館 淳一 華麗なる情事
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ランジェリー・ビジネス
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(C)Junichi Tate
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ランジェリー・ビジネス
1
月曜日の午後、授業を終えて自室に戻った詩穂は、ドアに内鍵をかけてから勉強机の一番下の抽斗を開けた。中にはファックスつきの留守録電話機がおさまっていて、メッセージがあったことを示す赤いランプが点滅していた。
呼び出し音は〃最小〃にしてある。この電話機の番号は親にも教えていない。ふだんは受信専用で、かかってきても絶対に出ない。
再生ボタンを押す。
ビーッという音の後に、男の声でメッセージが吹き込まれていた。若い。詩穂と同じくらいの年齢か。たぶん学生か浪人だろう。口ごもり、時に吃る。この声は先週、聞いたばかりだ。
《もしもし、あのー……、た、田中といいます。えっと、せ、先週の木曜日に電話したものです。あの、お金を一応指定された口座に振り込んでおきましたので、電話しました。あの、予約をお願いしたいので……。あの、本当にナナさんのあれをいただけるんでしょうね。何だか心配だなぁ……。えっと、七時以降だったら部屋にいますので……。ば、番号はこの前も言いましたけど念のためにもう一度言います》
自分の電話番号を告げて、青年のメッセージは終わった。
次にもう一つ。今度はもっと年上の男。これは何度も聞いた声だ。
《もしもし、ナナさんですか。この前もお世話になった五反田の山本です。週末には時間がとれますので、またお願いしたいと思いまして……。出来ましたら電話を下さい。今日はだいたい家におりますので、ご都合のよい時にいつでも……。では》
メッセージはその二つだった。
詩穂は手帳をとり出して机の上に拡げ、電話機のプッシュボタンを押した。この電話機はハンドセットを取り上げなくても、スピーカーで通話先の音声を聞くことができる。
回線がつながった。電子的に合成された女の声が応答する。
《はい、こちらは**銀行のファクシミリサービスセンターです。サービスコードをどうぞ》
二桁の数字をプッシュする。
《振込入金のご照会ですね? 加入者番号をどうぞ》
手帳にメモした七桁の数字をプッシュ。
《暗証番号をどうぞ》
これは、自分が持っているキャッシュカードと同じものだ。
《そのままお待ち下さい》
その後にピッピッという音が断続し、
ピー、ガー、
ひとしきり信号音をやりとりした後、留守録機能つきのファクシミリ電話機は、白い感熱用紙を吐き出しはじめた。
ミノワ ナナ様 **年*月*日
**銀行**支店
振込入金のご案内(未通知分)
口座番号 普通*****
振込 ¥10、000(*月*日)
001 タナカ シュンジ
**銀行**支店 他店券
以下はありません。
以上
(ふむ、確かに入っている……)
詩穂は軽く頷いた。新規の客は信頼してもよいと思う時まで銀行振込にしてもらっている。七時までにはまだ間がある。
(では、山本さんに電話しておこう)
リフィル手帳の電話番号簿を開き〃顧客〃と書かれたページを開く。そこには五十ぐらいの人名と電話番号が書きこまれている。
呼び出し音が三度鳴って受話器がとりあげられた。
「はい、山本です」
本人が応答した。声の感じは老けている。実際、詩穂の父親より年上だろう。彼のところに電話をするのはこれで五回目だが、他の誰かが出たことがない。専用の電話なのか、それとも一人暮らしなのか。
「もしもし。私、ナナです。メッセージありがとうございました」
「ああ、ナナさん……。これはどうも」
恐縮した声。喜びの感情がこもっている。若い女性と話せるのが嬉しいのだ。ということは、ふだんは女性とは縁が無い生活をしているのだろう。痩せていて生気がなく、パッとしない雰囲気の男だから、まあ当然だろうけど。
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