官能小説販売サイト 末廣圭 『眩  暈』
おとなの本屋・さん


末廣 圭      

目 次
プロローグ
第一章 母の乳房
第二章 人妻との初体験
第三章 プレゼント
第四章 Tバックの内側
第五章 セブ島へ
第六章 海辺のたわむ
第七章 キャンドルの炎

(C)Kei Suehiro

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   プロローグ

 こんどうつばさ、十五歳……。
 翼は自分の「童貞」を、それほど重要と考えてはいなかった。いやむしろ童貞の価値観を、正しく認識していなかったと言ったほうが適切だったかも知れない。
 もっとはっきり言えば、女性のヴァージンに比べれば、童貞の価値などないに等しいと感じていた。十四歳の夏を迎えるまで、童貞を破棄するチャンスがなかったこともある。
 区立中学の三年の折、翼は童貞を喪失した。相手は同級生のやましろの姉、山城おりだった。だからといって、翼から望んで悩ましい女体に埋もれたのではなかった。鍵を紛失した彼女の旅行用バッグを開錠したごほうとして、香織から誘われたものだった。
 場所は香織の自宅マンションだった。自室に呼ばれ、香織は全裸で翼を招いた。
 そのとき香織は恋人と離別したばかりだった。原因は恋人の浮気だった。男はヴァージン女性に目がくらみ、香織を捨てた。香織は復讐に燃えた。復讐のたくらみは、童貞に抱かれることによって恋人との関係を忘却し、そして新しい人生に旅立とうとしたようだ。
 香織のじきになったような不満は残ったけれど、翼はそのとき初めて女体の神秘にふれた。女性のヌードは週刊誌などのグラビアで何度も盗み見した。女の人の裸は美しく悩ましいものだと、ふっくら膨らむ乳房や、股の間に茂る面積の小さな黒い毛をじっと見つめていた。
 グラビアで見るかぎり、その黒い毛の下に男の性器が挿入されていく構造は、どうしてもうまく理解できなかった。女の人の性器は細い縦割れの筋で、ション便が出てくるのは納得できても、膨張する男の性器が没入していくにしては細くて小さすぎるからだ。ましてや、そんな小さな穴から子供が生まれてくるなど、想像外のことだった。
 しかし実際にの当たりにした香織の裸は、想像を絶する神秘が隠されていた。熱くてニュルニュルの柔らかい肉に、直立したチンポコが挿入されていく快感は、それまでに経験したことのないつうようの混じったこそばゆい刺激を、からだ全体に駆けめぐらせた。
 肉の幹の根元がざわめいた。ふぐりがキュキュッと収縮し、尻の穴がすぼんだ。全身から汗が噴きだした。やみくもに彼女の裸を抱きしめ、そして唇を吸った。
(ぼくも大人になるんだ……)
 翼はそう感じた。童貞喪失の瞬間は三十秒もかからなかったように覚えている。グネッと筒先が深みにはまり込んで、そして激しい噴射感を覚えた。夢を見ているようだった。運命の時を迎えたような、感極まる武者震いをした。
 セックスがこんなに気持ちいいものだということを教えられた。童貞を失ったことに何の後悔もなかった。子供を卒業させてもらったのだ。
