二階堂修一郎 『聖職の濡れた牝たち〜女子アナ・女教師・女医・看護師〜』
二階堂修一郎
聖
せい
職
しょく
の
濡
ぬ
れた
牝
めす
たち〜女子アナ・女教師・女医・看護師〜
目 次
幻影のファック
尻振り牝
女教師・肉奴市場
濡れた牝犬
下半身解剖授業
白い虚動
白い生贄
スペシャルな治療
(C)Shuichiro Nikaido
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幻影のファック
1
今年は梅雨の明けるのがやたら遅く、そのせいでもないのだろうが、夏休みを取るのがずっと遅れてしまったのである。とりたてての予定もなかったからよけいだったのかもしれない。
いや、それよりも何も、いまはレギュラーのないことが、そのいちばんの理由であったろう。決まった番組がなければいつだって取れるからで、他の出演者や、Pと呼ばれるプロデューサーらと相談して調整する必要がないからである。
ホサれたわけでは決してないが、気がつくと、レギュラー番組が減ってきていた。そして、この春の改編で、ついになくなったわけであった。
南條由紀は、その時、初めて、自分がすでに、女子アナウンサーとしては、
薹
とう
が立っていることに気づいたのである。
有名女子大の社会学部を卒業し、在京キー局に入社してから、まだたったの七年。三十歳にもなっていないというのにである。
いわばエリートのはずだった。二千人ほどの応募者のなかから合格した同期は、たったの五人しかいない。それなのにである。
しかし、後輩は、毎年、追いかけるようにしてはいってくる。仮に、一年に五人入社したとしても、すでに三十人以上のライバルが存在するということになるわけである。
「
唯
ゆい
も結婚しちゃったしなあ」
同期で最も仲の良かった酒井唯である。天然ボケでかなりの人気があったが、おどろくほどあっさりと寿退社していった。もっとも、けっこうな玉の輿であったが。
酒井唯は女子アナの王道を歩んだのかもしれなかった。
そこそこ人気のあるうちに、これといった相手を見つけて惜しまれつつ引退する。彼女は、女子アナの賞味期限をよおく知っていたのだろう……。
「あたしは、もう賞味期限切れってこと」
レギュラーこそないものの、単発ではまだ出てはいるし、時折、ニュースだって読んでいるが、なによりテレビ局の社員であるから、そこらあたりのOLよりはかなりの高給を保証されている。ボーナスも悪くないし、たまに、イベントや結婚式の司会のアルバイトも舞いこむから、いますぐにだってマンションぐらいは買えるのだ。
「お疲れさまあ」
アナウンサー室にいることもすっかり多くなった。つまり、デスクワークだ。
「あ、おはようございまあす」
夜でもそう挨拶する習慣にももうまったく抵抗感もない。
テレビ局の廊下を歩きつつ、由紀は、このところ、大きく溜息をつくことが多くなっていたのである。
レギュラーがなくなると、親しかったタレントからも声がかかることが少なくなり、自宅の賃貸マンションへ帰る時間も、以前と比べると早くなった。レギュラーを三本かかえていた時は、どんなに忙しく疲れていても、タクシーをとばして行きつけのショットバーまで行ったものであったが、いまは不思議なもので、その時間はタップリとあるのにその気力がない。
郵便物と夕刊を手に、由紀は、エレベーターに乗り、七階の自分の部屋に着いた。
ドサッと手にしたものをテーブルにぶちまける。いつもたいしたメールが来ているわけではないからだが。
「あ」
封筒の裏に、同窓会という文字が見えたのである。
手にしてみると、それは、中学校の時のそれの案内であった。
「どうしてここがわかったのかな。あ、そうか。まだ親戚がいたか……」
住所を眺めているだけで、ひどく懐かしい気がしてくるのだった。
中学校一年生の冬までそこに住んでいたのである。だから、卒業はしていないが、小学校の時と顔ぶれはほとんど同じなのだ。
「ふんふん。一応、同窓生と認めてくれてるってわけか。なになに」
封を開けてみると、中学校も小学校も、すでに廃校となっており、その校舎も間もなくとり壊されるのだという。それで、なくなってしまう前に集まろうということらしかった。
それでなくとも古い建物であったから、無理もなかった。まだ建っていたほうが不思議といえるほどの木造の小さな校舎だったが、それだけにいま思うと味わいはあった。
N県の
田舎
いなか
である。当時は、バスしか交通手段がなかった。いまでも同じだが、いまはみんなマイカーを持っている……。
その田舎にいたことは、南條由紀のプロフィールには、ない。ずっと横浜で生まれて育ったことになっている。子供の時とはいえ、やはりイメージをそこなうと思ったからだ。女子アナには、帰国子女が少なくない。ニューヨークやロンドンにいましたといえばカッコイイが、N県△郡ではさまにならない。
その意味では、ふる里を捨てて生きてきたといってよかった。
「同窓会か……」
二週間後だった。去年であればとうてい無理な話であったが、今年はまだ夏休みすらとっていない……。
田舎の過去を封印してきたためか、実家に戻っても、当時のアルバムを開いてみることもなかった。
けれど……目を閉じなくても、同級生の顔は、はっきりと浮かんでくるのだった。
「そういえば、あいつ」
よくイジメてくる子がいた。
野崎公三。いま思うと、好きの裏返しだったのだろうが、何度か泣かされたものだった。いまどうしているのか。
「農家だったからなあ。あ、でも、三男だったし、あんがいこっちにいたりして」
思わず、おとなになった顔を想像して笑ってしまうのだ。
「行ってみるか」
いまさらレポーターに追われることもないだろう。
「別に田舎育ちだっていいじゃない」
いまになるとそう思う。
あれだけあこがれだった女子アナという仕事にも、疲れてきているのかもしれなかった。由紀は、ふる里を思い浮かべていた。
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