二階堂修一郎 『性美少女伝説 好きにして』
二階堂修一郎 性美少女伝説 好きにして
目 次
好きにして
義父の夏期講習
イボマラ純情派
淫獣の森
密会儀式
エロ教師赴任す
(C)Shuichiro Nikaido
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好きにして
1
外に出ると冷たい風は昼間よりいっそう強くなっていて、もうすっかり冬のきていることを告げるのだった。
石
いし
崎
ざき
恵
え
美
み
は身をちぢませ、胸元を片手で押さえながら玄関をあとにした。もう片方の手には小さなバッグをさげている。
恵美は曲り角までくると、平屋の家を振りかえって見た。生まれてから十六年間育った家である。どんなに小さく古ぼけていようと愛着がないはずはなかった。
(さよなら……)
あかりのなかには、祖父母ともうすっかり酔っぱらっているであろう父親がいたが、彼女はそっとそのあかりのなかの
仄
ほの
かな影に心のなかでつぶやいた。
(急がなくっちゃ)
隣町ではサブローが待ってくれているはずだった。いつも行く深夜までやっている国道ぞいの喫茶店。そこで待ち合わせて、いっしょに東京へ行くことになっていた。
恵美の夢は、歌手になることだった。幼い頃から歌だけが唯一、趣味で取り柄といってよかった。テレビのスカウト番組やその他のオーディションの地区予選をいつも受けていた。もっとも、本大会へ出場できたことはこれまで一度もなかった。
歌唱力はともかくとして、恵美はきわだってかわいい顔立ちの少女ではない。たしかにブスではないが、芸能界でアイドルになれるほどの器量ではないのである。
むろん、本人は、まったくそのことがわかっていないこともないが、そこは女心、娘心である。磨く前のダイヤモンドの原石とでも自分を思っているのであろう。きちんと化粧して、そしてもう少し
歳
とし
を重ねれば、きっときっとかわいく美しくなる……。
サブローも同じことを言ってくれた。歌手になることに、すぐに賛成してくれた。サブローは、調子はよかったが、やさしい男だった。
待ち合わせは、九時四十五分。
そこから夜行列車で東京に行く。東京には、サブローのダチ公がいてそのアパートにしばらくやっかいになることになっていた。
やっと念願が叶うのだった。
恵美は、東京へ行きさえすれば歌手になれるものと信じていたのである。
隣町までは、バスで三十分。海岸ぞいの道路を何度かくねって行くのだ。
(サブロー……)
この先頼れるのは彼しかいないのである。
窓からの暗い風景のなかに海が映りはじめ、恵美はそのなかにぼんやりとサブローの顔を
視
み
ていた。
サブローは笑っていた。いかにもひとのいい笑顔だった。
町
まち
中
なか
三
さぶ
郎
ろう
というのがサブローのちゃんとした名前だが、このあたりで彼を苗字で呼ぶものなどひとりもいない。たいていは、サブかサブローである。
十九歳。私立高校を一年も行かずにさっさと退学して、いまは運送会社で働いている。不良グループにいたこともあったらしいが、現在は、本人いわく、更生している。
恵美は、サブローとは街でナンパされて知り合ったのだ。彼は不良をきどっていただけあってけっこうカッコよかった。てかてかのリーゼントに革ジャン。それにサブローは長身で筋肉質であった。
知り合ったその日に、恵美はサブローの部屋に行ったのである。
恵美は、バスに揺られながら半年前のことを思いだすのだった。
半年前は、まだ十五歳だった。もちろん、処女であった。
俺のアパートにこいよ、とサブローに誘われた瞬間、予感があった。アパートに近づくにつれ、それはしだいにはっきりとしたものになってきたが、不思議と怖くはなかった。もっとも、かといって覚悟があったわけでもない。
六畳と三畳間に小さな台所のついた木造のアパートだった。
インスタントコーヒーをふぞろいのカップにいれ、ひとくち飲んだところで引き寄せられたのである。
「あっ」
カップからコーヒーがこぼれた。
「キスしたことあるんか?」
ポマードの匂いが鼻についた。男の匂いだった。
恵美は小さく首を横に振った。
「そうか。はじめての相手は俺でいいか?」
こんどは縦に振った。
「あうっ」
ぬめりとした厚い唇が重なってきた。こねくり合ってすぐに舌がくちのなかに入ってきた。逃げようとしてもサブローの舌はどこまでも追いかけてきた。はじめてのキスは実に激しかった。
「裸にしていいな?」
〜〜『性美少女伝説 好きにして』(二階堂修一郎)〜〜
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