 香織との交わりで、自分には不思議な力のあることも知った。それは自分の指先や手からは、女性の官能神経を昂ぶらせる、ある種の電気が発せられることだった。女体にふれるだけで、女の人たちは冷静さを失い、そして翼にしがみ付き、躯を開いていった。
 翼がアルバイトに行っている『花の湯』の娘、はなさん……、さらに音楽教師のいしばし先生……、はたまた英語塾で知りあったフィリピーナのクリスさん……。彼女たちは翼の手がふれるだけで躯を震わせ、そして着ている洋服を脱ぎすて、翼を迎えた。
 彼女たちの性器から、おびただしい透明の粘液があふれでてくることを、翼は驚きの目で見つめた。ピンクや、時にアメリカン・チェリーのようなくすんだ肉の花が、彼女たちの股間の細い溝から漏れていた。一枚、一片の肉が透明の液体の中であやしく濡れて、泳いだ。
 彼女たちの肉の花に、翼は何度も唇を寄せた。舌を出し、吸った。溶かしたバターの味がしたこともある。甘酸っぱいかんきつけいのトロリとしたしずくが口に溢れたこともあった。
 ション便が出てくるところなのに、翼は汚さや嫌悪感を覚えたことはなかった。すべてをおいしいと感じ、み干した。それは女性たちが翼の肉の幹から噴きでる白い濁液を、うっとりした表情で呑んでくれたお返しのような感覚もあったからだ。
 翼の手先から不思議な電流が放たれるのは、生まれもった特異体質からかも知れないが、さらに人並みはずれて鋭敏な神経を宿しているのも事実だった。
 父親の近藤ひろしは東京都内でも二十人ほどしかいない『鍵師』だ。母親のさくらは翼が五歳の時、きゅうせいした。父親は翼に対し『鍵師』の後継ぎを夢見ている。父親も翼の指先が器用で鋭敏にできていることに、いち早く気付いているようだった。
『鍵師』にとって最大の武器は指先の器用さである。鋭敏な触覚と聴覚が『鍵師』の生命線だからだ。
 中学卒だけの学歴ながら、父親は一流の『鍵師』になったことを誇りにしている。『鍵師』の仕事依頼は警視庁であったり、裁判所だったりする。父親はマルサのせんぺいになっていた。そんな父親を尊敬とけいの目で、翼は見続けていた。父親に負けない『鍵師』になろうという意欲が湧いたのは、中学に入ったころからだった。
 父親は翼に対して義務教育だけは熱心だったが、それ以後のことは翼の意思に任せているところがあった。父親は一年でも早く翼が一流の『鍵師』になることだけを念じている。
 そんな父親の願望を知りながらも翼は、ひょんなきっかけで体験した女体の神秘の扉を開いていくことに、あおほのおをたぎらせた。
 耳かきのような金属一本で、むずかしい鍵を開けることも、隠された女体の扉を開いていくことにも、同じような昂奮を呼びおこされた。それは性に目覚めた若い躯の果てしない欲望だった。
 義務教育を終え、近藤翼は都立高校に進学する。四月からは高校生の制服を着ることになる。身長百七十七センチ、体重六十三キロ……。高校生にしては恵まれた躯の奥底から、翼はまばゆいほどのあかい火花が飛びちっていくことを、はっきり感じているのだった……。


