伊東眞夏 恋 奴 隷
目 次
優しい男
OL・みゆき
弘 樹
愛の奴隷
SMクラブ
調教時代
買われる女
死の接吻
狂った果実
(C)Manatsu Ito
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優しい男
みゆきの足の上を生温かい海鼠がのぼってきた。海鼠はたちまち、男の唇になり、その生温かさは男の舌になった。
男がみゆきの足を舐めているのだ。
その男の舌はちょっと前までは足の親指をすっぽりと包んでいたのだ。
しっかりすぼめた唇で、親指を何度か上下にしごかれた。
それだけでみゆきはイッてしまいそうだった。
男が女の中に入れた時の感触ってこんなのだろうか。
男の口が女のアソコで、みゆきの足の親指がペニスだ。足の親指を男の口の中に突っ込むのは、きっと男が女に挿入する時の気分と似ているのじゃあないかしら。
男の口の中はあったかくて、濡れていて、包みこまれていると、体の一部だというのに体全部が包みこまれていくようだった。天国にいるような気分だった。
「ああ、弘樹さん……」
みゆきは必死で声をあげないように、指を噛んでいたのだが、その時はさすがに声が出てしまった。
彼は右も左も満遍なくみゆきの足の親指を舐めた。
舐められながら、みゆきは「どうしよう、こんなこといけない……」と何度も口の中で呟いていた。
愛しあっていることがいけないというのではなかった。
男にこんなことをさせていることが恐いのだ。
それもただの男ではなかった。
弘樹さんはみゆきには勿体ないほどのいい男だった。
みゆきはブスだった。
そう自分では信じていた。
実際には自分が思っているほどみゆきはブスではない。
確かに少し太めなのは仕方がない。生まれつきなのだから。でも、目元はぱっちりしているし、胸の形もいい。脚は短いけれど、それなりにきれいな線をしている。それなのに、誰がなんと言おうと、自分はブスだと思いこんでいる。思いこんでいるのだから、どうしようもない。
男なんか一生頼りにせずに生きて行こうと心に決めていた。
それが弘樹さんに会った途端、その決心も鈍ってしまった。
弘樹さんはどこか違っていた。
言葉はいつも優しいし、ちっともいじわるなところがなかった。
そばにいるとそれだけでうっとりしてしまうのだ。
弘樹さんの舌は今、ゆっくりとみゆきの脛をのぼっていた。
みゆきは自分の脚が太くて、舐めあげてくれる弘樹さんにこんな不恰好な脚を舐めさせて申し訳なくて仕方がなかった。
みゆきは丸裸で、なにもかも安心しきって、弘樹さんに体をあずけていた。その体の上を弘樹さんの舌が這っているのだった。
それにしても弘樹さんはこんなことをして楽しいのだろうか。
こんないい男にここまでされたら、普通の女なら涙を流して喜ぶんだろうな、とぼんやり考えていた。
みゆきには愛されるということに自信がないのだ。自信のなさが、愛される悦びまで心から締め出しているのだ。
舌が両方の膝を丹念に舐めまわしている。
くすぐったくて、悲しいくらいに気持ちよかった。
でも、この気持ちよさをどうしていいのかみゆきには分からない。気持ちいいのがつらいのだ。
こんなことじゃいけない。きっと弘樹さんはこうやって、何人もの女を泣かせてきたのだろうから、自分も同じように声をあげて、悶えてあげないと変だと思われる。
いくらそう頭で考えてみても、体が反応してくれないのだ。声が喉でとまってしまう。せめて芝居ででもいいから声を出そうとするのだが、どういうわけかそれさえできないのだった。
いじめられるのに慣れているから、いじめられれば芝居もできた。泣けと言われれば、嘘の涙なんかいつでも流すことができる。
ところが優しくされると駄目なのだ。
優しくされると、どうしていいか分からない。
冷たくされたり、意地悪く扱われたほうが、ずっと自分を開放できる。ブスのみゆきが、長い間に身につけた悲しい習性だった。
弘樹の優しさは夢のようだった。しかし、それは同時に拷問だ。
弘樹の舌がゆっくりとみゆきの内腿をのぼってきた。
腿の太いのはみゆきが誰よりも知っていた。
もう、やめてください。もう、お願いですから……。
みゆきは胸の内で何度、そう呟いたかしれない。
でも声に出しては、とても言うことができなかった。
やめてほしいとは本当は思っていないのだ。
本心はもっと愛されたいのだ。でも、きっとこれっきりだろう。どんなに弘樹さんが優しくても、きっと今日一回きりで、自分のようなブスには飽き飽きしてしまうにちがいない。
あとで友達にあったら、さんざん私のことを笑い物にするに決まってる。
『この前、すごいブスを抱いちゃったよ。それが顔がひどいとかスタイルが悪いとかいうのは最初から分かっていたんだけど、それより、抱いててちっとも面白くないんだ。まるで丸太を抱いてるみたいでさ。どんなにしてやったって、ウンでもスンでもないんだぜ。ブスの上に不感症ときてるんだから……』
今から、飲み屋で交わされている男たちの会話が、まわりの喧騒と一緒に聞こえてくるようだった。
これでみゆきが本気で弘樹さんを愛してしまおうものなら、男たちの笑いはいよいよ高くなって、中には椅子を転げおちてまで笑う男も現れてくるだろう。
『あのブス、本気だよ。俺が本気であんなのに惚れると思ってるのかよ。勘弁してくれよ、まったく』
『身のほど知らずっていうのはああいうのを言うんだろうな。一回でも抱いてやっただけてもありがたいと思ってもらいたいよな。あんなブスは』
こんな会話がいつか交わされるかと思うと、みゆきは悲しくてたまらない。
そして、そう思ってみると、この人がこんなに優しくしてくれるのは、すべてあとで自分を笑い者にするための策略のようにも思えてくるのだった。
弘樹さんの舌が、ゆっくりと太腿をのぼってきた。
内腿に当てられた彼の手が、そっと、脚を開くように促している。
みゆきの戸惑いはいよいよ大きくなった。
脚を開けということは、女性の秘部を露にすることだし、そうすれば、きっと弘樹さんの舌がその奥のほうに入り込んでくる。
そんなこと……。
無理矢理こじあけられるのならともかく、自分から脚を開いて男を誘うようなこと、まして相手が弘樹さんのようないい男だったら、どうしてそんなはしたないことができるだろう。
自分が弘樹さんにも負けないくらいの美人で、いつも男を足元にひれ伏せさせて、当然のように振る舞うことができれば、話は別だ。みゆきはとてもそんな柄じゃない。むしろ、自分の方が弘樹さんにひれ伏さなければならない立場なのだ。
どうしよう。
泣きたい気持ちでみゆきは自問自答を繰り返した。
弘樹の手はさらに、脚を開くように迫ってきた。
みゆきは今にも泣きそうな顔で、必死に首を振った。
「どうして?」
弘樹が優しく問いかけた。
「だ、だめ……」
「恥ずかしがらなくていいよ。脚を開いて」
「でも……」
「お願いだから」
弘樹さんの声はどこまでも優しかった。
彼の声はまるで耳から入ってきて、体中をとろけさせてしまうように甘かった。
その声に促されるように、みゆきはそっと脚を開いていった。
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