつは淫婦だつた、……あゝ、とも子……とも子、もうあの女とも別れたのだ……ちきしよう……あゝ、とも子……。
 
 
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