末廣 圭 純 愛
目 次
プロローグ
第一章 嫌われ者同士
第二章 わがままなお客さん
第三章 真夜中の出来事
第四章 純なときめき
第五章 不感症って、何?
第六章 初めての体験
第七章 仲居の美代さん
第八章 布団部屋
第九章 愛の告白
(C)Kei Suehiro
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プロローグ
ぼくって、生意気な子供になってしまったのかな……。そのことを考えると、速水百会は悲しくなる。自分にそんな意識は全然なかったから。
夏休みが終わって十日ほど経ったとき、同級生の瀬戸早季子に、校門を出たところでつかまえられた。すごくおっかなそうな顔をしていた。目尻を吊りあげ、ぷっと頬を膨らませた。
早季子とは桜の花が満開だったころ、デートをした。多摩川の土手を、手をつないで歩いた。木陰に座った。何を話したのか、そんなことはすっかり忘れてしまったけれど、彼女のことが急に好きに思えてきて、草むらに押し倒し、キスをした。
百のこと、大好きよ。ウソじゃないわ……。早季子はそう言って、脇腹にしがみ付いてきた。とても新鮮なキスに感じた。二人は恋人同士になったつもりだった。
その後、デートはしていない。
何をそんなに怒っているんだよ、ぼくは何も悪いことをしていない。学校で顔を合わせたときは、目で合図を送っていたし、誰も見ていないときを見計らって、こっそり手を振り、ぼくの気持ちを伝えていたつもりだったと、百会は自分を庇った。
速水君に話があるんだ……。そっぽを向いて歩き出した早季子は、他人行儀な口の利き方をした。速水君なんて、呼ばれたことはなかった。学校で会っているときは「百」だったし、多摩川でデートしたときは、「あなた」と呼んでくれるようになった。
これまでにない剣幕に、恐る恐る彼女の顔を窺った。
最近、速水君、評判悪いわよ。大人ぶっているし、生意気になったって。わたし、嫌いよ、生意気な子って。何があったのか知りませんけれどね、わたしのことは忘れてちょうだい。多摩川でデートしたこともね。速水君は、もっと純真な中学生だと思っていたのに、わたし、裏切られてしまったのね……。
一気にしゃべりまくって早季子は、ちょっと空を見上げるようにして、手の甲で目尻を拭った。泣いていたらしい。前から泣き虫だったけれど、ぼくには涙も見せられなくなったのかと、百会はぼんやりと見つめるしかなかった。
振り返りもしないで早季子は、小走りで去っていった。
彼女の吐いた言葉を何度も思い返した。
ぼくは失恋したんだ……。生まれて初めて味わった切ない思いより、大人ぶって生意気になったと指摘してきた彼女の強い言葉が、ぐさりと胸に突き刺さって離れていかなかった。
悲しくなった。ぼくは大人ぶってなんかいない。普通にしている。中学の二年生に変わりはない……。
でも、もしかしたら自分では意識していなくても、知らず知らずのうちに大人びたことをやっていたのかもしれない。ふとそんな考えもよぎった。
それは、ぼくの手からへんてこりんな電気が放たれていて、少しだけ大人の世界を覗いて、体験してしまった結果なのだろうかと、早季子の叱責にも似た言葉が甦ってくるたびに、百会は自分の両手が恨めしくなるのだった……。
速水百会の父親である速水徳治が千葉県浦安市美浜に、『速水指圧センター』を開業したのは、百会が生まれる数年前だった。指圧センターの周囲は大団地群が立ち並んでいる。徳治の治療を受ける患者は、予想以上の数に上った。
ある日、徳治は息子の百会に治療の代行を頼んだ。心身症に苦しむ近所の奥さんで、足の裏、肩甲骨、鳩尾を優しく強く押してあげなさいと指示された。
百会に指圧の経験など、もちろんなかった。
センターの治療室で患者さんに対しているときの父親の姿を見ていただけで、それを真似するしかないと、百会は実に心細い思いで患者さんの家に走った。
