官能小説販売サイト 北山悦史 『やわひだ探り』
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北山悦史    やわひだ探り

目 次
第一章 導きの観音
第二章 再会・別離
第三章 法悦の蘇生
第四章 柔肌母娘

(C)Etsushi Kitayama

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 第一章 導きの観音

     一

 冬枯れの里山を眺めやりながら、ゆうたくは成田に向かっていた。
 厚手の羽織に道行、編笠といういでたちだ。
 乾いた道がサクサクと音を立てる。霜柱の跡の空洞を踏むせっの感触が心地よい。
 朝五つ(八時)を過ぎている。いつものようにすずあやとの三人であさをとってじき、発った。
 昨日、教え子たちに言って、今日の塾は休みにした。その場には綾ももいたが、彼女たちには一昨日、成田方面に行くと言ってあった。
「方面」と言ったので、拓馬がのところに行くと、二人は思っただろう。その日の夕餉の席で、拓馬は鈴にも同じことを言った。
「たまには外に出て、気晴らしをしませんとね」
 そう鈴は言ったが、拓馬がいざこざに出くわしたり、巻き込まれたりしなければという思いは、三人のうちで鈴が一番強いかもしれなかった。
 拓馬がこのまま鈴のうちに住み着くこと、つまり、拓馬が綾と夫婦になることを、鈴は本心から望んでいるようなのだ。
 ただ、いろんなことのからみで、そうなるのは難しいと、拓馬は思っている。当の鈴にしても、そう思っていなくもないだろうが。
 むしろ鈴は、自分の体を燃え立たせてくれる拓馬を失いたくないがゆえに、娘と夫婦になってくれればと思っているのかもしれない。
 しかし、流れ者といっていえなくはない身、拓馬がすんなりとこの土地の人間として受け入れられるとも思えない。
 くみの腹も、近くで見れば膨らみが目立つようになってきたが、拓馬の子を宿しているくみとさえ、一緒になるのは難しい。
 すけが、陰に陽に見せていることだが、江戸の旗本の拓馬は、くみたちの集落では受け入れられないようなのだ。
 くみの腹に子種を仕込んでくれたことで用はすみ、ときどきは顔を見せるだけというのが、望まれる拓馬のありようなのだ。
 婚姻関係が難しいというのは、いうまでもなく商家の娘であるなおともだが、なおは初めからその辺のところは割り切っていて、遊びとして付き合ってくれている。
 旗本とでも臆することなく付き合ってくれるのは、なおの性格もあるとはいえ、拓馬としては嬉しい。
 そもそも、拓馬がこの佐倉に腰を落ち着けることになったのも、なおとの出会い、なおの世話があってのことだったが、危機一髪のところで命を助けられもし、まさに命の恩人、そして、今日これからのことでも、恩人といえた。
 拓馬が成田に行こうと思ったのは、成田屋の本家に顔を出すためだった。そしてそこの一人娘、なおのいとこであるに会うのも、目的の一つだった。
 成田屋本家のあるじとくろうも妻のも、拓馬がはつと夫婦になることを願っている。なおのいるところでは遠慮して、はつは表立ったものを見せはしないが、拓馬のことが、嫌いではないようだ。
 両親も娘もそうなのだから、あとは拓馬がうんと言えばいいだけの話だが、そうはいかない事情が、佐倉にはあるのだ。
 ただ、拓馬が佐倉から成田に移ってしまえば、それは事情も変わろう。しかし拓馬としては、自分からは動きたくない。人に恨みを買うようなことは、ことさら避けたい。
 やむなく動かざるをえないというのが理想だが、それは、もう少ししたら、かなえられるかもしれない。
 正月か遅くともきさらぎには、鈴の夫であるたちばなはちろうが江戸勤めから戻ってくる。そうなれば、拓馬が今のままということは、ありえなくなるだろう。
 江戸落ちの人間、それも初対面の拓馬を、九八郎がその場で綾の婿として受け入れるなど、考えられない。拓馬であれば、承知しない。
 時はすでに師走しわす。これはおちおちしていられない。はつと夫婦に、ということを考えると、あちこちに心苦しいものがあるのは否定できないが、とりあえずなお抜きで行ってみようと思った。
 婚姻はともかく、生活の場が確保できそうなのが、ありがたい。初めて会った席で、徳太郎は拓馬に、塾や道場のための場所はいくらでも世話することができると明言していたのだ。

 今、歩いているのは、初めての道だった。いつもの道では、くみや、くみの里の者に会うかもしれなかった。
 くみ本人には会わなくても、自分が一人で成田に行ったことがくみの耳に入るのがいやだった。
 くみの親たち、里の人間は、自分を一員として受け入れてくれない。少なくとも、定住を快く思ってくれない。
 それならば、そこの一員であるくみに気兼ねすることもないともいえようが、自分としては初めての女、それも自分の子を宿した女に、ほかの女に走るようなところを知られたくなかった。
 周囲さえ許せば、くみは自分と一緒になりたいにきまっている。そんなくみが、やはり自分は一番好きなのかもしれない。だからこそ、知られたくない。
 間借りしている立花九八郎の屋敷から、佐倉城を背にして東に向かって四、五町、そこで南のおゆはんから来る道とぶつかって左に折れ、東北に歩いている。一刻半もすれば成田に着くだろう。
 途中、屋敷を出て一町ほど歩いたところで、高崎川を渡った。高崎川は、くみの里を通ってきて西に向かい、三町も行ったところで、生実藩から流れてくる鹿島川と合流して、いんぬまに注いでいる。
 その注ぎ口に近いところが竜神の船着場で、なおと綾の出迎えを受けてこの土地に腰を落ち着けることになった、懐かしい場所だ。
 そこから沼の岸伝いに西に行ったところで、なおと野のまぐわいを楽しみもした。そうだ、野のまぐわいといえば、思い出す。
 さっき高崎川を渡って歩いてきた道から脇に入ったところにあるもりで、なおに誘われ、初めてその営為を体験したのだった。
(同じ血を引いているのだ。はつもなおのようなもち肌をしていて、なおのようにおまんまんの具合もよく、なおのようなよがり声を上げるのかな)
 つい、そんな想像をしてしまった。
(しかし、おれの場合、女のほうから言い寄ってくるのだから、仕方がないのだ)


 
 
 
 
〜〜『やわひだ探り』(北山悦史)〜〜
 
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