官能小説販売サイト 影村英生 『蜜室の女探偵』
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影村英生    蜜室の女探偵

目 次
第一話 令嬢失踪
第二話 二重不倫
第三話 愛人追跡
第四話 恋人調査
第五話 離別工作
第六話 再会情事
第七話 同性愛欲
第八話 強姦遊戯

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   第一話 令嬢失踪

     1

(あのじゃじゃ馬むすめ、もし、気がかわったら、そのときは)
 ふいに、ふてぶてしい思いをつのらせたまきむらりょうすけは、田園調布駅前から放射状にひろがるさんの一方に、スチールグレーのBMWをすべりこませながら、かすかに唇をゆがめた。
 すぐに宝來公園を右折する。
 国際的ファッション・デザイナー、みやたけけんの邸宅は、この高級住宅街の一角にある。
 鉄筋二階建て、れん調の磁器タイル仕上げのシックなたたずまいも、夕暮れとともに周辺の豪邸の連なりと融けあい、大きな銀杏並木が投げかける暗い影が、この一帯をちょっとした迷路にかえてしまう。
 しかし、良介は、三カ月間、何度も通いつめた道すじだから、全くためらいがない。
 宮武謙吾、夫妻は、世界のひのきたいに進出後、パリに自社ビルを持ち、ブティック〃KENGO〃を経営するほか、目下、コレクション・シーズン到来とあって、発表準備におおわらわで、帰国するどころではない。
 恒例のパリ・コレクションをはじめ、業界最大イベントの一つ、プレタポルテ・コレクションや、プルミエール・ビジョン展がつづくからである。
 そうした事情で田園調布の宮武邸では、謙吾の長男、二十七歳のしゅういちと、その妹、しょうが留守番をしている。
 海外の現地法人や都内にいくつかある店舗のスタッフはかなりの人数なのに、自分の邸には使用人をいっさい置かないのが、宮武夫妻の信条らしく、宮武邸は兄妹二人きりの生活がつづいていた。
 トレンド・クリエーターを自称する牧村良介と秀一は、昨秋、パリで知り合った間柄である。
 良介のたくみな話術と、ソフトな人なつこさにすっかり気をゆるした秀一は、一緒に帰国し、以後、たびたび宮武邸に出入りさせるようになり、いつしか妹の翔子と良介は、肉体関係を持つようになっていたのだった。
 宮武邸の地下ガレージにBMWを乗り入れ、運転席から降りたった良介は、オールバックで、襟を立てたGジャンに、赤いウールセーターを着こみ、とても三十八歳の年齢を感じさせない。
 一見、ちょっと引いている感じの優男だが、長身で、切れ長の目と、ややしゃくれた顎に特徴がある。
 しかも、裸になると引きしまった体つきで、いつも日焼けサロンで肌をやいているので、なめし革のようなあさぐろい光沢を放っている。
 セックスはあけすけで、野性的。
 性戯も執拗で、持続力抜群である。
 良介が石段をあがって、重々しく格調のある玄関扉に達すると、どこからかじんちょうの香りがただよってくる。
 そっとベルを押すと、小走りな足音が近づく。
 扉をあけたのは宮武家の令嬢、翔子である。
「どうしたのよう。あまりおそいんで、アッタマにきちゃったわ」
 レイヤーを入れたロングヘアにりのワッチキャップをかぶった翔子は、抜けるように色が白い。
 かすかにそばかすの浮く顔だち。まつが長く、ぷりっと弾む少女っぽい唇をしている。
「秀一くん、居るのかい」
 良介は声をひそめる。
「今夜は渋谷のブティックに泊まるってさ。なにをビビッてるの。兄貴なんて、居ても居なくてもかまわないでしょ」
 十八歳の翔子はれたように、胸にさげたロングネックレスの束を、ジャラジャラ、と鳴らした。
 勝ち気そうな目でキッとにらむが、あどけなさと大人っぽさのアンバランスな魅力が、中年男の良介にはたまらない。
 しょせん、わがままで、甘ったれた性格なのである。
「それなら、身支度はできたんだろ。すぐにでかけよう」
「待ってよ。カケオチって、はじめてで、たいへんなんだから……。一緒に旅行バッグを降ろしてよ」
「そんなめだつもの、やめろったら。貴重品だけハンドバッグに入れればいい」
「だめよ。一緒にきてちょうだい」
 スキップしながら、翔子が二階の部屋にかけあがるので、良介も仕方なくつづいた。
 とっくに不良グループから抜けたつもりの翔子の部屋は、収納もおしゃれで、カバーリングアイデアもいっぱい。
 動物グッズも賑やかで、ワクワク、ルンルンの雰囲気である。
「ええっ。こんなでかいトランク、どうするつもりなんだよ」
 いつも二人でめ狂うセミダブルベッドの脇に、ドンと大型トランクが置かれているのを見て、良介は、ついあせってしまう。
「このなかにクレジットカード、銀行の通帳、定期預金、印鑑、わたし名義の株券、宝石類が全部入ってるの。それに兄貴の金庫から現金キャッシュも失敬しちゃった」
「ほかに、なにがトランクに入ってるの」
「女の子って、衣裳がたいへん。スーツにワンピース、それにランジェリー、靴も」
「そんなトランクを持ち歩いてたら、すぐにみつかっちゃう。金さえあればなんでも買えるじゃないか」
「あ、そうか。じゃあ、もとのところに戻すの手伝ってよ。要するに、家出、失踪、誘拐のどれなのか、わからなくすればいいのね」
 やっと納得した翔子は、良介に手伝わせて、それぞれをしかるべき場所に戻しはじめた。
 トランクを空けた良介は、翔子がいつも持ち歩く小さめのペイルバッグに貴重品のすべてを詰めこんだ。
 財布を、翔子が穿いているネルのクマプリントのスカートにねじこむと、
「いやあっ。エッチね」
 はやてんした翔子は、半ば腰を浮かせながらスカートをめくりあげ、はにかんだ表情で、フレアパンティの脇に、良介の指先をいざなった。
 
 
 
 
〜〜『蜜室の女探偵』(影村英生)〜〜
 
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