館 淳一 官能の淫髄 館淳一の秘巻
目 次
ママが犯られる!
父の秘画
聖娼婦の夜
(C)Junichi Tate
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ママが犯られる!
1
「ばか! ママなんか死んじまえ!」
伶はそう怒鳴って家を飛び出していった。
母親の美和子は、頬を押さえて、呆然として後ろ姿を見送った。中学二年生の息子に、したたか頬を張りとばされたのだ。熱い涙が頬を伝う。
争いの原因は、伶が熱中しているファミコンにある。
「勉強がおろそかになる」と、教育熱心な母親は繰り返し注意していた。それにもかかわらず、この期末テストで伶の成績がまた下がってしまった。美和子は、今日、学校から帰ってきた息子に断固として、ファミコンの全面禁止を命令したのだ。
「冗談じゃないよ!」
伶はカッとなった。
彼は、サッカー部に入っているので、週に三回、放課後の練習がある。さらに月、水、金は塾通いだ。家に帰ってくるのは十時ちかくになる。毎晩、学校の宿題もこなさなければならないから、母親が思うほど熱中しているわけではない――と自分では思っていたからだ。
貴重な息抜きである楽しみを、強引に取り上げようとする母親に対して、伶は猛烈に抵抗した。口論はエスカレートした。
父親の育男がいれば、美和子と反抗期の息子の間にたって衝突をやわらげたかもしれない。あいにく、広告代理店に勤める一家の主は、一年前、福岡支社長として転勤を命じられ、家族をおいて単身赴任している。
福岡支社の営業成績は低迷していた。なんとか採算点までもってゆこうと、育男は獅子奮迅の努力を重ねている。帰ってくるのは三月に一度ぐらいで、それも、ほとんどが一泊するだけという、あわただしい帰宅だ。
美和子が必要以上に息子の勉強ぶりや私生活に干渉し、二人の間をギスギスしたものにしているのは、夫の長期不在が一番の原因だろう。
「どうして、ママの言うことがきけないのっ!?」
もともとは穏和な性格の美和子なのに、今日という今日は、口答えする息子の態度にカッとなって、つい手をふりあげて彼の頬を打ってしまったのだ。
おりから第二反抗期をむかえた伶も、負けていなかった。
「やったな!」
背丈では母親をとっくに追い越した少年は、もっと強い力で母親の頬を張りかえしたものだ。
したたかに打たれ、「ひっ」と悲鳴をあげた美和子はよろめいた。危うく倒れるところだった。
息子が怒鳴りながら飛び出していった後、美和子はへなへなとキッチンの椅子に腰をおろした。涙がつぎからつぎへと溢れてくる。
(どうしてあの子は、私の言うことを素直に聞けない子になっちゃったのかしら……?)
三十七歳。女ざかりの肉体を慰めてくれる夫がいないことで、欲求不満がつのり、イライラをつい息子にぶつけてしまっていることを、自分では認める気にはなれない。彼女はあくまでも母親の義務を果たしているのだと思いこもうとしている。
夕食の支度をする気にもなれず、放心状態でいる間に夕闇は濃くなり、ハッと気づいた時は、もう真っ暗だった。
(そうだ。門灯もつけてないし、戸締まりもまだだわ……)
美和子はのろのろと立ち上がった。
飛び出していった息子はどこへ行ったのだろうか。近所に住む仲のよい友人の家かもしれないが、電話をかける気にもなれない。暴力をふるうまでエスカレートした争いの後は、気分が落ち着くまで時間がかかるだろう。
「ふうっ」
吐息をついて居間のガラス戸を閉めようとした時、
ゴトリ。
背後――勝手口のほうで物音がした。
(伶かしら?)
勝手口もまだ鍵をかけていなかった。
飛び出したものの、空腹を覚えて心寂しくなった息子が、こっそり裏から入ってきたのだ――と、とっさに母親は思いこんだ。
「伶?」
声をかけてみた。答えはない。美和子は肩をすくめた。
(いいわ。ふくれる気ならいつまでもふくれていれば……)
背を向けてガラス戸を閉め、しっかりとロックし、さらにカーテンを引く。
ゴトリ。
また音がした。今度はキッチンだ。伶が何か食べ物を探しているのだろうか。
(いくら反抗期だからって、食欲にだけは抵抗ができないのね……)
美和子は内心、微笑しながらキッチンに戻った。
「あ」
黒い人影がぬっと立っていた。伶ではなかった。
濃い色のストッキングを頭からかぶっている。人相はわからないが、ナイロンの奥からギラギラ光る目が彼女を射すくめた。
手には登山ナイフ。
「ひっ」
熟れた人妻は驚きに打たれ、恐怖で凍りついたようになった――。
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