 第一章 母の乳房

 カーテンの隙間から明るい陽射しが射しこんでいた。掛け布団にすっぽりもぐり込むようにして寝ていたことに、近藤翼は初めて気付いたような目の覚め方をした。
 熟睡した後の爽快感はまるでない。からだがずしっと重い。パジャマがじめっと湿り、そして首筋のあたりに冷たい汗がねばついていた。
(寒い……)
 巻きついていた掛け布団も少し湿っている。理由のわからないかんが全身に走った。躯の芯は熱いのに、皮膚は濡れて寒い。もぐり込んだ布団の中から目だけを覗かせた。敷き布団の枕元に置いてある時計を見た。九時半になっている。
 いつもはアラームが鳴らなくても七時半には目が覚めていたのに、二時間近くも寝過ごしてしまっている。
(躯がおかしいぞ……)
 躯の節々が痛い。喉にたんが詰まっている。声を出そうとしたのに、うまく出ない。
(風邪を引いちゃったか……)
 躯中の悪寒は熱のせいのような気がした。寝汗など滅多にかかないのに、パジャマの内側が気味悪いほど濡れている。朝起きたとき、いつもはびっくりするほど大きく膨らんでいる肉の幹が、しおれているみたいだ。
 存在感がつかめない。
 あるものがないのは、不安だ。ぞくぞくする寒気以上に、自分の躯に大きな異変が起きていることに翼はあせった。
 恐る恐るパジャマのズボンに手を入れた。ズボンの内側も汗で濡れていた。ゆっくり指先を入れていった。指先に湿った毛先がからまった。
(なくなっている……)
 急に不安になった。毛並みに指先を差しこんだ。フニュッとした筒先が毛の中に倒れていた。亀の頭のように、情けなく毛の中に埋もれこんでいる。
 皮のめくれた笠にまるで力がない。指先でつまみあげてみたけれど、軟体動物のようになってしまって頼りない。筒先の冷たさに比べ、股の間は火が出るほど熱い。
(風邪を引いて、熱があるんだ)
 肉の幹の存在を確認して初めて、風邪を引いて高熱が出ているのだと、翼は考えた。ぞくっと身震いした。風邪などほとんど引かなかったのに。
 まぶたの奥に、面影のはっきりしない母親の姿がぼんやり現れた。黒っぽい洋服の上にエプロンを掛けている。正確な表情は見えてこないのに、目だけが優しく笑っている。エプロンで手をふきながら、
(熱を計りなさい)
 母親はそう言った。翼には確かにそう聞こえた。
(心配しなくてもいいよ。すぐに治るから)
 夢と現実のはざで、翼は応えた。にっこり微笑ほほえみかえした母親の影が、すっと消えた。母親の亡霊ではない。畳敷きの部屋に母親はじっと立っていた。敷き布団の横に立ちすくみ、静かに翼を見つめおろしていた。
 母親は十年も前に死んでしまったのに。
 そんな経験は今までになかった。怖いものを見た感覚ではない。息子の体調を心配する母親の優しさだけが、いつまでも脳裏から離れない。
 母親の呼びかけにうながされ、布団からよろっと起きた。湿ったパジャマに部屋の冷気が粘りつき、った頬を撫でた。
 起きあがって勉強机に歩いた。
 父親はあまり自宅にはいない。昨日の夜、「明日は朝早い仕事があるから、朝メシは一人で食べろよ」と、ぶっきらぼうに言っていた。その通り、からは物音一つしない。合鍵を作っているときは、背筋をしびれさせてしまうような電動ヤスリの金属音が響いてくるのに、その音も聞こえてこない。
 立ちあがって初めて、膝から崩れおちてしまいそうな、弱々しい下半身になっていることに気付いた。
 勉強机までやっと辿たどりついた。自分の部屋は十畳ほどの広さなのに、すごく大きな部屋に感じた。引出しを開けた。中からデジタル式の体温計を取りだした。
(熱があっても薬がない……)
 風邪引きや腹下しをほとんどしない父親は、常備薬など置いていなかった。それでも体温計を腋の下に挟んだ。膝がもつれた。倒れこむように布団に戻った。数歩歩いただけなのに、呼吸がぜいぜいした。
 起きぬけはいつも空腹のはずなのに、下腹が張ってしまって、何かを食べたいという気持ちも湧いてこない。
 うずくまるようにしていた腋の下で、ピッピッと小さな音が鳴った。取りだして見た。38・8……。数字を見た途端、激しい咳込みが喉元を裂いた。こんな高熱が出たことはほとんどなかった。
 たった一人で布団に寝ていることが、急に寂しくて心細くなる。
(どうしたらいいんだ?)
 気味の悪い汗がじくじく噴きでてくる。けいれんのような身震いがとまらない。
(すぐ、医者に行こう)
 高校生としての初登校まで、まだ半月以上あった。風邪がそんなに長引くとは思わないけれど、早く熱を下げたかった。汗に濡れたパジャマをよろよろと脱ぎはじめた。部屋の冷気がよってたかって、躯中に貼りついてきた。

