官能小説販売サイト 高竜也 『僕の母(上)』
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高 竜也    僕のママ(上)

目 次
第一章 熱 写
第二章 憧 憬
第三章 妄 執
第四章 淫 女
第五章 牝 臭
第六章 痴 態
第七章 奸 計
第八章 触 発
第九章 母 姦
第十章 不 倫

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 第一章 熱 写

「こんなもの、見たことないだろう」
 突然、目の前に突きつけられた写真を見た瞬間、直紀はかつてないショックと羞恥で全身を火照らせて、今にも破裂しそうに高鳴っている心臓の鼓動を、相手に悟らせまいと必死になって平静を装った。
「まあ、ゆっくり見ろや」
 染谷宏司は写真を押しつけると、植込みの蔭に屋根だけを見せている公衆便所のほうへ消えていった。
 夕暮れ近い公園には人影もまばらで、樹齢数百年といわれる木々の枝には、晩秋の気配を思わせる夕日が影を落としていた。
 直紀は四、五枚の写真をあわただしく見終わると、今度は、一枚一枚の構図をしっかりと網膜に刻みつけた。
 ベッドに横たわっている女の胸もとははだけ、裾は大きく左右に開かれて、腰骨の少し出たゆったりした腰まわりには、ほんの申しわけ程度の薄い布地がぴったりと張りついていた。傍には大きなフロア・スタンドが置かれ、その光が女の白い腹や、まだビキニの跡の残っている大きな乳房をくっきりと浮きあがらせている。
 よく見ると、淡いピンク色のスキャンティの中心の盛りあがった部分は、黒い影になっていて、それが女の恥毛であることが、若い直紀にもよくわかった。
 どの写真も、どういうわけか顔が写っていない。
 直紀がとりわけ興味をひいたのは、スキャンティの中に、横から伸びた男の手が侵入している写真である。それは、いわゆるクローズ・アップの構図で、男の指は明らかに女の中心部分をまさぐっているようであり、少しずりさがったスキャンティの縁から、黒い茂みの一部分が生々しく写っていた。
 肩越しに生臭い息を感じて振り向くと、いつ戻ってきたのか、宏司がニヤニヤしながらのぞきこんでいる。目を皿のようにして眺めていたあさましい姿を見られたと思うと、直紀は恥ずかしさでいたたまれない気分になり、ムッとした表情で写真を突きかえした。
「いいんだ。あげるよ。いつも宿題で世話になってるからな」
「いいよ。いらないよ」
「そう言うなって」
 無理矢理といった感じでポケットに押しこめると、宏司はそのまま公園の出入口まで駆け抜けてしまった。
「じゃあな」
 大きく手を振った宏司の姿が見えなくなると、直紀は、まるで悪事でも働いた後のようにキョロキョロとあたりをうかがいながら、足早に公園を出た。
 南青山の閑静な住宅地にある我が家に戻ると、母と通いのお手伝いの老婆が、夕食の支度をしている。
 八畳ほどの自分の部屋に引きこもった直紀は、改めて宏司の残していった写真を観察した。
 十七歳の若い血潮が、たちまち大波小波のように揺れだして全身を駆けめぐる。いつしか直紀は、下半身を剥きだしにして、熱くそそり立った分身を我が手でしごいていた。
 若い男のエネルギーが爆発するのに時間はかからない。虚しくティッシュペーパーの上に飛び散った白濁した液体を眺めながら、直紀はにわかに女体に対する耐えがたい渇きを覚えた。
 直紀は、小学生の頃から勘のいい生徒で、がむしゃらに勉強はしなくても、いわゆる勘所をつかむのが上手で、中学は家からそう遠くない私立の有名進学校にすんなり合格し、そのままエレベーター式に高校にも進んだ。だが、そこは男子校なので女体に対する免疫性というものがない。
 高校二年で十七歳ともなれば、身体は立派に大人である。性夢に悩まされだしたのが一年ほど前で、その頃から切ない欲望の処理手段として、ごく自然に自慰も覚えていた。しかし、女体に対する憧憬の念は日ごと夜ごとに強くなり、そのことを考えただけで勉強もろくに手につかないこともある昨今だった。
 そんな矢先に衝撃的な写真をプレゼントされたのだ。
 ドアがノックされるまで飽きることなく写真を眺めつづけた直紀は、夕食の時、母の美穂子とのやりとりに生返事ばかりして、一度ならず二度も注意され、不審な目を向けられた。
