飯干晃一 餌 食〜不倫編〜
目 次
第一話 ハーレムの女たち
第二話 溺愛と呪縛
第三話 レイプの落とし穴
第四話 悪いのはあいつだ
第五話 豊潤な美女
第六話 秘密の記念日
あとがき
(C)Koichi Iboshi 1994
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第一話 ハーレムの女たち
1
《供述I》
――名前は。
「原田茂」
――年齢は。
「四十二歳」
――あんたは女に刺されたんだな。
「そうや」
――どこを。
「腹や」
――どのあたり。
「ここや。見たかったら見せたるで」
――いや。ここでひろげてもらう必要はない。診断書によると傷の経過は良好だということだが。
「刺し傷はたいしたことはなかったからな」
――刺した女の名前は。
「宮前康子」
――年齢は。
「三十二歳」
――凶器は。
「台所にあった出刃包丁や」
――手にも繃帯を巻いているが、その傷はどうした。
「康子から包丁をもぎ取る時にケガをしたんや」
――そうか。それで、包丁をもぎ取ってから、おまえはどうした。
「もちろん、わしはかっとなって、康子だけでなく、やよいも、梅子もみな殺しにしたろか、と思うた」
――それを踏み止まったんだな。
「そうや。こいつらを殺してしもうたら、どうなる、ととっさにブレーキがかかった。わしも四十歳を越えとるから、それぐらいの分別がついたというわけや。その代わりに三人の女を思いきりどついたり蹴ったりしたわな」
――事件については、あとでゆっくり聞くことにしよう。あんたの職業は。
「表向きは土建業や」
――表向きとはどういう意味か。
「土建業の看板をかけとるけれど、じっさいにわしがダンプやコンクリートミキサーを持っとるわけやない。仲間の口ききや」
――おまえは吉浦組の組員だという噂があるが。
「いや、わしは組員やない。それはあんたのところのマル暴に聞いてもろたら、ようわかる。おれは吉浦組には出入りしておるが、吉浦のおやっさんからは盃は貰うておらん」
――吉浦組でなかったら、おまえはどこの組の者か。
「どこの組の者でもない」
――花田組とも関係はないのか。
「そら、花田組にも出入りはしとるが、アレとも盃はしとらんぜ」
――どこかの組の組員ではないのか。
「わしはどこの組からも盃は貰うておらん。わしは暴力団やないで」
――なら、どうして吉浦組や花田組や、そのほかの組に出入りをしておるんか。
「それはシゴトのためや。組のほうから、わしはシゴトをまわしてもらう。それをわしは下請けにまわす。それがわしのシゴトや」
――地上げもやるのか。
「そら、やる。ことシゴトなら、より好みはせん。なんでもやる」
――建造物損壊もおまえのシゴトか。
「おい、おい。人聞きの悪いことを言うてくれるやないか。どんな証拠があって、そうきめつけるんや」
――古い家をぶち壊して、店子を住まわせんようにするのも、おまえのシゴトか、と聞いておるんだ。
「そっちゃで、そうやと思うんなら、勝手に思えや」
――吉浦組や花田組からシゴトを貰えば、おまえは組にいくら上納金を出すんか。
「それはシゴトの種類や性質にもよる。いちがいには言えん」
――これもあとでゆっくりと聞こう。
「けっ。何のためにわしを警察に呼んでくれたんや。わしが女に刺されたという被害のためやないんかい」
――ああ、そうだ。何でおまえが女に刺されたのか。その原因を探るためには、おまえから聞くことがいっぱいあるんだ。
「おまえら警察はねちこいのう。早よう本題にはいれや」
――シゴトは土建業だけか。
「違う」
――ほかに何をしておるのか。
「それも調べがついとるんやろ。いちいち説明せないかんのかい」
――説明してもらおう。
「けったくその悪い話やな。新地でパブをやっとるがな」
――店の名前は。
「春風や」
――パブ春風か。
「ええ名前やろがい」
――従業員は。
「五人や」
――あの狭い店で五人とは多すぎないか。
「狭い? そんなことをわかっておって、店の名前から聞きおったんかい」
――そうだ。調べがついておっても、おまえの口から全部話してもらう。
「ほんまに警察とは厄介なもんじゃのう」
――文句を言うな。おまえは叩けばホコリの出る身だ。生意気にブー垂れておると、こっちは意地でもホコリを叩き出してやるぞ。おい。警察を甘くみるなよ。
「わかっとるよ」
――パブ春風はスタンド形式か。
「そうや」
――客の定数は。
「詰めて十人や」
――客十人に従業員五人か。
「そうや」
――多すぎると思わんか。
「女の数が多いと客はよろこぶ。これも商売のためや」
――従業員の五人は女ばかりか。
「そうや」
――パブには二階があるな。
「ある」
――そこは何に使っておるんだ。
「女たちが着替えたり、あるいは休憩したりするのに使う」
――おまえもその店に行くのか。
「行く時もあれば行かん時もある」
――従業員は五人といったな。
「そうや。五人や」
――どこにおるんか。
「パブのなかの話か」
――そうだ。
「カウンターのなかにおるよ」
――名前と年齢を言ってみろ。
「女たちのか?」
――そうだ。
「店長はよし子や。これはわしの正式の女房や。ことしで四十歳になる」
――正式の女房というと、戸籍上の妻ということか。
「そや」
――あとの四人は。
「尾形やよい、三十六歳。それにわしを刺したあのアホンダラの宮前康子。こいつは三十二歳や」
――それから。
「繁田梅子、三十歳。佐伯伸江、二十八歳。これで合計五人や」
――その女たちとおまえとの関係は。
「全部わしの女房や」
――?
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