飯干晃一 髑髏の秘戯
目 次
第一話 髑髏の秘戯
第二話 女ざかりの恋人たち
第三話 昼下がりの女
第四話 ジャンヌ・ダルクよ進め
第五話 淫女花
第六話 薔薇の失踪
第七話 唐崎教授の欲情
第八話 色好みの背後霊
第九話 メイクラブは人を救う?
(C)Koichi Iboshi 1991
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第一話 髑髏の秘戯
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おれ自身のことをどう説明していいのかわからない。もちろん自分のことは自分ではわかっているつもりだが、他人に説明するとなると話は別だ。
「学生である」
詮索されるとこう答えるよりほかはない。
「なに、ガクショウ?」
みんな怪訝な顔をした。
なかには百姓と間違えるヤツもいる。
「ああ、いま流行の有機肥料の農業をやってるの? だけどはたして農薬なしの農業なんてじっさいに成り立つの?」
こういう聞き方をするナマイキもいないではないが、たいていは、
「ウッソー、ホント?」
である。そして珍奇な動物でもみるようにおれをじろじろとみる。おれとすれば学生でも百姓でもどっちでもいいのだが、もしホンモノの農民がそういわれたとしたら、面白いことではないだろうと思う。
おれはもったいぶって学生といっているわけではない。学生でもいいわけだ。だが、学生というとそのままスクールボーイという意味に取られてしまう。
「学生である」
と答えると、
「どこの大学?」
と尋ねられるに決まっているから、わざわざ無所属という意味で古い言葉の学生という呼び名を使っているわけだ。
ありていにいえばおれは本を読んで暮らしている。このいい方もすこし変だ。仕事は何かと尋ねられたら、その時にこそ学生であるなどと曖昧な返事はせずに、
「本を読むこと。身体を使うこと」
とズバリ答えるほうが正確ともいえる。人は遊んで暮らしているように思うかもしれないが、おれの仕事は本を読むことによる精神の充実と、空手、拳法などによる肉体の鍛練、この二つに尽きるのである。
これがおれの職業だ。おれはそういい切ることができる。
職業とは何か。人によりいろんな定義があるだろう。メシを食うためだというなら、おれにはいささかながら両親の残してくれた遺産がある。だから、おれは報酬のない職業に安んじておれるわけだ。もう一つ、職業には労働による自己完結という面もあるだろう。それならば、おれは精神の充実、肉体の鍛練という自己完結をめざしている以上は、これぞ職業といって何の不届きもないはずだ。
おれは二十六歳。
何の恐れるものもない。ココニ一人ノ男アリ。これで十分だ。万巻とまではいかぬが千巻の書を読み、強靭な肉体を持っている。これに加えねばならぬものは何一つとしてない。
女もそうだ。放っておいても向こうからやってくる。たいていは、
「ウッソー、ホント?」
の類いだから、ウソではないホントのことだと実践に及べばよいだけのことである。
ベッドに誘いこむのに手間ひまかかりそうな女であれば、相手の女性に向かって塔印を結び、
「オン、アビラウンケン」
と呪文を唱える。
効果は満点である。たちまち彼女の心悸は高揚し、泉は春水に溢れ恥毛まで濡らせて、このおれに迫ってくるという仕儀になるのである。
だが、いまはおれはおれでないのだ。いよいよ奇怪な物語を語る時がやってきた。二根交会とは性交のことだが、このような男女合体はざらにある。これから語るのは摩訶不思議、おれ自身の男女一体の物語である。
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