(どうしてこんなに病人が多いんだ……)
 マウンテン・バイクで走って数分のところに、K大付属病院があった。自宅付近では一番大きな総合病院だった。診察をしてもらうために病院の待合室に入ったのは、初めてのことだった。
 受付の前に、ビニール貼りのシートが四、五列も並んでいた。診察を待つ患者さんが、まるで満員電車の座席のように隙間もなく座っている。揃いも揃って青い顔をして、うつむき加減だ。
 まるで血の気がない。不安そうな顔付きだ。
(病気でなくても、こんなうっとうしい顔を見ていたら、病気になってしまうぞ)
 翼はそう思った。
 受付で保険証を出した。初診ですね……。普段着の受付の女の人が無愛想に言った。もう少し病人をいたわる言葉遣いができないものかと、翼はむくれてにらみかえした。
 無理をしてマウンテン・バイクで走ってきたのだから、熱は39度を突破しているかも知れない。
 でもよく考えてみれば、待合室のシートには、百人以上の病人が青黒い顔をして待っているのだ。いちいち優しく応対している時間もなさそうだ。
「マイクで呼び出すまで待っていなさい」
 女の人はまた無表情にそう言った。
 何だかすごく腹が立った。だいいち翼の顔を一度も見ようとしない。壊れかけた廃品を、機械的にベルト・コンベアに積んでいるようなのだ。
 でも大声を張りあげて文句を言う勇気も出てこない。厚手のジャンパーをはおってきたのに、躯中に寒気が走り、脂汗がうじうじにじみだしている。
 立っているのがやっとだ。
 どこに座ろうかとシートを振りかえった。そのときになって、待合室のざわめきが急に耳元を襲ってきた。赤ん坊の泣き声が壁に響いた。シートの前に『内科』、『小児科』、『外科』と、白い看板がぶら下がっているのに気がついた。
『内科』の横が『小児科』になっていた。病気になったから診察に来たのだろうけれど、まるで遊園地にでも遊びに来たように、シートのまわりを飛びはねている子供がいる。
 そうかと思えば母親の腕に抱かれ、死んだように動かない子供もいる。頬っぺたが真っ赤に染まっている。
 座るところもないから翼は、『小児科』の近くの壁に背中をもたせかけた。大きな窓から春の陽射しを思わせる太陽光線が、まぶしく射しこんでくる。
(母親に抱かれて、ぼくも病院に来たことがあるんだろうか)
 シートのまわりをぼんやり眺めながら、懸命に子供のころを思いだそうとしたけれど、記憶の底にも出てこない。母親に連れられ病院に来ている子供たちが、少しうらやましくなった。『小児科』で待っている患者さんは三十人ほどだ。零歳児から小学校低学年までがほとんどだ。
 不思議に思ったのは、子供を連れてきているお母さんの半分近くが、髪の毛を金色がかった茶色に染めていることだった。茶髪はお母さんのスタイルにそぐわないと思う。
 母親の髪は黒いのが似合うのに……。
 自分の母親はきっと、真っ黒で長い髪をしていたに違いない。ついさっき布団の横に急に現れた母親の髪を思いだそうとしたけれど、どうしても髪の形は浮かんでこない。
(女の人の髪は年齢に関係なく、黒くて長いのが好きだな)
 ぼんやりしながら、そう思った。
 翼はシートで待つ母親たちの髪を一人一人眺めた。まるで蜂の巣を突っついてしまったように、茶色の短い髪を逆立てている母親もいる。そんなひとに限って真っ赤な口紅をどぎつく塗りたくっている。
(ここは病院なのに……)
 翼は腕を組んで見つめなおした。自分の母親なら口を尖らせて文句を言うかも知れない。そんな恥ずかしい恰好をしないでくれと。
 39度近くの熱を出して診察に来ていることを、翼は忘れかけていた。高熱に躯が慣れてきたのだろうか。
 子供たちのざわめきの中で、急に激しく泣きじゃくる声がした。声のほうを目で追った。シートの隅っこだった。一人の女の人が両手に子供を抱いていた。母親の腕から逃げようと、子供はもがいている。
 女の子だ。まだ二歳くらいだろうか。
(何をむずかっているんだ?)
 女の子は母親の腕の中に立ちあがろうとした。頬っぺたが真っ赤だ。女の人は子供を抱きながらシートから立った。急に泣きだした子供をあやそうとしている。ほかの患者さんに迷惑をかけたくないからだ。
 女の人は子供の躯を抱きかかえ、腕をブランコのように揺らしながら、シートを離れ歩きだした。数歩歩いては子供の顔を覗きこむようにするけれど、泣き声はますます激しくなっていく。
 腕を揺らすたびに、背中の真ん中くらいまで伸びている真っ黒な髪が、風になびくように揺らいだ。
(きれいなお母さんだ)
 泣きじゃくる子供のことをほったらかしにして、翼はそう思った。女の人の躯がくるりと回転した。初めて真正面から女の人の顔を見た。
 小さな顔で鼻の先がぴょんと尖りあがっている。口紅もつけていない。白いセーターの下に薄い水色のジーンズを穿いている。おしりにぴっちり貼りついたジーンズはすらっと長い。美しい太腿の形がはっきり浮きあがっている。
 子供の激しい泣き声に途方に暮れ、明らかに困惑しているふうだ。『小児科』なのだから、子供の泣き声くらいで困ることもないのに……。まるで知らない相手なのに、翼は同情する気分になっていた。
(行って、代わりに子供をあやしてやろうか)
 いつの間にか自分が風邪を引いていることを忘れている。がくがくしていた下半身もしゃっきりしていた。子供がむずかっていることより、人目を避けるようにして子供をあやしている女の人に興味が移っていた。
 もう何度か会っていたような、親しみさえ出ている。
 女の人は泣きやまない子供を抱きなおしては、躯を回転させ、数歩歩いてはまた子供の顔を覗きこむ。そのたびにふっくらしたお臀がむくむく跳ねる。ジーンズに包まれた二つの小山が窮屈そうだ。
(ミニスカートを穿いているより、セクシーだ)
 翼はそう思った。


 
 
 
 
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