官能小説販売サイト 北沢拓也 『未亡人したたる』
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北沢拓也    未亡人したたる

目 次
裸体とオパール
珊瑚色の淫ら火
牝肌トパーズ
指と欲情のペリドット
レスビアン・ガーネット
堕悦のルビー
乱宴のアメシスト
初夜に捧げるダイヤモンド

(C)Takuya kitazawa

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   裸体とオパール

「お嬢さまへの結婚祝いでしたら、これなどいかがでしょう……」
 有紀は末永にオパールをすすめてみた。
「ふうむ、なかなか神秘的な色をしておる……」
「単色ではなく、複雑な色の重なり合いがオパールの特徴なんです。よくご覧になるとわかりますけど、この石は七色の光が楽しめます。ファイアーと申しまして、この複雑な色の輝きがオパールの値打ちなんです。ほかの宝石では味わえない美しさですわ」
 末永は、有紀が差し出したオパールのその虹のような輝きにしばらく見惚れていたが、
「娘への結婚祝いにしては高価すぎるな」とつぶやく。
「お嬢さまは十月生まれときいております。オパールは十月のお誕生石でもあるんです。忍耐、悲哀を克服して幸せをかちとると申しますわ」
 末永は、都内の有名大学の理事をしている。年頃の娘が一人いる。妻とは別居中で、彼は久我山の広い邸宅に養女の麻理と一緒に暮らしていた。
 有紀が末永家を訪れたのは、この日が三度目であった。一度目は玄関払いをくわされた。二度目は末永は留守で、五十すぎの家政婦さんがあらわれた。
「銀座の英宝堂から有紀が挨拶に伺ったとおっしゃってください」
 有紀は、人の良さそうなその家政婦さんにそう告げ、玄関に虎屋の「夜の梅」をおいていった。
 そしてこの日が三度目の訪問であった。
 この日、末永は機嫌が良かった。有紀の熱意に負けたのかもしれない。和服姿であらわれた有紀をこころよく迎え入れ、
「さあ、こっちへいらっしゃい。娘も家政婦もあいにく留守なので、茶も出せんが」
 大島の着流しの末永は、有紀を庭の見える客間に通して、座敷テーブルを挟んで向かい合って座ると、
「美人に何度も足を運ばれては、宝石の一つも買わんといかんかな。うちの大学を出た結城君の紹介でもあるし」
 といってくれた。
 結城というのは、有紀が勤めている英宝堂の店長である結城英太のことである。
「ところで、わたしがこのオパールを娘に買ってやるとして、何か見返りがなきゃいやだといったら、あんたはどうする?」
 末永は宝石ケースのオパールから目を戻して、笑いながらそういった。冗談のようにいっているが、目は笑っていなかった。
「おっしゃって下さい。わたくしどもの店で出来ることでしたら何でもいたしますから」
「いや、そういうことではない。わたしは、有紀さん、あんたに興味がある。あんたの裸が見たいといったらどうする?」
「冗談はおやめになって下さい」
 有紀はすこし赤くなった。
「わたしは真面目だよ。まじめにいっている。あなたももう三十近いのだろう、大人の話がわかっていい年齢だと思うがね」
「裸になるだけ、ですか」
「そうだよ。いやかね?」
 有紀は眸を伏せ、しばらくためらった。客のこうした申し出はある程度、覚悟している。百万近い宝石を買ってもらうのである。この男に裸身をさらし、それで宝石が売れるものなら、裸を見せることぐらいわけのないことだった。
 それに、六十近い末永に裸体をさらすことには、それほどの羞恥がない。
 むしろ有紀は、亡くなった夫の前で全裸になるほうが恥ずかしかった。
 有紀がためらったのは、末永がほんとうに宝石を買う意志があるのかどうか、という見定めだった。宝石も買ってもらえず、裸だけ見せて戻ったとあっては、店長の結城になにをいわれるかわかったものではない。
「オパール、買っていただけるのでしょうか」
 有紀は眸をあげた。自分では気がついていないのだが、こんなとき有紀の眸には淡い媚の色が流れる。
「むろんだよ」
