北山悦史 やわひだ詣で
目 次
プロローグ
第一章 甘肉の誘い
第二章 悦楽の熟れ肉
第三章 白日の淫交
第四章 生娘喘ぎ
エピローグ
(C)Etsushi Kitayama
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プロローグ
丘の上には夏草がうっそうと生い茂り、木立からは蝉の声が耳を聾するばかりに響いてくる。
空は明るく晴れ渡り、地平にぼうとかすんだ小山の向こうに、真っ白な入道雲が湧き起こっている。
丘から見下ろす田には、重くこうべを垂れはじめた稲穂が、はるか印旛沼のほうまで広がっている。
下総国佐倉藩印旛郡公津台方村。
名主総代木内惣五郎(佐倉惣五郎=佐倉宗吾)が妻と幼い四人の子ともども公津ヶ原で処刑されてから十二年の歳月がたった。
惣五郎は、藩内一帯の凶作と重税に苦しむ農民のため、ほかの名主たちとともに時の藩主堀田正信に訴え出たが聞き入れられず、死を覚悟の上、上野東叡山寛永寺に墓参りの四代将軍家綱に直訴した。
惣五郎一家の死罪と引き換えに向こう三年間の年貢は減免され、藩内三百八十九ヵ村は救われた。時は移り、藩主も松平乗久へと代替わりしている。
その後、不作の年はあったものの、農民が飢えに苦しむようなこともなく、ここ数年は豊作がつづいている。
「みんな惣五郎様のおかげだ」
村人たちは口々にそう言い、刑場跡に埋葬された墓へのひそかなお参りを欠かさない。将軍直訴という大罪を犯して磔刑に処された惣五郎を表立って弔うことは、できないのだった――。
身の丈を超す夏草が揺れ、騒いでいる。せわしなく熱い息づかいがしている。
夏草の根元で、ボロといっていい着物の胸が剥き開かれ、白くとろけるような生肌が暴かれた。
「あ、あん、平太……」
草をしとねに仰向けになっているあきは胸をうねらせながら、いとしい男にしがみついた。
あきは、顔も腕も真っ黒に日焼けしている。だが、暴き出された肌は雪のように白かった。
形よいお椀形の乳房は目にもまばゆく、淡い桜色の乳首は愛を待ち受けて打ち震えている。
「あき、おまえと一緒になりたい。おまえと添い遂げたい」
かなわぬ夢なのは百も承知で平太は言った。
平太は十七歳。貧農の三男。親でさえ自分の田畑をいくらも持っていない。ましてや三男の平太は生まれて死ぬまで無一物の身。一生、あちこちの農家から野良仕事をもらってその日暮らしをしていくだけだ。
あきは十六歳。平太のさらに下の身分。親は主に牛馬の屍を扱う仕事をしていた。
今、平太は野良仕事を抜け出してきて、同じく川原での仕事の手伝いから抜けてきたあきと、いつものここで一時の逢瀬を楽しんでいたのだった。
いくら好き合った仲とはいえ、身分の垣根を越えての婚姻は許されるものではない。ただ、愛を確かめ合うだけだ。
この近隣では、色恋そのものは、垣根を越えてなされていた。
惣五郎の将軍直訴で救われた民人は、それをきっかけにして、貴賤の分け隔てなく人心を一つに結束し、苦境に立ち向かうようになった。
不作の年も何とか切り抜けてこられたのも、みんなの心の中に「惣五郎様」があったからだ。
その結果として身分間の人情面での交流もしげくなり、色恋が大目に見られるようにもなった。
婚姻こそ認められないが、下の身分の女が上の身分の男の子を身ごもり、産み落とすこともまれではない。
そしてその子は、“集落の子”として、みんなの手で育てられた。むしろ、大事に育てられたといってもいい。
戦国の世から集落は外との交流が遮断され、血が濃くなっていた。それが、徳川の代になり、身分は完全に固定された。
(外の血が欲しい)
集落の多くの者がそう思い、旅の者に妻、娘をあてがうということもおおっぴらになされていた。
「あたしは誰とも一緒にならない。信じて。それは決めてるの。一つ屋根の下で暮らせなくても、あたしの心は平太のもの。一緒に住むのは無理でも、せめて平太のやや子が欲しい」
そう言ってあきは、髪ぼうぼう、土と汗と垢にまみれた平太の顔をまさぐり撫でた。
「おれの子を身ごもってくれ。元気なやや子を産んでくれ。おれの手で育てられなくてもいい。おまえが産んだ子が、おれたちが生きてる証だ。遠くから子供を見られるだけでいいんだ」
平太は白くとろりと光る乳房を揉みしだき、可憐な乳首にしゃぶりついた。
「ああ、平太平太。好きよ、平太。あたしの平太……」
あきは歓びに身悶えし、脚をよじり合わせた。
粗末な着物の前を割り、平太の手が秘部にまさぐり入っていく。夏草を蹴り乱してあきは歓びを強める。
「あきのここに、おれのこれを」
平太は、猛り勃つ肉幹を握らせた。愛を求め、あきはきつく握り込んだ。
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