円 つぶら はめてハメられて
目 次
第一話 はめてハメられて
第二話 相姦のうずき
第三話 磨けば名器
第四話 嗜虐のゲーム
第五話 飼い殺しの男
第六話 男を渡る
第七話 愛は夜ひらく
第八話 乱れすぎた夜
第九話 混浴宿での果報
第十話 欲情ファミリイ
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第一話 はめてハメられて
1
新大阪仕立ての新幹線が、朝陽をあびながら東京にむけて走りだしたところであった。
この十二号車に乗りこんだのは、わずか数人。パラパラッと四、五粒、豆を散らしたように乗客が散らばって、それぞれの座席におさまっていた。
紅一点。というより紫陽花一輪、ぽつんと咲いたように、ラベンダー色のブルゾン・スーツを着た女も座席におさまって。浦辺純子のほかに、女性客の姿はない。
ガラ空きのグリーン車ではある。
「ほんま、貸し切りみたいやわ」
周りを見廻して、純子は独りごちた。
隣りも、通路をへだてた向こうのシートにも人影はなく、よりどりみどりの空席と映る。
指定に忠実に従って、いったん坐った通路側の席から窓ぎわの席へと、純子は移動することにした。
間もなく検札しにきた車掌も、席の移動をとがめるでなく、それどころか「ありがとうございました」と、礼までいって立ち去ったのだった。
純子は大きな顔して、指定外の席を占めていた。
手もちぶさたに、ネットの物入れに入ったミニ誌をとりだす。
それは、JRさんのサービス刊行物か。持ち帰り自由に、グリーン車にだけ各座席に配られたものなのだ。
読むともなしにページを繰ってるうちに、はや京都着を告げる車内アナウンスが流れだした。
京都駅から十二号車に乗りこんできたのは、たった一人。連れもない男であった。
座席ナンバーに視線をはわせながら、南原勝利は通路をつき進んでくる。
中ほどまで進んで、ちょうど純子の席にさしかかったところで、彼は足を停めた。
その気配に、純子は顔をあげた。
みれば男が、あらためて手にしたチケットと座席ナンバーを照合するふうに、見比べているではないか。
どうやら、純子が勝手に移動した席が、皮肉にも彼の指定席だったとみえる。
よりによって、この席に移動したとは、なんてことだ。ほかに、いくらも空席があるというのに。まったく皮肉な成行きではある。
「すいません。あたしの席、そちらで」
通路側の席を指して声をかけると、純子はあわててたちあがりかけた。
「ああ、いいですよ。そのまま、どうぞ」
男は掌を振って、押しとどめた。
快く自分の席をゆずったかっこうで、男は純子と隣りあわせに坐りこんだものである。
「なんだか、たまたま、ここだけ続き番号の切符が売られたみたいですね。みな飛び飛びに坐って、空席だらけやのに」
バツわるそうに、ちょっぴり不思議そうに、首かたげて純子がいう。
「そうですね。ここだけ詰まってる」
男は大きくうなずくと、
「しかし、歓迎すべき偶然。JRさんの粋なおはからい、としときましょうや」
さらりといって、笑いかける。
皓い歯のこぼれた男ぶりは、わるくない。長い足をもてあますように組んだ、ぜい肉のない長身。年のころは三十五、六だろうか。
隣りあわせて、不快でない相手。この偶然、純子も「異議なし」である。
「粋なおはからい、やて。イキなこと言わはる」
純子も笑いかえした。
ちょうど三十を迎えた純子と、年かっこうの釣りあいがとれそうな相手だろう。
京都から乗った客をさがすように見廻しながら、車掌が近づいてくる。
的確に南原をさがし当て、切符を検べると、純子の場合とおなじく礼をいって去ってゆく。
すると、イタズラを打ち明けるように、南原がいいだした。
「黙認、無事通過ときたけど。ぼくの席、ほんとは、もっと後ろのほうで。こことは離れてるんですよ」
「えっ? ああ、それで。ここだけ続き番号やて、へんやと思いました」
純子は合点する。
「そやけど、座席番号たしかめたりして、この席のひとみたいやったし……」
「ゼスチャーですよ。連れもなさそうな、美人の隣りに坐りたい一心で、もっともらしく」
「そんな手があるやて。あたしも、チャンスみつけて、試してみようかしら」
「いつも成功するとはかぎりませんよ」
ふたりは、笑いあった。
「どちらまで? 東京ですか」
南原が訊く。
「ええ。行こう、思うてます。おたくは、東京に帰らはるんでしょ」
「帰らはる……か。そりゃ、まあね」
耳なれない言葉を聞いたように、南原がなぞってみせる。
「奥さんとお子たちのとこへ、帰らはるのね」
ひっかけ言葉で、純子はそれとなく身上調査のさぐりをいれたものだ。
「えっ。いや、妻子はいないですよ」
「いやあ、独身ですのん」
(ほんま、かな?)と、なかば怪しむ眼をむけながらも、純子はハズんだ声をあげる。
「そういう、あなたは、人妻?」
「この通り、リングは、はまってないでしょ」
左手をかざして、純子は応える。
なるほど、結婚指輪ははまっていない。
そのかわりプラチナ台の、両サイドをダイヤで飾った、大粒のメキシコオパールの指輪が薬指にはまっている。それがダイヤと照射しあって、朱色の勝った妖しい光をまたたかせているのだった。
南原は吸いよせられるようにオパールにみとれ、値を測る目つきにもなっていた。
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