山口 香 溺愛の森
目 次
プロローグ
第一章 白い夜
第二章 狼の牙
第三章 星くずの里
第四章 悪の花
第五章 野良犬
第六章 牝猫の叫び
第七章 切り裂かれた幕
第八章 怒りの炎上
エピローグ
(C)Kaoru Yamaguchi
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プロローグ
女はいま自分は幸せの頂点にいるのだと思った。同級生だった造り酒屋の三男と結婚し、バラ色の人生の幕はいま開いたと思った。幸福という言葉は自分のためにあるとも思っていた。前途洋洋たる感じの、何の不自由もない生活だった。
両親をはじめ、周囲の人々の称賛を受け結婚して、ハネムーンベビーに恵まれ、いま妊娠六カ月目に入っていた。
家で寝ていろと気づかってくれる夫に対して、少しは運動をしないと身体によくないと説得し、売り掛けの集金をしての帰りだった。
途中で幾度も疲れを取るため立ち止まり、身体をやすめたため、すでに午後六時近くになっていた。
(早く帰らなくちゃ。あの人、お腹を空かしているかもしれないわ――)
脳裏に夫の顔が浮かんできた。その顔が笑いかけてきた。
その時、下腹部で胎動が感じられた。両手でマタニティドレスの上から、そっと包み込むように押えると、手の平にかすかに温かみが伝わってくるようだった。
(あら、この子、また動いているわ――)
足を止め、ふっと大きく息を吐きだした。快い疲労感が全身に漂ってきた。
周囲は夕焼けが漂い、樹木の葉が小風に揺れてカサカサと波のような音をたてていた。
山間の細い田舎道だった。左側は草におおわれた崖が下方に伸びており、右側は樹木が生い茂った山肌だった。
ふたたび歩きだしたとき、前方に二つの影が浮かび上がっているのが見えた。その影がゆっくりと近づいてきた。
(あら、またあの人たちだわ――)
半月ほど前から見かけはじめた男たちだった。村の者ではなかった。何処かから出張できているのだろうと思った。五、六度すれ違ったことがあった。そのたびに卑猥な言葉を投げかけてきた男たちだった。
二人は酔っているらしかった。足取りもふらついていた。脇を通り抜けようとした時、アルコールの臭気が鼻孔を貫いてきた。
「奥さん……またお会いしましたね……ねえ奥さん……」
手首が掴まれた。女はそれを振り解いて、男たちから逃げるように小走りになった。突きでてきた下腹部を両手で抱えるようにして山道を急いだ。
しかし男たちはすぐに女に追いついた。
「やめて下さい」
振り返ったとき腕を掴まれ、脇の樹陰に引っ張り込まれた。
首筋にまわされた男の腕が、のどにぐいぐいと喰い込んでくる。目の前に霞がかかり、真白になってきた。
「へへっ、いい身体しているじゃないか……」
前にまわった男が乳房を掴み、揉み込んだ。
「おねがいです。やめて下さい。お腹に赤ちゃんが……」
激しく身体を揺すって抵抗したが、所詮男たちの前では、狼に睨まれた小羊同然だった。
草の上に押し倒され、マタニティドレスの裾を持ち上げられ、妊婦用のガードルが下ろされた。ショーツも一気に引き下げられた。
「へへへっ、妊娠しているのか……腹のデカイ女とやるのは初めてだな……」
男のザラザラした手が下腹部の茂みの上を撫でつけていく。
女は恐怖で全身が凍りついていた。背骨が鈍い軋み音を発して、折れていくようだった。
「おい、流産させちゃ、まずいぞ。そっとやれよ、そっとな。息子が赤ン坊に喰い千切られないようにな……へへへっ」
一人に上半身を押さえられ、もう一人が下腹部を貫いてきた。
鈍い衝撃が感じられたとき、女はすべてを失ったと思った。
男の狂った欲望を下腹部に受けながら、地獄へ落ち込んでしまったことを、全身にしっかりと刻み込んでいた。
「おい、今度はおまえもやれ……二人で兄弟にならなければな。罪は二人で分け合ってな」
もう一人の男が下腹部を貫いてきたとき、女は気を失ってしまった。
第一章 白い夜
1
大徳寺宏介はダブルベッドの上にあぐらをかいたまま煙草を咥えていた。上半身裸で、腰にバスタオルを巻きつけただけの格好だった。片手で脂肪太りの腹部を撫でるようにすると、勢いよく煙りを吐きだしていく。
「ああ、さっぱりしたわ」
秘書の竹下由紀子が後ろ髪を掻き上げるようにしながら、浴室からでてきた。身体に羽織ったバスローブの胸許から、湯気が立ち昇っている。ウエストをしっかりと紐で結び、両肢をまっすぐに伸ばしてベッドサイドにやってきた。
壁ぎわの鏡台の前に行き、スツールを引きだし、ゆっくりと腰を下ろした。布地を通して丸味をたたえた臀部が怪しく揺れた。
横浜の港の見渡たせるシティホテルの一室だった。
窓の外はブルーの薄闇に包まれているが、停泊している船舶の影が浮かび上がって見えている。小さく揺れている波の表面には、散りばめた星のようにライトの光がキラキラと輝いていた。
宏介は煙草を枕元のクリスタルの灰皿で揉み消すと、ベッドを降り、由紀子の後方に立った。鏡の中で顔にクリームをすり込んでいるのを見つめながら、肩口から腕を伸ばし、バスローブの胸許に差し込んだ。そして、すべすべとしている肉付きのよい乳房をわし掴みにすると、ゆっくりと揉み込んでいく。首筋に唇をあて、舌先で掃くようにすると、由紀子の上半身が反り返り、宏介の手の上に、布地越しに自分の手を重ねてきた。
