官能小説販売サイト 山口香 『不倫の蜜戯』
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山口 香    不倫の蜜戯

目 次
第1話 狂った官能
第2話 不倫いじめ
第3話 蜜の誘惑
第4話 夜の招待状
第5話 不倫の初夜
第6話 不倫の請求書
第7話 不倫狂詩曲
第8話 秘密の性儀
第9話 倒錯の愉悦

(C)Kaoru Yamaguchi

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   第1話 狂った官能

     1

 壁の鳩時計の針は、二時半を示していた。リビングルームに差し込んでくる春の陽光が、眠気を誘うように快く感じられる。
 由利江はガラステーブルの上のリモコンを取り上げると、テレビのスイッチを入れた。画面が一瞬青白くなり、すぐに男と女の抱き合っている姿が映し出された。女は着物姿で男の膝の上に横抱きにされ、首筋にまわした手で男を引き寄せようとしていた。
〈あーあ、あたしもあんなにしてほしい――〉
 全身が火照り、けだるさが漂っている。両腕を上空に伸ばし、大きな生あくびを漏らすと、カーディガンの下で、ブラジャーに包まれた乳房が大きく波打った。
 番組は人妻の不倫ドラマらしく、二人が抱き合っているホテルの部屋の隅に真っ赤な布団が並べて敷いてあった。その布団の上に二人は縺れ合うようにして身体を倒すと、男の手が荒々しく女の着物の裾を割っていく。
 その手を払いのけ、女は起き上がると、背中を向けて帯を解きはじめた。
〈あたしだって不倫しちゃうかもよ――〉
 腕を背もたれに乗せて両肢を組んだ。タイトスカートから覗いている膝頭が、陽光を反射させ、艶々と輝いている。
〈どうして、あなたはそうなの。疲れた疲れたと、帰ってくるなりバタンキュー。あたしは一体、あなたの何なの?〉
 大声で叫びたい苛立ちが湧き起こってきた。
 下腹部が湿っぽく感じられる。肢を組んだまま太腿のあたりを押しつけるようにすると、パンティの中で、入江をおおっている肉襞が絡み合い、その先端から小刻みな痺れが走り出してきた。
〈昨夜だって、あたしは眠れなかったのよ。あなたは、まるで義理だと言わんばかりに、嫌々な気持ちで、あたしを抱いて、そのうえ自分だけ満足すると、もうグウグウ高いびき。まるで、あたしはダッチワイフみたいだわ。隣の奥さんを見てごらんなさい。いつもピチピチして肌の艶もいいわよ。あたしの肌、まるで干物のようにカサカサで化粧ののりだってさっぱり。みんなあなたのせいよ。あたしは生身の女なのよ、人並みに欲望だってあるし――〉
 夫の竜夫は昨夜も少し酔って帰ってきた。まもなく午前さまになろうかと思われる時刻だった。由利江に対して口を利くのももどかしげに、シャワールームに飛び込み、出てくるとベッドへ直行だった。由利江が話しかけた時には、もういびきをかいていた。
 その寝姿を見ていると、怒りにも似た炎が全身を包みはじめた。
 由利江は勢いよくベッドに上がると、竜夫の胸板に上半身を押しつけていった。
「おい、よしてくれよ。眠いんだよ……」
 竜夫が横を向こうとするのを首筋にまわした手で押さえつけ、唇を重ねた。
「ねえ、おねがい、あたし……」
 欲しいのぅ。ここ二週間ぐらい抱いてもらっていないわ。そう叫びたい気持ちを押し殺して、両肢で竜夫の脚を挟み、下腹部に膝頭を誘った。
「だから、明日。明日の夜はきっと抱いてやるから。な、今夜はもう眠らせてくれ」
 竜夫の手が背中にまわされ、ネグリジェ越しに背筋を撫であげていくと、由利江は、押さえがたい衝動を感じた。子宮がけいれんを起こして引きつり、肉塊を咥えないと収まりがつかなくなってきた。
 乳房をぐいぐいと竜夫の胸板に押しつけ、下腹部をずり上げ、入江をこすりつけていく。
「あなたぁ……してえ……」
 激しく全身を揺すると、ベッドが鈍い軋み音を発して、二人の身体をバウンドさせた。
