円 つぶら 上手な女
目 次
すれすれ上手な女
疼き上手な女
開かれ上手な女
たたせ上手な女
お詣り上手な女
両手上手な女
淫夢上手な女
甦り上手な女
許し上手な女
乱れ上手な女
(C)Tsubura En 1986
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すれすれ上手な女
1
雪どけ水が岩間をつたわり落ちている。
そのせいか、眼下に見おろす渓谷も水カサが増して映る。
日一日、水ぬるむころ、春の訪れだ。
陽だまりの松の根方に背をもたせて、隆一と哲也は所在なげにタバコをふかせていた。
「そろそろ山を降りて、シャバにもどるかな」
ぽつんと、隆一がいう。
「ああ、しおどきだろうな」
と、哲也が返す。
スキー客でにぎわった山の宿も、雪どけの気配とともに閑古鳥。しょせん、冬場のバイトにすぎなかったのだろう。
隆一と哲也は中学、高校と机を並べて、成績もどんぐりの背くらべ。中ぐらいのところで、席次も交代でいれ替わっては、おたがい上になったり下になったりの、おあいこだった。
大学もそろって二流の私大に入ったものだ。
バイトも一緒にやってきて、いまやおなじ釜の飯を食い、山ごもりしてる恰好であった。
「解禁だな。ディスコでもどこでも行くぞ。考えたら、おれたち、女気なしの、まるで修道僧みたいな暮らしだったよな」
「そりゃないぜ。ただ女のコをモノにする機会がなかっただけさ。なにが修道僧の禁欲生活なものか。破戒僧ならわからんでもない」
「まあな。『いいな』と思うコには、ばっちりへんなヤローがくっついてやがって、手出しもできゃしない。ツイてなかったよ」
隆一が大げさにため息ついてみせれば、
「せめてのお愉しみが、女湯の〃覗き〃じゃシケてるよな」
と、哲也が受ける。
「それそれ。クセになって、下界に降りてもやっちまいそう。デバカメ・マニヤになるのも困りもんだぜ」
「まったく。おれたち、どうしようもない……」
「ああ。溜っててどうしようもないよ。ヤリてえ。女とヤリてえなあ!」
天にむかって、隆一が吼えたてた。
「おれも。チクショー、ヤリてえよ」
つづいて、哲也も叫び声をあげる。
天は、若者たちのモヤモヤ心などてんで受けつけない模様で、冴えざえとあくまで晴れわたっていた。
「なあ、テツ。しかたないから、マスかくか。どっちが遠くまで飛ばせるか、競争だ」
「本気かよ、リュウ。ここでチンポコ並べて、ザーメン飛ばすのかよ」
「そ、本気だ。小便ぐらい飛ばそうぜ」
ふたり、ズボンのジッパーおろして一物をとりだし、しこしこしごきはじめだす。
やがて、ほとんど同時に極まったとみえる。
ピュッ、ピュッと、乳色の液が翔んで、渓流にむかって落下してゆく。
「やれやれ。吐きだしゃ、一巻の終わりか。マスなんてスカみたいなもんだ」
「スカにちがいない。命中する標的がないんじゃ、スカ玉よ」
「ま、勝負なしの引き分けとしとこう」
「よし。じゃ、行くか」
ズボンの土をはらって、ふたりは歩きだす。
吐きだすものを吐きだして、どうやらモヤモヤもおさまったらしいが、いくらかシラケた面持ちで歩きだす。
ガン首そろえて山荘にもどった途端、マスターの雷が落ちた。
「どこでサボってたんだ。この忙しいのに」
「はあ?」
ふたりとも、きょとんとした顔になる。
「マスターは、ひまになったとコボしてたし、ぼくらも……」
「ええ、ぼくらも辞めようかって、相談してたんです」
「おいおい、いま辞められちゃ困るよ」
泡くった声で、マスターがとめにかかる。
「フリの客を受けた。女性グループがきたんだよ。急場に抜けられちゃお手あげだ」
「えっ、女性グループが!?」
ふたりは同時にいって、顔をみあわせる。
暗黙の了解で意見は一致。「辞めるの、ヤーメた」である。
「ぼくらも、男です。マスターの難儀を知っては、辞められません。働きますよ」
カッコつけて、隆一がいったものだ。
「おや。女性グループと聞いて、気が変わったかね」
マスターも、とっくにお見通しだったとみえる。
「まあ、そういうことです」
哲也が頭をかいてみせ、
「で、彼女たち部屋にいるんですか」
と訊く。
「いや、風呂だろう。クルマできたから、まずひと風呂あびて、散歩するとかいってた」
風呂と聞いて、またふたりは顔をみあわせた。ニヤリと笑いそうになるのを、おたがい抑えているとわかる。
マスターはまだ、脱衣場の〃覗き穴〃には気づいていないようであった。
「じゃ、ぼくは布団とシーツを調べなくちゃ」
「ぼく、ちょっとボイラーの工合みてきます」
口々にいうと、さっと、ふたりは二方に飛び散ってしまった。
「食事の支度が先だよ。そんなこと、後でいいんだってのに、しようがないなあ」
マスターはボヤいて、ひとり取り残されていた。
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