が、異変が起きた。病的なほど青白い顔をしていた奥さんが、指圧をつづけていくうちに頬を染め、氷のように冷たかった足の裏に、温かみが戻ってきたのだった。
奥さんは言った。気持ちいいわ、躯がぽかぽかしてくるのよ。あなたの手から温かい電気が放たれてきて、その熱が躯中を駈け巡って、温泉に浸かっているような気持ちのよさが、躯の隅々まで拡がっていくわ……。
奥さんは着ていたキルティングのガウンを脱いだ。下に着けていたのは、ブラックのネグリジェ風の薄物だった。白い太腿はほとんど剥き出しで、ブラジャーらしい影も見えなかった。
ネグリジェを盛りあげるお臀に目がいったとき、百会はそれまでに感じたことのない昂奮にぶち当たった。お臀の割れ目まではっきり見える、すけすけのパンティが目に飛びこんできたからだった。
心臓があふあふした。
鳩尾を指圧するときになって奥さんは、何かに取りつかれたような乱暴な手付きでネグリジェを頭から抜き、そしてパンティまで引き降ろしたのだった。
生まれて初めて、女性の全裸を目の当たりにした。
それどころか奥さんは、太腿を大きく開き、膝の裏を両手で支え、ぐいと腰を迫りあげた。黒い毛に覆われた肉の斜面が剥き出しになった。
チンポコの根元が焼けつくように疼いた。
奥さんがなぜ、そんなに猥らしい恰好をしてオマンコを見せびらかせてきたのか、そのときは全然分からなかった。
指圧をつづけるどころではなくなった。
股間の疼きが爆発しそうになった。慌ててズボンの前を押さえた。どうしたの? 奥さんに聞かれた。出てしまいそうなんです……。百会は正直に答えた。
奥さんの潤んだ瞳がキラリと光った。
奥さんの指先が、すっと伸びてきた。ズボンのベルトをほどき、ファスナーを引いた奥さんは、少し乱暴な手付きでブリーフもろともズボンを引き下げたのだった。
先漏れの粘液にまみれたチンポコが弾みあがった。今までわたしのことを優しく指圧してくれたお礼よ。ううん、そうじゃないわ、わたしがしたいの、あなたにも気持ちよくなってもらいたくて……。かすれた声で言った奥さんの唇が、直立したチンポコの先っぽにかぶさった。
逃げることもできなかった。
ずーんとした心地よさに股間が震え、お尻の穴がキュッと窄まった。奥さんの口は筒先を舐め、そして深く飲みこむ上下運動に変化した。
やめてください! そう叫んだつもりだったのに、声にならなかった。
くわえられて三十秒とせず、ふぐりの奥に強くて熱い脈が、ビクンビクンと走り抜けた。その瞬間、チンポコの真ん中に電流を受けたような痺れを走らせながら、得体の知れない濁液がつん抜けていった。
気持ちよかった。
それが十四歳になった少年の、春の訪れだった。
自分の手からへんてこりんな電気が放たれている……。自覚があったわけではない。けれど、百会と巡り合う女性たちは、次々と少年の前に躯を開いていった……。
ぼくの手が悪いんだ。ちょっとふれただけで女の人は頬を赤らめ、息を弾ませ、洋服を脱いで、ぼくを抱きしめてくれた。
いい気になっていたのかもしれない。
セックスは気持ちいいことだけれど、大人の女性の躯を知ることによって、ぼくは知らず知らずのうちに大人ぶるようになって、生意気な子供になっていたのかもしれない。
両手を睨んで百会は、悔しくなった。
ときどき胸がキューンと痛む。
パパに頼まれたって、二度と指圧の真似事なんかしてやらないと、心に決める。
だって、そんな危ない手をしているから、初恋の女性と思って大事に見守っていた瀬戸早季子が、泪を溜めて、ぼくの手から逃げていってしまったのだから、と。
十四歳の少年、速水百会は誰にも打ち明けることのできない苦しさや悩みを胸にいだいて、傷心の日々を送っている……。
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