「学校で何かあったの?」
 まばたきもせずに見つめられると、直紀は心の中まで見透かされたような気がして、うろたえながら顔を横に振った。
「でも、なんだか変……」
 母の手がすっと伸びてきて頬を撫でた。
「こんなところにごはんをくっつけたりして……」
 直紀は、母のいたずらっぽい笑顔にわけもなくどぎまぎして、御飯をかきこんだ。
 夕食の後片付けを終えて老婆が帰ってしまうと、広い家の中には大抵二人だけである。
 織部家の当主拓也は、時流にのったビデオ制作会社の経営者であり、また自社作品のほとんどの監督をする才人で多忙をきわめ、家に帰ってくるのは、月のうち一週間ほどである。あとは海外や地方のロケに出かけているか、編集などすべてを自分でやるせいもあって会社泊まりになることが多い。
 妻の美穂子には、外泊するのは、それだけの理由でないことがわかっている。愛人の存在が家庭生活を脅かすほど大きくなった今は、真剣に離婚ということを考えるのだが、心に傷を負いやすい年頃の直紀のことを考えると、おいそれと実行に移すわけにはいかないのだ。
 美穂子が久我涼子という愛人の存在を知ったのは一年ほど前であるが、夫の拓也とはそれ以前からの関係であるらしい。
 父親がほとんど家にいないのは特殊な仕事のため、と直紀は信じこんでいるから、そのことについて美穂子は、騒ぎたてて波風を起こしたくない。当初は、息子が大学に入るまでは、なんとしてでも耐えていこうと思ったのだが、近頃は精神的な苦痛よりもむしろ、肉体的苦痛にさいなまれて、情緒不安定になっている。その不安から逃れるために、以前は、ほんの少々だった酒量も、近頃はぐんと増えている。
「直ちゃんが、早く私のお相手をしてくれるようになってくれると嬉しいんだけど」
 最近、とみに男臭くなってきた直紀の顔を見つめながら、ブランデー・グラスを傾けると、あっという間に直紀の手がグラスをひったくってしまった。
「いいよ、相手してやるよ」
 直紀の飲み方は乱暴だった。まるで飲料水でも飲むように喉に流しこんでいく。
「あら、だめよ。そんな……」
 そう言った時には、グラスはもう空になっていた。
「大丈夫?」
「うん……」
 むせそうになるのを我慢しながら、直紀は無理に笑顔を作って母を見た。今までにない美しい顔だった。それまで直紀は、母に対して、美しいとか、女らしいとかいう評価を下したことがなかった。もっと極端な言い方をすれば、女という感覚で見たことがなかったのだ。
「いやぁね、変な顔して……あらあら、もう赤くなった」
 母親らしい仕草で、ちょんとおでこを突つかれた直紀は、
「うん、酔っちゃったみたいだ」
 そう呟いて母から視線をそらせた。
 胸の動悸はアルコールのせいではないことを、直紀自身が一番よく知っていた。その時、直紀は、明らかに美穂子という一個の女性に対して、男としての欲望を抱いたのだ。
 網膜に焼きついた女の裸身に母が重なった。曖昧な輪郭しか思い浮かばない。
 美穂子は、不意に怒ったような顔になった息子を気遣って、額に手をあてた。
「熱でもあるんじゃないの?」
「え!?……いや……」
 夢からさめたような直紀の顔は、ますます赤味を増して、さながら仁王様のようだった。
「ブランデーなんか飲むから」
 自分のたしなめの声にうなずいた息子を見ると、美穂子はまた、グラスにブランデーを注いだ。
 電話のベルが鳴ったのは、その時である。
 電話に出た美穂子は、あなたによ、というようなしなを作って電話を直紀に差しだした。かけてきた相手は染谷宏司だった。
「今のはお前のママか?」
「うん……」
「いい女だよなあ……」
 心底感心している宏司の声が受話口から聞こえてきた。
「何か用なのか?」
 つっけんどんな直紀の声に、傍にいた美穂子がびっくりしたように顔を向けた。
「さっきの写真の女だけどよ……あれ、俺の姉貴なんだ」
「うそ!?……うそだろう?」
 一瞬、直紀の脳裏を、いつか文化祭で紹介された朋江の姿がよぎった。クラスの誰かが、「松坂慶子によく似ている」と言ったのもうなずけるような美しさで、口もとにある黒子ほくろが妙にコケティッシュな女だった。


 
 
 
 
〜〜『僕の母(上)』(高竜也)〜〜
 
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