一条きらら 人妻たちの寝室
目 次
ビデオ交歓会
女の野望
テレフォン・ラブ
初心な男の子
盗聴マイク
義母の再婚
課外授業
泣きどころ
浮気芝居
夫のいない夏休み
(C)Kirara Ichijo
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ビデオ交歓会
1
東京郊外にある『グリーンヒルズマンション』には十五世帯が住んでいた。
都心から約三十分、中央線K駅から歩いて六分のこの分譲マンションは、外壁がホワイトベージュの四階建て。一階の五フロアが店舗、二階から四階までが住居になっている。
建物はコンクリート壁が厚く、断熱材を施してあるハイグレードな設計で、新築三年足らずだった。
最上階の角部屋の四〇五号室に住む佐久間夕香は、四〇一号室の鈴原紀美子と一階のコーヒーショップの窓際の席に向かい合っていた。
主婦にとって、退屈な昼下りである。
店内は明るく、初冬の午後の陽が表の道路に面したガラス窓から射し込んでいた。
「それでね、その奥さん、エステティックサロンの全身美容に通うのをやめちゃったら、二週間でウエストも体重も、もとに戻っちゃったんですって」
と、紀美子が面白そうな口調で話している。
「お金かけた分だけ損しちゃったわね。だって高いんでしょ、エステティックサロンて」
「入会金が五十万円、一回通うごとに、コースによって費用は違うけど、五万ぐらい取るんですって」
「半年続けて百万近くじゃないの」
夕香は呆れたように言った。確かに女は三十過ぎると、肉体の線に自信がなくなってくる。けれども、百万もかけて美しくなりたいのだろうか。
夕香がそう話すと、
「奥さんはまだいいわよ、今年三十でしょ。まだ若々しいし、二十代に見えるもの」
「そうかしら」
「ええ。だから、百万かけても美しくなりたい中年女の気持ち、わからないんじゃない?」
「あら、奥さんだってまだ今年、三十三……」
「四になっちゃったのよ、先月」
「三十過ぎると焦っちゃうわね、いつまで女でいられるかって」
「年齢の話はよしましょうよ。ね、それより、凄いこと教えてあげましょうか」
紀美子は夕香の顔を見て、含み笑った。
「なあに。もったいぶらないで、話しなさいよ」
好奇心にかられ、夕香は催促する。紀美子の笑いが淫らなものを含んでいる。
「何を聞いても驚かない?」
「驚かないわ」
「軽蔑しない?」
「しないわよ、また新しい不倫相手でも見つけたの?」
「あら、違うわ」
紀美子は顔を赤らめた。先月まで、彼女は不倫していた。相手はセールスマンだった。年下の独身の男で、紀美子に離婚を促し、しつこくなったので、別れたらしい。
夕香も不倫願望はあるが、実行する勇気はなかった。それに結婚して五年たつが、夫を心から愛していた。
「じゃあ、何なの、一体」
「それがね、うふふ……秘密クラブに入っちゃったの」
「秘密クラブ?」
夕香は思わず声をあげてしまい、慌てて口を手でおおった。店の中の客の姿はまばらだが、音楽はかからず静かだった。紀美子は声をひそめた。
「秘密クラブっていってもね、乱交とかSMとかそんなんじゃないのよ。売春組織でもないわ。あのね、ビデオ交歓会なの」
「ビデオ交歓会? なあに、それ」
「裏ビデオよ」
「まあ……」
夕香の頬がかすかに染まった。家にビデオデッキがあり、テレビで放映する映画を録画するために使っているが、一度だけ、裏ビデオを見たことがあった。
カセットは夫の和彦が会社の同僚から借りてきた物らしい。それまで、夕香はラブホテルに備え付けのポルノビデオなら見たことがあった。
けれどもその裏ビデオは、同性の局部のアップがあり、見るに耐えなかったが、かなりなまなましく迫力があった。
一週間ほど借りていて、三回ぐらい夫婦はそのテープを見た。
「でもね、そのビデオは商売用に作られたものとは違うのよ。しろうとなの」
紀美子は少し淫らな表情を浮かべて言った。
「しろうとって」
「だから、会員のを撮った物なの」
「まあ、じゃあ……」
「そうよ、自分たちで録画したビデオテープを他の会員に送って、交換し合ってそれを見るの」
紀美子はまた淫らな含み笑いをし、
「どう、興味ない?」
「ええ、それは、少しは……」
「ふふっ、奥さんて案外ブリッ子なんだから。本当は見てみたいくせに」
「見るのはいいけど、自分たちのを撮って他の人たちに見せるなんて」
「それがね、案外刺激的なのよ」
「………」
「露出症、っていうほどじゃないけど、誰だって、こんないやらしいことしてるところを誰かに見られたい、っていう気持ち、あるんじゃない?」
「そうかしら」
「奥さんはまだ、そこまで目覚めてないのね。でも他の夫婦のを見てみたい、っていう気持ちは、あるでしょう?」
「少しはね」
「少しじゃなくて大いにあるくせに。ねえ、その会の名前、夢の会、っていうんだけど、どう、入らない?」
「どうしようかしら」
「マンネリ化した夫婦の性生活にきっと役に立つわ。バラ色の、ううん、虹のような夢を見られるわ。ね、ご主人と相談して〈夢の会〉に入りなさいよ」
「ええ……」
夕香はあいまいに答えたが、好奇心を覚えていた。
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