末廣 圭 愛 慕
目 次
プロローグ
第一章 体育館キス
第二章 お母さんの素肌
第三章 秘めた約束
第四章 父親の秘密
第五章 身代わり
第六章 変 身
第七章 告 白
第八章 陶酔の館
(C)Kei Suehiro
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プロローグ
近藤翼、十五歳……。
自宅から歩いても数分のところにある都立高校に進学して、九カ月目になる。クリスマスと正月を迎える冬休みが間近に迫っていた。しかしこれといった予定があるわけでもない。
母親の桜は翼が五歳のとき急逝して、仕事一筋の武骨な父親との二人暮らしだから、クリスマスや正月の、温かみのある家族団欒を過ごした記憶はほとんどない。
父親の近藤浩は都内でも二十人ほどしかいない『鍵師』だ。本業は鍋やフライパンを売ったり、合鍵を作る『近藤金物店』だが、店の経営には驚くほど無頓着で、たまに店にいても合鍵を作る電動ヤスリの前で、粉塵にまみれている。
『鍵師』はマルサの尖兵だ。警視庁の捜査官や裁判所の役人と一緒に犯罪者の家に行き、ドアの鍵や頑丈な金庫を、たちまち開錠する技術を持っていなければならない。
父親の夢は一人息子の翼を、一流の『鍵師』に成長させることだ。中学校に入学したときから翼は、耳かきのような金具で開錠する訓練を積んできた。
自分も父親に負けない『鍵師』になるんだと……。見よう見真似で、簡単な鍵なら一分もかけないで開錠する技を身につけた。
『鍵師』になろうと思う意欲は、歳を経るにしたがって強くなっている。
しかし高校に進学して以来、父親との会話が少なくなっていることも気になっている。仕事用の黒いバッグをかかえて出かける父親の後ろ姿が、何となく寂しそうなのだ。年齢の割に老けて見える父親を、心の隅で労っている。
母親が亡くなって十年も経ったのだから、いい女がいたら、お父さんも再婚していいのに……。翼はそう考える。厳つい容貌に似合わず、親しい人には「ヒロさん」と呼ばれ、優しい一面もある。
だいいち年齢はまだ四十五だ。『鍵師』という秘密めいた仕事には畏敬と尊敬の念をいだいているものの、その一方で、父親は男の欲望をどこで発散させているのだろうという疑問も湧いてくる。
父親の身辺に、女性の匂いをまるで感じないからだ。
そのことは中学三年の夏、同級生の山城果歩の姉、香織の躯に童貞を捧げて以来、次第次第に翼の心を揺り動かし、興味をつのらせてきた。
まさか父親も、自分と同じようにヌード・グラビアでも見ながら、自慰に耽っているわけでもあるまい。
実際のセックスとは、こんなに感動深く、そして快感に満ち、女性を征服する満足感に浸れるものだったのか……。
それはこの一年半ほどで接した十人の女体によって、五体、五感の隅々まで稲妻のように砕け散る官能の炎を味わったことで、さらに父親への疑問が増幅されるのだった。
女性と接するうちに翼は、自分の躯からある種の電気が発生していることも知った。手を握りしめるだけで、頬を赤らめ、躯を震わせ、冷静さを失い、彼女たちは翼の前で次々と衣服を脱いでいき、そして粘液にまみれた悩ましい股間を、恥じらいもなくさらしていった。
肉幹にキスされ、頬張られ、そしてとめどもなく噴射する白い粘液を、彼女たちはうっとりした表情を浮かばせながら、一滴残さず呑み干した。
自慰はエッチ週刊誌のヌード・グラビアを見ながら、何度もやった。指でしごいてやると、ビュッと噴射した。
しかしあんな生臭そうな液体を、おいしそうに呑む女性の行為は驚異だった。自分がもし女だったら、同じことができるだろうかと、何度か自分の心に問いかけたが、はっきりした応えは返ってこない。
だが気分が昂揚してくれば、女性の性器に口を寄せ、熱く潤む秘肉をむさぼり、そして奥底からジュルジュルと漏れ出してくる粘液を呑むこともできた。それが男と女の性行為なのかと、新しい発見もした。
昂ぶってくれば、人間とは何でもやってしまうのだと。
そうした激しい前戯を終えて、強張った肉幹をねばねばに濡れた神秘の肉に没入させていく快感は、ほかにたとえるものがない。
翼がこの世に生存していることは、父親と母親が交わったことの結果だ。母親は美人だったらしい。父親の肉は母親の躯に埋没したのだ。それならば父親はセックスの悦びも知っているはずだし、女性を慈しむ心も持ち合わせているのだ。
女嫌いではない……。
そんなことは、中学生時代には考えも及ばないことだった。自分自身が女体の甘媚を覚えたことによって、父親を一人の男として、注意深く見つめるようになっていたのだろうか。
一度聞いてみようか……。
そうも考える。父親がかわいそうだ。
ぼくに遠慮なんかいらないんだよ。
百八十センチにも伸びた体躯と同時に、メンタルな部分でも一人の男として、次第に逞しく成長している自分の内面に、翼は密かな満足を覚えるのだった……。
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