子母澤 類 淫惑の密室
目 次
第1章 吼える女
第2章 助教授の妻
第3章 宅配ボーイ
第4章 女王さまの犬
第5章 素顔のアイドル
第6章 レイプ志願
第7章 美少女ショー
第8章 ブランド好み
(C)Rui Shimozawa
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第1章 吼える女
1
渋谷にあるラブホテル街の奥に、ヨーロッパの石造りのような外装の、洒落たブティックホテルが新しくオープンしていた。入り口には銀色の文字で、「ホテル・ド・ラマン」と書いてある。
平日の昼下がりだというのに、表には、満室の表示ランプがついている。大学生らしいカップルは、満室表示を見ながらも、手をつないで、まるでレストランに入るように、自動ドアの中に吸い込まれていく。
そんなラブホテル街を、場違いのような女性の二人連れが歩いていた。
ひとりはラベンダー色のミニのスリップドレスを着た、可愛らしい顔つきの若い女性、もうひとりは見事な曲線を持つボディを、セクシーな黒いドレスに包みこんだ、夢見るように野性的な、美貌の女である。
ドレスの袖口から、白く細い手首がのぞき、膝上でゆれる裾からは、すらりとした脚線美が露出している。サンダルの華奢な革ひもがからみついている女の足首は、はっとするほどなまめかしい。
セクシーな黒を魅力的に着こなした女、川久保耀子は、「ホテル・ド・ラマン」の前で、立ち止まった。
「このホテル、どう思う?」
「すてきなラブホテルね、まさか、ここ?」
目を輝かせて、若い女が耀子に聞いた。
耀子は満足そうにほくそ笑んで、花に飾られた瀟洒な建物を見上げた。
「そう、ここよ。二軒目の私のホテル」
「へえ、人気のホテルっていうだけあってロマンティックねえ。今度、ぜひ彼と来るわ」
「あら、真里菜、その彼とうまくいってないんでしょう?」
「ええ……だからそのことを、耀子さんに相談しに来たんじゃない」
真里菜は小作りの品のいい顔をあげ、人なつっこい黒目がちの瞳で、すがるように耀子を見つめた。
「もったいないわ。あんなに気持ちいいこと、知らないなんて……」
真里菜が耳たぶまで真っ赤になった。
吉野真里菜は、耀子が銀行に勤めていた頃の後輩である。ふしぎに気が合って、今でも友達づきあいをしている。
おとなしい真里菜は、銀行のOLから鮮やかに女性実業家に転身した耀子を、心から尊敬しているらしい。
そんな真里菜が、彼とのセックスのことで、耀子に相談を持ちかけてきたのだった。
どうやら、不感症で悩んでいる、というのだ。
真里菜は育ちのいいお嬢さんらしい、可愛らしい顔つきなのだが、ムッチリと柔らかそうな肉感的な身体をしている。顔と身体がアンバランスなだけに、少年マンガのマドンナのように、清楚さとセクシュアリティを同時に放って、耀子の目に魅力的に映った。こんなにいい女なのにもったいないわ、と思ってしまう。
ふとした思惑があって、耀子は今日、真里菜を誘ったのだった。
昼間のラブホテル街に立ち止まる女二人は人目を引くのか、ひじをつつきあってくすくす笑いながら、「ホテル・ド・ラマン」に入っていくカップルがいる。
「女同士でこんなとこに立っているのも変ね。とにかく中に入りましょう」
耀子は真里菜の手を引っぱって、入り口の自動ドアではなく、植え込みの横の従業員口から入った。
ホテルのロビーをちらっとのぞくと、若い恋人たちが四、五組、部屋の空くのを待っていた。この辺りはラブホテルだらけなのに、他を探そうとせず、皆、嬉々として仲良く順番を待っているのだった。
「すごいわね、耀子さん。平日なのに、こんなに列を作っているなんて」
「おかげさまで。エッチは不況に強いの」
耀子はいたずらっぽく真里菜に笑いかけた。
川久保耀子、三十三歳。「ホテル・ド・ラマン」のオーナーで、女実業家である。
元は都市銀行に勤めるOLだったが、四年前、母が心不全で亡くなると、後を追うように父も半年後に逝ってしまった。
ひとりになったのを契機に、都心にあった親の遺産を処分した。三十坪足らずの土地でも、通りに面した角地という場所もよく、売却金は莫大になった。
その資金を元手にして、耀子は銀行を辞め、東京の郊外でラブホテルの経営を始めた。それが大ヒットしたのだった。
最近流行の言葉にすれば、ブティックホテルともファッションホテルともいわれるが、この「ホテル・ド・ラマン」は、ヨーロッパのプチホテルをイメージした、とてもラブホテルとは見えない造りにしてある。
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