官能小説販売サイト 霧原一輝 『牝肌めぐり』
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霧原一輝    牝肌めぐり

目 次
第一章 ほっかわ・美人若女将
第二章 松崎・落人の宿
第三章 よし・子宝の湯
第四章 しゅぜん・隣室の美女

(C)Kazuki Kirihara

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 第一章 ほっかわ・美人若女将

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 東京駅七時半発の特急踊り子181号が小田原を過ぎる頃になると、窓側の席のむろよいがうとうとしはじめた。
 シートに後頭部を預け、カクッと頭を落としかけてあわてて立て直す。それでも襲いかかる睡魔には勝てないのか、すぐにこっくりこっくりがはじまる。
 オカッパ風に切り揃えられた前髪が乱れ、いつもは隠されている額が出てあどけない感じがする。二十四歳という年齢の割りにはすれてなくて、顔つきはまだ大学生レベルだ。
 もっとも純情そうに見えるだけで、いったん服を脱げば、こちらが息を呑むようなボディに恵まれていることは身に沁みてわかっている。
(いかん、いかん……何を想像しているんだ)
 かめやまゆきひろは脳裏に浮かんだ弥生のスーパーボディを振り払って、腕時計に目をやる。
 伊豆高原駅に着いて乗り換えるまでまだ一時間ある。ほっかわ温泉に着けば、取材、撮影とスケジュールが目白押しだ。
(朝早かったし、昨夜も遅くまで会社で残業してたみたいだから、無理もないか)
 亀山はしばらく弥生を寝かせておくことにして、愛用のスケジュール手帳を取り出し、計画に抜かりがないか確かめる。
 一泊目が東伊豆・北川のS亭、二泊目が西伊豆・松崎の近くにあるO温泉ホテル、三日目が中伊豆・よしのT屋、そして最終日がしゅぜんのK亭に泊まることになる。二人はこれから、『二人で行ける伊豆混浴巡り』の取材旅行に出掛けるところだ。
 亀山幸弘、三十四歳、独身。旅行専門の小さな編集プロダクション「トリッパーズ」の社員である。
 勤めていた家電量販店をやめてぶらぶらしているとき、大学時代の旅行同好会の仲間とばったり会った。彼が働いていたのが「トリッパーズ」で、「うちは人手不足だから、遊んでいるなら、うちで働いたらどうだ」と誘われて入社した。社員八名ほどの旅行専門の編集プロダクションで、給料は安いし、人づかいも荒い。はっきり言って四六時中旅に出て、取材記事を書いている感じだ。
 だが、生来の旅行好きの亀山にはここが合っていたらしく、今年で五年目になる。飽き性で何でも途中で投げ出してしまいがちな亀山には珍しいことだった。
 今回の仕事は、地図で有名な出版社から依頼された温泉特集のうちのひとつだった。
 隣でうたた寝する小室弥生も「トリッパーズ」の社員である。ただ、亀山のように現地に飛ぶのではなくデスクワークをしている。その弥生が今回、モデルとして取材旅行につきあうことになったのには理由がある。
 今回の旅のためにモデルの女の子とカメラマンをセットで押さえておいたのだが、そのカメラマンが事もあろうに昨日、バイクで事故って入院した。昨日の今日ではさすがに代わりのカメラマンを捜すのは難しく、腕に覚えのある亀山が臨時カメラマンも兼ねることになった。
 ところが、決まっていたはずの若いモデル嬢が、素人カメラマンじゃいやよ、あのカメラマンじゃなきゃいやだ、と駄々をこねはじめた。
 事のてんまつを知った「トリッパーズ」の社長・五十嵐良三が、「ふてえ女だな。そんな我が儘なモデルは使わなくていい」と言いだしたので、てんやわんやになった。
 社長は頑固者で、一度言いだしたら絶対に引かない。それは取材方針にも及び、提灯記事は一切書かない。そのお蔭で、「トリッパーズ」は業界内でも「あそこに任せれば、しんぴょうせいは高い」というありがたい評価をいただいているのだが。
 それはいいとして、上司の一徹さの尻拭いをするのは、だいたいがその下で働いている者と決まっている。
 ちょっとモデル料を高くしてやれば、あの女も機嫌を直してくれただろうにと、亀山は心のなかでブツクサ言いながら、代わりのモデルをあたってみた。
 だが、何しろ低予算の上、今日の明日で五日間の拘束となると、きつい。
 亀山が「難しいですね。いっそのこと、なしで行きますか」と、五十嵐に泣きを入れたとき、社長の細い目が一人の女に注がれているのを知って、うん? と思った。
 事務所で帰り支度をしていた小室弥生の身体を、社長は値踏みするようないやらしい目で舐めまわしていたのだ。
 社長の視線に気づいた弥生が、「えッ、何?」と急におたおたしはじめた。
 まさかという顔をする弥生に、社長が一言。
「小室くん、きみで行こう。うん、名案だ。よし、決まりだ」
 社長の言葉通り、それで決まりだった。
「トリッパーズ」では、五十嵐の言葉はご神託にも等しい。それに、弥生はまだ入社二年目の新人であり、かつコアな旅好きの弥生は五十嵐社長を大学時代から尊敬していたらしいのだ。
 
 
 
 
〜〜『牝肌めぐり』(霧原一輝)〜〜
 
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