官能小説販売サイト 澤村健 『江戸の艶ばなし〜現代語訳シリーズ(1)〜』
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澤村 健    江戸の艶ばなし〜現代語訳シリーズ(1)〜

目 次
はじめに
間男をする――の章
示談金を払う――の章
情事をたくらむ――の章
夜這いのいいわけをする――の章
近親相姦におぼれる――の章
一物を見立てる――の章

(C)Ken Sawamura

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   はじめに

 江戸時代の俗文学の中に、『ばなし』と呼ばれる短い笑い話がある。
 二百六十年余の間に一千三百冊近い本が刊行され、六万種に近い話が紹介されている。いかに、江戸の上層階級から下層階級に至るまで、あらゆる人々が、これを愛読したかを分かっていただくことができるだろう。
 だが、現代人は読みたくても読めないのだ。類話が多すぎる、省略話法である、表現が難しいなどの理由からである。
 そこで、整理をやりなしたうえ、大胆な現代語化を計って、江戸を現代に呼び戻す挑戦を試みた。テーマもまた、親しみやすい性の話に絞ってみた。
 一話ごとに、〈そく〉をつけたのは、江戸の生活や人情や習慣というものを正しく伝えたかったからである。
『小咄』は楽しみながら、役に立ち、しかも肩が凝らない読み物であることを、あらためて知った。読者の共感を受けて、〈シリーズ2〉の筆を一日も早く執ることができたら嬉しい。
訳 者


   間男をする――の章

 間男は、「まおとこ」と読む。間男をもつとは、夫のある女が他の男と密通することをいう。密通した男は、間男の他に密夫とか情夫とも呼ばれ、女はみそかめとか姦婦と称された。

〈その1〉あと、もう一番
「お前さんは女房が間男に寝取られているのを、ご存じないのかい。なんてまあ、うつけ者じゃ。他所へでかけるふりをして、そっと家に戻り、二階の部屋の節穴から動かぬ証拠をつかまえたらいい。そんな奴は打ち殺してしまったらどうだい」
 近所の旦那から、きつくいい含められた大工の亭主は、
「よし、心得た」
 と、その日は明るいうちに帰ってきた。
 しばらく二階の屋根裏に潜んでいたら、案の定、間男が姿を現した。女房は別人のように顔を輝かせて出迎えた。
 お互いに帯を解き合う。たくましい裸像と、しなやかな裸像は、すでに興奮して、ほんのりと紅潮していた。亭主は我が女房を見て思わずなまつばを飲み込んだ。他の男に抱かれると、別人のような可愛い女に見えてならない。
 そのとき、宵宮を二日後に控えて、祭の太鼓が流れてきた。男は、その調子のいい旋律に合わせて、女房の股間を、とんとんとととんと軽くぜ上げる。巧みなあしらいだ。乱暴な自分とは、まるで違う、と思う。指先が女芯を捉え、女房はのけぞった。男は、その上に乗り上がると、乳房をねぶり、口を吸いたてた。
「ううう、しびれるう」
 女房がうめいた。太鼓の音が、さらに近づいてくる。男は太い怒張で女房のぬかるみを、ぐいと貫いた。あとは外の音に合わせて、腰を激しく回転する。
「ああ、いくいく」
「わたしも、いきます」
 階下の二人は大声で叫びながら絶頂に達していった。
 ところが、のぞきの亭主は股間を押え、しきりにもがいていたのに、まだ果てない。思わず、節穴に口を当てて、二人に懇願した。
「わしは、もう少しかかる。もう一番、所望したい」
しい蛇足〉
 明暦の大火(一六五七)で、日本橋の吉原が焼失し、浅草寺の裏に新吉原が開かれた。以前に比べ、きわめて庶民的となった。金持ちの町人は、しばしば『曲とり』という遊びを好んだ。
 みの女と交合すると、その周りでほうかんが踊り、しんたちが三味や太鼓で景気をつけるのである。この亭主、憧れの『曲とり』を思いだしてこうこつとしてしまったのだろうか。
 しかし、この恍惚は頂けない。これからは、間男に学んだ技術で汚名回復を計ってほしいものである。

〈その2〉それは鼻じゃ
 この亭主、担ぎの小間物売りで、よく家をける。近ごろ、女房に密夫ができたことに気がついた。なんとか現場に踏み込んで、双方をとっちめてやろう、と思う。
「明晩は、ご贔屓ひいきの家で一杯やってくる。久しぶりで泊ってくるからな」
 女房に、そう告げた。もちろん、策略である。
 当日の夜、亭主は自分の家に、そっと忍び込んだ。やっぱり間違いない。男と女の甘いむつごとが耳に飛び込んできた。ふすまわずかに横に引き、部屋の中を覗いて見た。
 ああ、凄い。着物の前をはだけ、下半身をきだしにした男と女が激しく絡み合っていた。
「くそ!」
 と、亭主は唇を噛みしめる。こうなったら、ことの次第をたっぷり目の底に灼きつけておこう、と考える。
 その途端、女房が大股を広げて、ごろりと向こう側に寝転んだ。女陰が丸見えだ。そこで、女房が密夫にささやいた。
「ねえ、お前さん。本当に愛していてくれるんなら、わたしの敏感な所をぺろぺろ舐め回しておくれよ」
「ああ、いいとも。一命をかけて、このように訪ねて参るほどには、お気に召すまま舐め舐めしてあげますとも」
 亭主のほうとしては、こんな会話を聞かされては、もっと襖を開け、とっくり見張っておく必要が生じた。
 その目の前で、密夫が女房の大切なあの部位に舌を這わせだした。ところが、味が渋いのか、臭いがきつすぎるのか、すぐに顔を横向け、濡れた個所を手でぬぐう。
 すかさず、女房が身もだえた。
「もっとじょうずにやっておくれよ。それじゃあ、半殺しじゃないか」
 密夫は、うろたえたが、約束は守らなければならない。口と鼻孔を押え、鼻先を使い、さっきのあそこを撫ぜだした。
「お前さん、それは舌かえ」
 女房は不審に思った。
「ああ、舌だよ。気持ちよかろう」
 密夫も真剣である。
「本当に舌かいな」
 女房の詮議がつづいた。
 亭主、二人を見ているうちに、じりじりした思いに駆られてならない。
「舌じゃ、舌じゃ」
 と、幾度めかに密夫が告げたときである。亭主は遂に我慢が限界に達した。がらっと襖を開け放つ。二人は仰天して目を見張った。
 亭主は欲求不満をぶちまけるように、大音声を発した。
「嘘をつくのも、いい加減にしろ。いままで使っていたのは舌じゃねえ。鼻じゃ、鼻じゃ」
 
 
 
 
〜〜『江戸の艶ばなし〜現代語訳シリーズ(1)〜』(澤村健)〜〜
 
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