中村嘉子 また濡れる
目 次
第1話 中指あそび
第2話 売春ごっこ
第3話 愛液まみれ
第4話 残業お手当
第5話 感度に感動
第6話 締めつける
第7話 犯されたい
第8話 欲情ゲーム
第9話 また濡れる
第10話 卑猥な音色
第11話 そこが好き
第12話 無毛に乾杯
第13話 愛は奥まで
(C)Yoshiko Nakamura 1987
◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。
第1話 中指あそび
1
「経理に二人くらい残ってるみたいよ。営業は、送別会があるとかで、珍しく居残りゼロ。あとは、そう、山上専務ね。今夜は楽だわよ、きっと」
先輩交換手の石原夕子は、いつもよりかなり濃い化粧をした顔を少しだけ歪めて笑いながら、せっかちに言った。
「営業ゼロなんですか。経理と専務だけってことは、電話なんてほとんどかかってこないんじゃないかしら?」
効きすぎた冷房ですっかり冷え、くるぶしから先が鈍く痛みだした両脚を宥めさすりながら、エリは、溜息混じりに言った。
「そうよ。だから、楽よ、今夜は。営業全員が残ってるときなんかに残業させられると、大変よォ。そういうときって、日中よりかえって多いのよね、かかってくる電話が。このあいだなんか、大変だったわ、私」
ゆるいウェーブのついた長髪を、まるで十代の娘のように甘えたやり方で、夕子は掻き上げた。こんな二流の会社の電話交換手にしておくのはもったいないほどいい女なのだが、残念ながらちょっと歳をくっている。二十八だったか、九だったか。とにかく、この先輩は、世間で言うオールドミスだった。
その売れ残り美女が、珍しくウキウキしているので、
「デートですか? 今夜」
と、エリは訊いてみた。
「そんなんじゃないのよ」という答えを予想して訊いたのだが、返ってきた夕子の言葉は、それとはまるで違っていた。
「実は、そうなの。私なんかでも、ときにはそういうことがあるわけよ」
弾んだ声で夕子は言い、ウフフ……と思わせぶりに笑って見せた。
その笑顔を見ると、エリの心に、一瞬、嫉妬のようなものが過った。
エリはまだ二十二歳。オールドミスではない。器量も、美女の夕子に負けず劣らずだと自負している。
だが、まだ恋人がいない。恋人どころか、一緒にスナックで水割りを飲むような男友達の一人すらいないのだ。
電話交換の仕事は女ばかりで、仕事場に異性がいないうえに、残業が多いので、社外での素敵な出会いというのもなかなか期待できず、いきおいシングルガールになってしまうのだ。
美人で仕事もできるのに、男っ気がまるでない夕子が、いい例だった。
だが、その〃いい例〃が、シングルであることを否定するようなセリフを言ったのだから、〃同病〃だと思っていたエリとしては、心穏やかではいられない。
嫉妬の心が過って当たり前というものだ。
「石原さん、しあわせそう……」
皮肉と羨望をこめてエリが言うと、
「うん、しあわせ。じゃあね。がんばってね」
と、身も心もかろやかに夕子は言い、部屋から出て行ってしまった。
〈まいったァ……〉
夕子の出て行ったドアを見ながら、エリは、長い溜息を吐いた。
〈あの夕子オバンに彼ができちゃったなんて……。私にはまだ男のオの字もないのに……〉
化粧バッグからコンパクトを出し、その小さな鏡に、自分の今の顔を映して見た。
先輩への羨望や嫉妬で多少歪んではいるが、けっこういい顔だ。眼も大きいし、鼻もちょうどよく高いし、唇のかたちも、煽情的でいいと思う。薄化粧の肌は、スベスベしている。
「いいと思うんだけどな……なんでなのかしら……?」
声に出して言うと、ますます不条理を感じた。
〈顔だけじゃないわ。性格だって、悪いほうじゃないと思うし、プロポーションだって、83の59の85よ。普通のOLのサイズとしては、Aランクだと思うんだけど。それに、もちろんアソコだって、たぶん……〉
そう思うと、エリの右手は、場所柄もわきまえずスカートに伸びた。
スカートの裾を捲り上げて、露わになった太腿の内側へ、虫のように指先を這い込ませる。
パンティストッキングが邪魔なので、大胆にも、股のほうからでなく、お腹のほうから、パンティの中へ指を進入させた。
指先が、秘肉の合わせめに達いた。そこは、軟らかくて、しかも、若々しい張りのある、我ながら魅力的な指触りの秘部だ。
冷え症で、下半身はすっかり冷たくなってしまっているというのに、この部分だけは、とても温かい。
2
〈ほらね、ココだって、悪くないわ。こんなにやんわりしてるし、秘口なんか、その気になって締めれば、ほら、こんなにキューッと……〉
秘口へ、中指の先を少し挿入て締めつけると、やんわりしたものがよくもこんなにと呆れるほど、その部分は収縮した。
〈性能、いいと思うのよね……〉
だが、その性能を試すチャンスが、まるでない。
短大時代には、アルバイト先の上司と、ちょっといい関係になったこともあり、週二くらいの頻度でセックス込みのデートもしていたのだが、この会社に入ってからというものは、そういうことがまるでなくなってしまったのだ。
アルバイト時代のその上司とは、短大卒業と同時に別れた。相手は妻子持ちの万年係長だったから、社会人になってまでつきあうほどのメリットがなかったからだ。
だが、期待したOL生活が、こんな男日照りの情けないものなら、あんな男でもあっさり別れずに、本物の恋人ができるまで、つきあいつづけていればよかった――と、そんなことまで考えてしまうほど、今のエリは焦っていた。
〈ああ、恋人つくりたい……。おとなの魅力のある彼と、ちょっとスケベで、うんと甘ったるい時間を過ごしたい……〉
また溜息が出た。
と、そのときだ。電話がかかってきた。
エリは慌てて、パンティの中から右手を抜き取り、交換手に戻った。
|