伊東眞夏 肛虐レイプ
目 次
第一章 白い馬の女
第二章 順子夫人の気だるい午後
第三章 馬小舎の少女
第四章 裸馬と裸の女たち
第五章 北の風の中で犯されて
第六章 奴隷の悦び
第七章 牝馬たちの饗宴
第八章 SM牧場の悦楽
第九章 調教の成果
第十章 順子夫人の優雅な楽しみ
(C)Manatsu Ito
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第一章 白い馬の女
露をふくんだ草原は、まだ夜の夢をひきずって、うっすらと霧がたちこめていた。碓井の山並みも浅間も、まだ深い藍色に沈んでいる。その草原を遠くから鈍い地響きが伝わってきた。それは真っ直ぐに間近に迫ってくるかと思えた時、霧を白いベールのようにまとわせて見事な白い馬が現れた。
跨がっているのは、二十二、三と見える女性だった。赤い乗馬服に白いズボン、黒いブーツ。黒い乗馬キャップの脇から流れる美しい髪。
女は、馬をせきたてる手綱を少しも緩めずに、後ろを追ってくるもう一つの蹄の音に視線を向けた。
真剣なまなざしとは裏腹に、その横顔には少女の清新なあどけなさがまだ残っていた。
「はあ!」
女は声を張って、馬に鞭を当てた。疾走する馬に煽られてか、女の声は、静かな草原に透きとおって響いた。
後ろを振り向いた女の目の端がとらえたのは、三馬身ほど遅れて追って来る黒いアラブ種の黒馬だった。
その黒馬も、その黒光りする美しい毛並みの下に隠されている逞しい筋肉を、恐ろしいほどに波打たせて、全力で前の馬を追っていた。しかし、アラブ種とサラブレッドという馬の違いは歴然だった。
女も自分の勝ちを意識したのか、その表情に余裕の笑みが浮かんだように見えた。
女の名前は真行寺煕子。馬は彼女の持ち馬で、ハヤテプリンスと言った。しかし、煕子は颯爽とした響きを好んで『ハヤテ』とだけ呼んでいた。
煕子がハヤテに逢うのは、夏のわずかのシーズン、近くの別荘に、家族でやって来た時に限られていた。
それでも、煕子のハヤテに対する思い入れは並々ではなかった。今朝も夜の明けるのを待ちかねたように、ハヤテの遠乗りのために乗馬クラブに車を乗りつけた。
担当の奥田は、そのために寝起きを起こされた。
眠い目を擦り擦り出てきた奥田に、煕子はひどく機嫌が悪かった。彼女が着いた時、ハヤテの装馬が済んでいなかったからだ。今朝の遠乗りは、昨日のうちに連絡しておいた筈だ。なのにどうして、自分が到着するまでに支度がすんでいないのか、と言うのが煕子の言い分だが、奥田にしても、まさか、今日のような霧の日に遠乗りもないだろうと、思っていたのだ。そういう奥田の遠慮がちな言い訳も、苦労知らずの煕子には、通用しなかった。来ないと分かっていても、ちゃんと待機しておくのが、あなたの仕事じゃないかと、やりこめられると、奥田も返す言葉がなかった。
着替えをすませるまでに、急いで馬の支度をしておいてちょうだい。と言って煕子は、クラブハウスの更衣室に消えていった。
やがて、煕子が乗馬服に着替えて出てくると、装馬に余念のない奥田の横で、見かけないインストラクターが話しかけていた。
男はひどく横柄な態度で奥田に接していたが、煕子ももう数年もこのクラブに厄介になっているから大概のメンバーなら顔見知りだし、その男が新入りなのは間違いなかった。奥田の方が、少なくともこのクラブでは先輩なのだから、もっと鷹揚に構えていればいいのに、どうしてああ卑屈にならなければならないのだろうと思った。
男は遠慮なくハヤテの鞍や鐙を手にとって確かめながら、
「随分、贅沢な道具じゃないか」
と馬具の高価なことを話のネタにしていた。
その事は煕子のプライドを擽った。しかし、それに続く言葉が、煕子の癇にさわった。
「いくら金持ちの道楽か知らないが、こんな贅沢をして、乗馬の腕前の方はどんなものなんだい」
自分には手の届かないような道具を揃えているからと言って、あてつけがましく乗馬の腕を云々されるのは心外だった。それに人を舐めきったような男の態度も気にいらなかった。
「奥田、用意はすんだの?」
と、煕子はわざと大きな声を上げた。男も驚いて煕子を振り向いた。
煕子は男を尻目にハヤテに近づくと、男が褒めていた道具をわざと邪険に扱って、ひらりとハヤテの上に体を躍らせた。
「あなた、私の腕を疑っているようだけど、人のことが言えるだけの腕なんでしょうね」
しかし、それに対して男は、にがりきった笑いで答え、そのまま、そばに休ませていた黒馬の手綱を取って去ろうとした。
「待ちなさい」
煕子の張り詰めた声が飛んだ。
「………」
「あなた、今、笑ったわね。何が可笑しいの?」
「別に、……」
「いえ、笑ったわ。そんなに私の腕が疑わしいと思うんなら、私と競争する勇気がある」
「そのハヤテプリンスとか?」
男は、しばらく黙って煕子を睨んでいたが、
「いいだろう」
と男は言った。
「一本樫まででどうだ」
一本樫というのは草原を二キロほども行ったところにあり、文字通り草原にポツンと一本立っている樫の木のことだった。樹齢は優に五百年は越しているだろう巨木だった。煕子も、その樫の木をめぐって帰ってくるのが、遠乗りでも一番好きなコースだった。
「いいわ」
煕子もそうなるとあとに引けなかった。
「ところで、この勝負には何を賭けるんだ?」
と男が聞いた。
「やる以上、何か賭けた方が張り合いが出るだろう」
「私に勝てると思ってるわけ? 賭けたっていいけど、損をするのはあなただけよ。これに勝てる馬なんか、このクラブにいるわけないんだから。それでもいいんなら、好きにすればいいわ」
「そうか、じゃ、俺が勝ったら、あんたのオカマを掘らせてもらおう」
煕子はこれほど、下品な言葉を自分に投げつけられたことは生まれてこの方一度もなかった。
「いいわ」
煕子はやっと気をとりなおして、言い返した。
「その代わり、私が勝ったら、あなたのオカマを掘らせてもらうわ」
「あんたが俺のオカマをか」
「わたしじゃないわよ。奥田にやらせるわ。あなたがヒィヒィ言うところを笑って見せてもらうわ、いいわね、奥田」
そう言って、奥田の方に目をやった。
奥田は、心細げに目を伏せた。
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