末廣 圭 ソウルの女
目 次
第一章 「日帰り情事」にウサ晴らす!
第二章 月夜の「ベランダ」に燃える!
第三章 「バスタブ」に浮いた白磁の裸身
第四章 「車内ファック」に濡れた褐色の肌
第五章 美人社員「鏡張り」に滾る
第六章 梨花大生は「半処女」
(C)Kei Suehiro
◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。
第一章 「日帰り情事」にウサ晴らす!
1
ドアを開けるのと同時に真っ白な子犬が二匹、キャン、キャンッ! と飛びついてきた。ユン・ヒジャンは腰を屈め、両手を差しのべて二匹を腕の中にすくい上げた。ご主人の帰りを待ちわびていた子犬たちは、ヒジャンの顔をところ構わず舐めまわす。
一人住まいのヒジャンは、犬が大好きな女だった。
「ダメよ、きょうは……。ヨボ(旦那様)はご機嫌斜めなんだから。あっちの部屋で静かにしていなさい」
澤村薫はうっそりした足取りで、部屋の中を一瞥した。見慣れた佇まいにそれほどの変化はない。四階建てアパートの一階にあるその部屋は、昼間なのに薄暗い。
「入っていいのか?」
「はい、どうぞ。ここはあなたのお城でしょ」
どこで勉強したのか、ヒジャンは実にたくみに日本語をあやつる。澤村がこの部屋を訪れたのは、もう十回以上になっている。
ドアを入ったすぐそこの部屋は十四、五畳もあるリビング・ルームになっていて、皮張りのソファ・セットと、大型テレビがなんとなくアンバランスに配置されていた。
その中間には粗末な座卓が置かれ、座布団が二つ、ソファの縁を背もたれにするとちょうどいい按配に並べられていた。
「いつもきれいに片づけられているね」
「慌ててお掃除しておきましたよ。だって急にくると言うから……」
澤村がグレーのジャケットを放り出すように脱ぎ捨てソファに座るのと一緒に、子犬たちは隣りの部屋に閉じ込められた。
ヒジャンは足早に駆けより、澤村の足元に置かれていた座布団にペタンと尻を落とした。両手が、澤村の膝をかかえ込んだ。ダーク・ブルーのミニスカートから、ストッキングも穿いていない真っ白な太腿が零れ出し、同色のブラウスに、ブラジャーの影が薄く浮く。
「どこから電話してきたの?」
「成田空港からだ」
ヒジャンの指先が、甘えて太腿をなでさする。いつも潤んでいるような大きな瞳が驚きに変わっていた。ヒジャンを訪ねるときは、少なくともその前日に電話連絡することにしていた。それが、今回に限っては当日予告だった。
午前十時のフライトに飛び乗って、金浦国際空港に降り立ったのはジャスト十二時だった。澤村はいつも韓国でビジネスクラスの往復チケットを買っておく。日本で買うより二万円以上安くなり、だいたい六万八千円だった。シートさえ空いていれば往復は自由になる。
甘えて、膝に枝垂れかかるヒジャンの黒髪が背中に流れ、蛍光灯に照らされて銀髪のようにツヤッと光った。
間取りはけっこう贅沢な造りになっているのに、隣りのマンションと隣接しているせいで、採光は悪い。だから昼間から蛍光灯の厄介にならなければならなかった。
「もし私がいなかったらどうしたの?」
「どこかでパラム(浮気)でもしていたのか?」
「浮気していたように見える?」
「いつもより色っぽく見えるよ。きのうの夜はお楽しみだったと、顔に書いてある」
「眼が悪くなったのね」
ヒジャンはクスンと笑って、その顎を膝に落とした。ほんの少し厚ぼったく、吸いつきたくなるほど可憐な唇がズボンの上から被さり、口を小さく開くと柔らかく歯を当てる。
くすぐったい感触が腿の付け根にツーンと響いた。
澤村は、その長い髪をすき上げるようにしながら、頭からたぐりよせた。膝がにじりよって太腿がさらに剥き出しになり、ヒジャンの身体は澤村の股間にスッポリ挟み込まれる形で納まった。
「きょうはどうして、そんなにご機嫌悪いの?」
「一週間前から、社長と大喧嘩ばかり」
「また?」
「ああっ、毎日だ」
澤村は東京・神田にある中堅出版社で男性総合月刊誌の編集をやっている。二年前に編集長に就任した。売れ行き不振に経営者の口先はうるさくなる一方だった。
「あなたはサラリーマンですから、会社の偉い人と、そんなに喧嘩ばかりしてはダメでしょう」
「俺はいつクビになっても構わない。聞き分けの悪い社長や役員の言いなりになっていたら、ストレス嵩じて脳味噌がガンになってしまう」
「それで、ソウルにきたの?」
「悪いか……?」
「いいえ、私はとっても嬉しいわ。それにね、あなたのそのちょっと怒った顔、逞しいのよ。惚れ直してしまう……。脳味噌ガンなんていやよ」
数日前、澤村は役員室に呼ばれて、こっぴどく叱責された。この数年の売上げ不振をなんとかしろ――と。
澤村とて遊んでいるわけではない。それなりに業績アップに向かって、日夜努力している。しかし、バブル崩壊のなだれ現象は奥底の見えない谷に墜落していくだけで、世間の趨勢は個人の力だけではどうにもならない落ち込みが続いている。
「会社のストレスもソウルにくれば、すっかり忘れてしまうんだ」
「ソウルにくるだけでいいの?」
「ヒジャンの裸を抱くと、ウソのように消えていく」
「まるで、私ってトランキライザーみたい」
ヒジャンの両腕が太腿に巻きついて、ふくよかな胸の膨らみが内腿にしなりついた。ほっそりした身体つきなのに、胸のたわみは驚くほどに豊かだった。
――澤村がヒジャンと巡り会ったのは、もう一年半も前である。
その当時、ヒジャンはソウルの中心街・明洞の小奇麗な洋品店で働いていた。取材のために韓国を訪れていた澤村は、仕事の合間に偶然に立ちよったその店で、細身の身体を濃紺のスーツに包んだヒジャンにひと目で引きつけられた。
言うなればひと目惚れである。
身長は百六十センチほどで、ヒールの足元が折れそうなほどにほそく引きしまっていた。
澤村は細い女が好きだった。
一見の客相手だというのに、愛くるしい小作りのうりざね顔に笑顔がたえない。細い眉毛の下の大きな瞳が、キラキラッと輝いていた。睫毛がクルッと跳ね上がり、小さな鼻が可愛かった。
旅の恥はかき捨てと、さりげなく澤村は声をかけた。「なにを言っているのよっ!」と冷たく断られて元々である。
「どう、お店が終わったら、カラオケにでも行こうか」
「…………」
一瞬、ヒジャンの顔が曇った。眼の前のスポーツ・シャツをハンガーからはずす仕草をしながら、ヒジャンの眼線が幾度となく澤村の全身を駆け巡った。
澤村にしたって、いきなりOKが出るとは思ってもいない。日本人旅行者の戯れに応じる韓国人女性の手際よさには慣れている。
「韓国は何回目ですか?」
ヒジャンのきれいな日本語に驚きながら、澤村は、またその全身を見つめ直した。
「今度が三回目……」
ぽんとうは三十回を越している。ソウルを訪れるたびにキーセン・パーティで出会った女たちと行きずりの恋愛ごっこを楽しみ、日本に帰れば、女たちの顔はすっかり忘れていたのだ。
「ホテルはどちら?」
|