「でも口約束だけでは不安ですわ。信用はいたしますけど、あとで買わないとおっしゃられると、困りますもの」
 口許に甘えるような笑いを浮かべてみせた。
 末永は苦笑しながら、「待っていてくれ」といい、いったん座をはずして、小切手帳をもって戻ってくると、「小切手を書いてあげる。それならいいだろう」といい、オパールの金額をそこに書き込み、引きちぎって有紀に差し出した。
「ありがとうございます」
 有紀は小切手をバッグにしまった。
「鑑定書はあとで送らせていただきます」
「そうして欲しいな。偽物をつかまされてはかなわんからな」
 末永は座椅子から立ちあがると、庭が眺められる客間の障子をぴしゃっと閉めた。
「六十近くなるとね、見る愉しみだけで十分なんだよ。あんたのような若い人にはわからんだろうが……」
 有紀は立ちあがって、帯をといた。さすがに羞恥が体を走る。末永を異性とは思わぬものの男には変わりはない。銭湯で裸になるのとは、わけがちがうのだ。
 野見山有紀は、末永の前でひっそりと帯をとく。
 六十近い男の前とはいえ、やはり体が熱くなるような羞恥はいや応なくこみあげてくる。だが約束は約束であった。この男は八十万円もするオパールを買ってくれたのである。裸を見せるくらいやむをえない……。
 障子を閉めきった客間には、秋のやわらかい日ざしが忍びこんできていた。
 有紀は帯をとき、綸子を肩からすべり落とし、ついで長襦袢の伊達巻に手をかけた。長襦袢の袖を抜くときは、さすがにためらい、その場にうずくまり、立てひざをして、長襦袢をとり去った。
 有紀の白い体をおおっているものは、あとはガーゼの薄い襦袢だけとなった。有紀は和服のときは下穿きはつけない主義だった。
「立ってみてくれんか」
 末永が命じた。声がいくぶんかすれている。
「その襦袢も脱いでほしい」
「ジュバンも、ですか」
「そうだ」
 末永の声がうわずった。
 有紀は仕方なく立ちあがってみせた。
 彼女は二十八歳の未亡人だが、子供を産んだ経験はない。体つきは女としては華奢なほうだが、体全体に熟れた女のまろみがある。しかも、くびれるところはくびれ、ふくらむべきところは思いきりよくふくらみきっていた。
 ためらいながら最後の襦袢をとり去ると、とたんに、双つの乳房がぷるんと弾け出た。腿と腿とがかみ合う下腹のそこだけぷっくりと盛りあがった小さな丘のような部分に、黒々とよく縮れた密毛が扇を小さくひろげたようなかたちでむらがっている。
 有紀は、その純黒の毛むらを両手でおおいかくそうとした。
「だめだ、しっかり立って、両手を頭のうしろで組んでみせてほしい」
「こうですの?」
 このとき有紀は、末永にくまなく裸身を見せるその恥ずかしさの底に甘い気分がひろがるのを、感じとっている自分に気がついていた。末永の顔が紅潮してくるのがわかると、自分の裸身をもっと大胆に見せつけてやりたくなる。
 有紀はプロポーションには自信があった。自分の体がやわらかく、そしていつもすこし湿ったような光沢をもっていることも知っている。亡くなった夫は、そんな有紀の体をいやらしい体だといった。
「男を吸いこむような肌だよ。いつもしっとりと湿って、よくしなう。男に抱き癖をつける体だよ、きみは……」
 有紀の夫は、有紀を抱くとき、「きみの体はどうしてこんなにどこもかしこもやわらかいんだ。腿のあたりなんかぼくの指がうまっちまう」といったこともあった。
 夫が誉めたたえたその体を、末永はまぶしそうな目でじっと見入っている。
 有紀は勝ち誇ったような気持ちになった。大人をからかう少女のような悪戯心に有紀は衝きうごかされ、その一度も日に当てたことのないような白くてやわらかい体をまっすぐに立ててみせ、両腕を髪をたばねている頭のうしろにまわし、モデルがやるようなポーズを、末永の前でとってみせた。
 腋毛がかすかに密生した両のえきも、すっかり末永の目にさらした。
 自分の体の秘めやかな場所もくまなくさらし、それをすっかりみせる露出欲に、有紀自身、かすかな興奮さえおぼえていた。
 
 
 
 
〜〜『未亡人したたる』(北沢拓也)〜〜
 
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