甘酸っぱい石鹸の匂いが鼻孔に立ち昇ってきた。
「ううんっ、だめよ。また感じちゃうじゃないの……」
「いくらでも感じていいんだよ。おまえは若いんだし……それに、わしだってまだまだ若い者には負けられんよ……」
乳房はまるでゴムまりのように指を弾き返してくる。乳首が尖りを増し、手の平にコロコロと当たっている。
一方の手でバスローブの腰紐を解いた。布地が左右に割れ、鏡の中に白い由紀子の裸体が浮かび上がった。
「あっ、だめよっ……」
由紀子は上半身を左右に揺すり、勢いよく立ち上がった。そして後ろを振り向くと、宏介の首筋に腕を絡みつかせてきた。
唇と唇が重なり、肉の軋み音と同時に、くくっ、という声が漏れていく。
宏介の手が胸許の膨らみを揉み込みはじめると、由紀子の手が下がり、バスタオルの合わせ目の上から股間を探ってきた。
「やっぱり元気ないわね。さっきしたばかりだから……いいわ、今度はあたしが口でしてあげるから……ねっ」
由紀子は口許に小さな笑みを浮かべ、宏介を上目遣いに見つめた。
二人は抱き合ったまま、ベッドサイドに行くと、重なり合うように倒れ込んだ。スプリングが身体を跳ね上げ、よく引き締まった由紀子の両下肢が揺れていった。
「さあ、じっとしていて。いまに元気にしてあげるからね」
宏介が大の字になると、四つん這いの格好になり、上から見下ろすようにしていった。
宏介の手が下から伸び、由紀子の肩からバスローブを脱がしていく。
全裸になった由紀子の身体は、天井の淡い採光を受け、艶々と光り輝いてした。上半身では張り切った弾力性のある乳房が小刻みに揺れ、ウエストはくびれそのもののごとく細く、その下には対照的に骨盤が肉付きよく張りだしていた。両肢はカモシカの脚を想わせるように伸びている。
由紀子は宏介の身体を跨ぐと、逆向きになった。そしてバスタオルの合わせ目に指を掛け、下腹部を露わにした。初老の弛みをみせはじめている褐色の下腹部に、濃い目の茂みが小山のように盛り上がり絡まり合っていた。その中心に、戦意を失った褐色の肉塊がうなだれるように横たわっている。
「あれから二十分ぐらいかな。ふふっ、もう一回ぐらい元気だしてよ……」
由紀子は肉塊を手の平に乗せると、指を絡めていった。ワインカラーのマニキュアが、不気味な光沢を放って絡みついていく。
そのまま顔を押しあてるようにして、先端部分を口に咥えた。鈴口を舌先でなぞり、刺激しながら、音をたてて吸い上げていく。同時に基幹部を、強弱をつけて握り込みながら、一方の手でふぐりを揉み込んでいく。
「本当におまえは上手だな。まるでセックスをするために生まれてきたような女だ。星君に取られるかと思うと、ムカムカしてくるよ」
下腹部に、徐々に活力がもどってきた。冷えきっていた股間のあたりが少しづつ充血し、火照りをたたえはじめてきた。
宏介は目の前の由紀子の下腹部を睨みつけた。そして双丘に手をあてると、舌先を伸ばした。
由紀子の恥骨の丘はなだらかなスロープを描いて盛り上がっており、薄目の茂みが逆三角形に生えていた。その中央にピンク味を残した亀裂が臀部に向かって走り抜けていた。
「ううっ……」
由紀子の四つん這いの身体が左右に揺れると、舌先は両襞を掻き分け、亀裂の上部に充血している小突起に触れた。三角形の紅い芽をこすると、入江から甘い女の芳香が染みでてきた。それを宏介は勢いよく吸った。
「はあっ……」
肉塊を咥えたまま、口の端から絞りだすような声を漏らすと、由紀子は上半身を反り返すようにしていく。入江を覆っている肉襞が口に引き込まれ、あふれでてきた体液と宏介の唾液が絡まり合い、糸を引いていった。
茂みの穂先が濡れ、小さな玉の露のごとくキラキラと輝いていた。
由紀子の裸体が激しく波打ちはじめた。乳房が揺れ、乳首が宏介の腹部で刺激され硬くなった。肉塊に抽送運動を加えながら、眉を吊り上げ、頬をけいれんさせている。
「じゃあ、わしももう一回行かしてもらおうかのう……」
宏介は肉塊が猛りをたたえてくると、由紀子の両肢の付け根に節くれだった指をあてた。二枚の花びらがピクリと震え、肉汁を飛ばした瞬間、肉の軋み音が流れた。
由紀子の背筋が反り返った。肉塊を咥えたまま激しく上半身を揺すっていく。
指先は肉襞を巻き込み、内奥に向かって深々と挿入されていった。そして荒々しく膣穴を掻きまわし、薄皮をこすりつけていく。子宮口の括約筋を押し上げ、尿道を揉み込んでいった。
「もっと、もっと泣け、喚け……」
「ああっ……」
シティホテルの防音壁に囲まれた室内には男と女の体臭が入り交じった生温かい空気が彷徨していた。その中を、由紀子の歓きわまった声が、徐々に糸を引きはじめ、獣の遠吠えとなっていった。
やがて、その声も遠ざかったとき、今度は宏介の放った熱い男の体液をのどに向かって飲み込んでいく鈍い音が由紀子の口から漏れはじめていた。
(この女が、まさかあのコピーを――)
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