「わかった。わかったから降りてくれ」
 竜夫は肩口を押し、由利江を横に降ろさせると、片手でネグリジェの胸ボタンをはずした。
 早くぅ、早くしてぇ。引き出された乳房に竜夫の手が触れた時、由利江は上半身を反り上げ、自分の手をその上に重ねていった。
 充血して尖り出した乳首の先端から、電流が走り抜け、下腹部で火花が散った。
 やがて竜夫の唇が乳首を挟み込むと、由利江は、自分に暗示でもかけるように声を荒げていた。しかし一方では、どこか冷めている白けた部分があるのを感じていた。
 竜夫の手がパンティを下ろし、恥骨の丘を撫ではじめても、指先から伝わってくる熱意が感じられなかった。仕方なく義理を果たしているといった感じの竜夫の指遣いだった。
 しかし、そんな思いとは逆に、肉体の中心に溜まりに溜まっていた欲情が堰を切って流れ出てきた時には、のどから絞り出す声を発しはじめていた。
 やがて竜夫の指先は、入江をおおっている肉襞を転がし、突き出してきた女の芽を刺激し、内奥の天井部分を掻きまわすようにして動いてきた。
 吸って。前にあなたがしてくれたように、あたしのポイントを吸って。そうすれば、あたしは最高に気持ちよくなるのよ。
 女の芽を吸ってほしいと思った。そこから走り抜ける刺激は、乳房や膣内部を愛撫されるより幾倍も大きかった。
 指先が子宮口を押し上げはじめた時、由利江は、いままでの欲情の塊が少しずつ解き崩され、薄れていく快感に襲われていた。
 竜夫がパジャマのズボンとブリーフを一緒に脱いで、ベッドボードの引き出しを開け、コンドームを取り出し、肉塊に装着した。
 その時、由利江は、全身から空気が抜けていくのを感じていた。いままで燃え狂っていた炎が、一瞬のうちに消えていくのをおぼえていた。コンドームをつける時、指先を挿入していてくれれば、せっかくの快い波も消えてしまわないものを。
 苛立ちが湧き起こってきた。装着のわずかな時間が、由利江の炎を消し去ってしまっていた。以前はそんなことがなかったが、このごろは、一枚の薄いゴムの感触が、まるで愛情のない他人同士の味気ないセックスを連想させていた。
 生のあなたが欲しい。以前だったら、ゴムをつけることも待てず、荒々しくあたしの中に入ってきて、狂ったように放射した後で、ハッと気づいたように。そして、あたしがあわててトイレに走り込み、ビデを使っているのを不安げに見つめていたのに。
 白け気味になってきた時、竜夫は身体を重ねてきた。上半身を反り返すようにして、一瞬息を止めたかと思うと、肉塊の先端を押しつけてきた。
 もう一度カッと燃えることが出来るかもしれない。かすかな期待を持って、両肢を竜夫の腰に絡め、神経を下腹部に集中していった。
 しかし、肉塊が内奥に挿入され、二、三回ピストン運動をくり返したと思った時には、竜夫は、うっ、と声を飲み込み、下腹部を引きつらせ、樹液を迸らせはじめた。
 そして放出した後、竜夫はゴムの口を結び、ティッシュで包み、ベッドサイドのゴミ箱に投げ込むと、そのままいびきをかきはじめていた。
 残されたかたちの由利江は数分後、入江の上に指先を乗せ、竜夫の気配を窺いながら、火照った肉体を慰めていたのだった。
〈ああ、本当に浮気しちゃおうかな――〉
 テレビ画面を見つめながら、片手で乳房をすくい上げると、下腹部でむず痒さが起こってきた。組んでいた肢を下ろし、少しだけ左右に広げると、あふれ出た愛液で湿ったのか、小風が入り込み、冷たく感じた。スカートをずり上げると、両太腿の間から甘酸っぱい女の芳香が立ち昇ってきた。
〈やっぱり出ちゃったわ。ああ、ここを誰でもいいから突き刺して――〉
 指先に、布地から染み出てきた愛液が粘り、絡みついてくる。軽く押し込んでみると、下腹部が痺れはじめた。
 その時、玄関脇の電話のベルが耳底を貫いてきた。
 
 
 
 
〜〜『不倫の蜜戯』(山口香)〜〜
 
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