官能小説販売サイト 松本孝 『スキャンダル狩り』
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松本 孝    スキャンダル狩り

目 次
れたフレーム
狼の悦楽
みだらな盗撮
標的は悪女
密淫の看護婦
獲物の匂い
女医の素顔
淫行をあば

(C)Takashi Matsumoto

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   れたフレーム

     1

 ……夜だった。暗室の中である。
「ふ、バッチリだ。れてるぞ!」
 みずあきらは、しだいに鮮明になってきた印画紙の中の映像をみつめて、叫んだ。
 六ツ切りの、RCペーパー。
 被写体は、ひと組の男女だった。男と女は、背徳的な交合関係にある。
 そのふたりの姿が、モノクロの写真に、くっきり浮かびあがっていた。
〈やったぜ。とうとう……〉
 水城は、つめていた息を吐いた。もう一度、獲物の姿を確かめた。
〈女も、よく撮ってる。三月末だってのに、素肌にナイティーだけ。胸もあらわなスタイルで野郎をお見送りとは、まさに注文通りだ……〉
 水城は片頬をゆがめた。笑った。
〈この一発の写真が、やつらの関係をなによりも雄弁に物語っている。説明不要、弁解不能ってわけだ〉
 満足して、水城はつぶやいた。頬に漂った笑みは、残酷だった。
 ……ひき伸ばされた写真の右はしに、初老の僧服の白人が映っていた。
 スペイン人である。半白の髪。が、背は高く、体つきはがっしりとしている。彫りの深い顔は、精力的だった。
 名前は、リカルド・ラミレス。
《聖・福音女子大》の事務総長だった。近年、上流ぶった家庭の〃令嬢〃がかようキャンパスとして、とみに株をあげている女子大である。
 男はカトリックの神父であり、教授でもあった。担当講座は《倫理学》。
 女子学生に道徳を説く聖職者が、その裏で、愛人を囲っているのだった。
 しかも、女の名目は大学事務局の職員だ。愛人への手当を、神父は公金で支払っているのだった。
 写真の中の、白いタイル貼りのしゃれた二階家も同様だった。家賃は、大学から振りこまれていた。
 女は、二階の、寝室らしい窓に上体を見せていた。チワワを抱いている。
 女はがわという。
 もとは、銀座のホステスだった。小麦色の肌をした、グラマーな女だった。調べは、すべてついていた。
 由梨は、男に手をふっていた。笑いかけている。ゆうべはその股間の濡れた粘膜で、男のペニスを締めつけたのだろう。女の顔には、まだ交合の快楽の余韻が揺れているようだった。
〈それとも神父め、セコく朝っぱらまでしつこくやりやがったのかもな〉
 軽く、水城は肩をすくめた。
 水城明――。二十六歳。独身。フリーのスクープ・カメラマン。タフな肉体だけが資本の、ハードな稼業だ。
 この写真を撮るのにも、四日間、尾行と張りこみをつづけた。一匹狼の仕事だ。ほとんど不眠不休だった。
〈さて、こんどはおれ自身も、女体の極上肉に食らいつきたいぜ〉
 水城は苦笑した。股間に強烈な発射欲がうずくのを、彼は感覚した。
 そのときだ。DKで電話が鳴った。
「こりゃ、女からだ……」
 水城は急いで、暗室を出た。
 ベルは二度鳴って、切れた。
 水城が狙う獲物は、ほとんどが社会的な地位のある有名人男女のスキャンダル――。その醜聞の現場だ。
 せっかく撮影に成功しても、それの現像や焼き付けに失敗すれば、すべての努力はパーになってしまう。電話は、留守番電話にしてあった。仕事を中断されないためだった。
 デカ・ボタンの電話は、DKのガラステーブルに置かれている。
 水城は、送受器をとった。すばやく、留守番電話セットの〈在宅〉スイッチを押した。間に合った。
「もし、もし。わたし……」
 若い女の声が、流れてきた。ややかすれた、独特の甘い声だった。その声だけで、水城は相手がわかった。
 ざわまゆだった。
 クラブ歌手である。自分の地元の横浜で、かんないの高級クラブなどを仕事の場に、主にジャズを歌っている。
 性愛には、奔放なコだった。
 眉美の歌も、水城は悪くないと思っている。が、どちらかといえば、彼は眉美のよく熟れた白い肉体の抱きごこちと、膣への挿入感を、より高く評価していた。
「やあ。きみか……」
 水城は、声を送った。いい女の性器に挿しこみたい、と思っていたところだ。つい、上機嫌な声になった。げんきんなものだった。
「ハンターは、やっとご帰館になったのね。……よかったあ」
 眉美の吐息が、甘く水城の耳をくすぐった。声の背後に、ざわめきと、かすかなボサノバが聞こえた。店からかけているらしい。
「ああ。つい一時間前にな」
「ここんとこ、毎日電話してたのに。いつだって、留守番電話ばかし。トサカにきちゃった。だから、メッセージは入れなかったのよ」
 眉美は、恨めしげにいった。
 が、すぐに口調を変えた。弾んだ声になり、ささやきかけてきた。
「ね、今晩、お仕事いいんでしょ?」
「うん。ひと区切りってとこだ」
「あのね。五百グラムのステーキ肉が、仕入れてあるの。特上のサーロインなんだけど。食べたくない?」
「えっ? ほんとかよ」
 思わず、水城は声を大きくした。眉美の、クスリと笑う声がした。
「ステーキか。いいねえ。……実をいうと、えらく腹ぺこなんだ」
「フ、フ。また張りこみかなんかで、その間じゅう深夜スーパーのサンドイッチだのおにぎりばっかで、がんばってたんじゃない?」
「あたり! その通りだよ」
「じゃ、いまから車とばしていったげるわ! けど、アキラ。食べたいのはステーキだけ? わたしの体は食べたくないの?」
「食いたいね。まるかじりしたいぜ」
 水城は、答えた。腕の中でよくしなう、眉美の白く毛深いボディーや、あの果実の奥への良好な挿入感覚が、みるみるよみがえってきた。
「うっれしーい! なら、今晩は思いきり、してくれるのね!?」
 眉美は、低く叫んだ。
 電話の向こうで、眉美の呼吸の荒くなるのが、はっきり感じられた。
「うふ。わたしも、すっごくアキラのこと食べたいんだわァ」
 ジョークめかしたいい方だ。
 だが、その声には、ひどく真剣なひびきがあった。生っぽい。発情が、そのひびきにこもっていた。
 水城は、脳下垂体の性腺を刺激されるのを感じた。欲望が、さらにふくらんだ。
「ああ。たっぷりやってやるさ」
 水城は、送話口に口を寄せていった。
 眉美は、高感度なコだ。むろん、耳もかなりの性感帯だった。エロチックな言葉をいい、耳の穴に熱い息を吹きこんでやる。それだけで、軽くいくこともよくあるコなのだ。
 
 
 
 
〜〜『スキャンダル狩り』(松本孝)〜〜
 
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