川口青樹 『自虐SM女子大生〜変態願望シリーズ1〜』
川口青樹 自虐SM女子大生〜変態願望シリーズ1〜
人はいじめたたり、いじめられたりすることを望む。美貌の女子大生・麗子は、伊藤晴雨画伯の責め絵に目を止め、レディースコミックを開き、消し忘れの凄いビデオを観ているうちに、M感覚に痺れ、自虐の歓びに溺れていった。
麗子は、その名の通り麗しく育つようにと名付けられ、大勢の子供の中でもひときわ目立っていた。
その代わり、ガキ大将達の格好な餌食となり、子供の頃はかなり虐められてしまった。
それはいわゆる、お医者さんごっことは異なって、縛られたお姫様役で囚われの身になるようなことが多かった。
中でもそのガキ大将の一人がませていて、麗子を空家の柱に縛りつけたり、時には麗子のスカートを捲り上げ、パンツの上から手で叩いたりした。
しかしやがて子供たちの誰からか、その遊びが知れることになり、大人達に見つかって大目玉を食った。
そしてそのガキ大将も家の商売の都合で、いつのまにかそこから引っ越してしまっていた。
麗子は昨年の春から東京で一人暮らしを始めた。
ずーっと親と一緒の生活を、美術系の大学へ行きたいの一点張りでやっと許してもらったのだった。
タレントの山口ももえに似た顔立ちに、言い寄る男は多いのだが、お嬢様振りは相変わらずで、麗子の気のない態度に男達の方が空回りさせられることが多かった。
しかも裕福な実家からの仕送りで、アルバイトに精を出す必要もない。
空いた時間は美術館に行ったり、絵を書いたりしてもっぱら過していた。
そうした中、ある古本屋で絵画雑誌を見ていると、胸がズキンとするものを感じてしまった。
それは長襦袢が捲れ、肌も露わな女性が無残に縛り上げられた図だった。
周りを見渡すと、平日の午前中のせいか店内には客がいない。
女性店員が一人で棚を整理していた。
麗子は再び雑誌に目を転じて、次のページを捲った。
今度は天井から吊り下げられている図だった。
思わず麗子はそれを閉じると本棚に戻そうとした。
しかし、まるで自分の意思とは無関係に、その雑誌を手にしてしまった。
そして気がつくともうレジの前にいた。
「はい、どうぞ」
先程の女性店員が、にこやかに麗子に向かって手を伸ばした。
とにかくどこをどう歩いたのか全然覚えていなかった。
しかし机の上に置かれているのは、紛れもなく先程見た雑誌の入っている袋だった。
麗子は、ややためらいながらもその紙袋を開けて中から取り出した。
〈伊藤晴雨 特選集〉
聞いたことのない名前の画家だった。
しかしその絵から受ける、自分の言葉で言い尽くせない感情は、麗子を何かに駆り立てていた。
「姫、これでもか、これでもか」
あのガキ大将の声が聞こえていた。
それは幼い日に遊んだ空家の一室の光景だった。
「ああーっ」
麗子は声を放って目を醒した。
もちろんそこは麗子の住んでいるマンションのベッドの上である。
(……夢だったのね。でもあんな夢を見るなんて。……そう言えばみんなどうしているかしら)
珍しく夢の中のできごとを鮮明に覚えていた。
(えっ)
麗子は下半身のその部分に異常を感じていた。
まだ生理には早すぎるのだ。
ショーツの中へ手を伸ばして、指で触れてみると、そこはヌルヌルとしていた。
(これって、……いやだわ)
目を閉じると囚われのお姫様の自分と、そして昨日見た絵が交錯していた。
「うっ、ううっ」
自然に手が股間に伸びて、そのヌルヌルとした部分を弄っていた。
「あああ、あっ、あっ、ああーっ」
麗子はとうとう一人でいってしまった。
しばらくして冷静になると、麗子は自分のその行為を恥じた。
しかも濡れたままの下着で気持ち悪かった。
麗子は起き上がるとバスルームへと消えた。
「そろそろ卒業の課題に着手するように。諸君の斬新なチャレンジに期待する」
担当教授からの一言に、ゼミの学生は一瞬ざわめいた。
麗子も色々なことを考えていたが、どうしても今一つ絞ることができないでいた。
麗子のテーマは和服の持つ美しさである。
それを自分なりにどう表現すべきか迷っていた。
ふと頭の中に浮かんだのは、鮮やかな緋色であった。
その緋色は女性の長襦袢に使われるような色だった。
「あっ」
麗子は思わず声に出して、周りを驚かせた。
「ごっ、ごめんなさい」
麗子の頭の中に描かれたのは、先日の絵画雑誌の絵なのだった。
あれは、あの日以来、本棚の奥へしまったきりになっていた。
でもその代わり図書館や美術館等で伊藤晴雨のことを調べていた。
「ほう、伊藤晴雨かな、珍しい。君はこういう絵にも興味があったのかい」
「いっ、いえっ、あの、卒業課題の参考に調べていただけです」
図書館で出会った担当教授の言葉に、麗子は慌てて答えたこともあった。
伊藤晴雨を調べていくと、むしろ興味が湧いたのは、晴雨の周りに現れる女性達の生きざまだった。
時あたかも大正ロマンのまっただなか、肌を見せることさえ厭われていた時代のことなのだ。
そこへさらに縛りや屋外という要素まで加え、宙吊りや逆さ吊りの無残な姿を晒していく。
しかも大半が絵のモデルなのだから、きっと長時間そのままの状態で耐えていたことだろう。
さらにこれらの歴史を追っていくと、今尚それと似た世界があることを麗子は知った。
SMという言葉は聞いたことがあっても、その実態を知ったのはそれが初めてだった。
こうしていつしか麗子の脳裏には、幼い日のお姫様遊びが浮かんでいた。
〜〜『自虐SM女子大生〜変態願望シリーズ1〜』(川口青樹)〜〜
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