影村英生 青山通りの獲物
目 次
ラベンダーの章
ヒアシンスの章
フローラルの章
サルビアの章
ムスクの章
シプレーの章
マグノリアの章
ベルガモットの章
(C)Eisei Kagemura
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ラベンダーの章
女優デビュー
1
南青山のテレビ日東から西麻布の高樹町まで、そう遠くはない。
それでも気がせく三枝光彦は、タクシーを使わずにはいられない。
桑原瑶子のマンションの前で降り、エントランスで暗証番号をプッシュし、中に入った。
(来るのが早すぎたかな。まだ帰ってないかも)
ドラマ番組のチーフプロデューサー、三枝は五十歳で、れっきとした妻帯者である。
多摩市永山町に自宅があり、専業主婦の妻と一男一女が居るが、忙しすぎて、どうしても帰宅は週一回となる。
人気ドラマのヒットメーカー、三枝は、企画から制作予算、キャスティング、放送作家、ディレクター、スポンサー、代理店との折衝、さらに番組スタッフの総括まで任されている。
したがって、局内では何も恐いものがなく、ヘソ下の人格をみとめない連中の仲間入り寸前なのである。
三枝は、瑶子からもらったスペアキーでもう一つのドアを開け、エレベーターで五階に達した。
ハの字に下がった濃い眉、人なつこそうな垂れぎみの目は、時に鋭く相手を射すくめ、大きな薄い唇を皮肉っぽくゆがめる。
とりわけ長身ではないが、藤づるのように引き締まった体躯で、額のひろい五分刈りの胡麻塩頭だが、ふつうの男には見られぬ活気が感じられる。
つまり、ひと仕事おわると、股間がかならず疼きだし、ひたすら女性を口説きたくなるのである。
五階で降り、磨きぬかれたような廊下を通り、めざす部屋の前に立つ。
表札を確かめて、キーを使う。
玄関に入って灯りをつける。
洋間十帖のワンルームに、バストイレ付きだから、バラエティ番組の担当ディレクターの仮住まいとしては充分だろう。
来客時は、間仕切りのアコーディオンカーテンで寝室を閉めきっている。
三枝はひと汗流すために、すべてを脱ぎさって浴室に入った。
温かなシャワーをふりそそぐ。
ユニットバスとはいえ、かなりの広さがある。
(できれば、いっしょに入りたかったな)
シャワーをそそぎながら、悩ましい瑶子の鎖骨から腋の下、乳房の境界あたりを撫でさすったら、たちまち、小ぶりの乳首が勃起し、挑むような視線をキラリと光らせるだろう。
(だめよう。そんなに刺激なさっちゃあ)
(いいじゃないか。もっといい気持ちにさせてやる)
瑶子は、軽やかなカールが、知的で凛々しい顔だちをムーディーに見せるウェービーボブである。
モコッと上向きの乳房、肉桂色の乳首と濃い乳暈が、蠱惑的におののいている。
人妻らしく張りつめた腰高の量感と、キュッとくいこむお尻の割れ目。
(ほら、こっちも洗ってくれよ)
三枝は、ひとりごとを言いながら、シャワーをほそめにして、石鹸の泡まみれの手のひらで、半包茎の王冠部をめくりあげる。
陰のうから剛毛のむらがりまで揉み洗いすると、われながら、するどい快感にせめがれて、ムクムクそそり勃ってくる。
(感じてるんだろ。勝ち気そうでも、けっこうスケベだから)
見えない相手に向かって、三枝がしきりに揉みたてていると、とつぜん、チャイムが鳴った。
玄関に瑶子の気配がしたとき、三枝の肉塊は、泡まみれでどぎつく膨れあがっていた。
「あ、どなたかお入りになってるの」
驚いて声がうらがえった感じの瑶子は、思わず浴室のドアを大きく開けはなった。
大ぶりで涼しげな和鎖を描いたシフォンのブラウスと、純白のワンピースが、三枝の目に映った。
サングラスを外すと、テレビ局のスタジオで見かけるときよりはるかに繊細な顔立ちで、すらりと伸びきった足と、なまめかしい腰高のカーブが目立つ熟女である。
「どなたって、ぼく以外にそんな奴がいるのか。さあ、いっしょに入れよ。いそいで」
「でも、まだ着がえもすまないし」
「いつものきみらしくないな。いっしょに入っても恥ずかしくない仲なのに」
性急な三枝の声に、瑶子は愁いをおびた面持ちで、しおしおと身につけたものをぜんぶ脱ぎさり、浴槽のふちに手をかけた。
「バスのふちに腰かけてごらん。シャワーをかけて、すっかり洗ってあげるから」
「ううん、わたしが背中を流してあげるわ。あちらを向いてちょうだい」
「いいから、いいから。おそその中まできれいに洗ってあげる。ほら、こんなにおさねがピクピクしてる」
瑶子が上半身を反らせると、栗色の恥毛のむらがりがパックリ割れて、上べりの突起と、貝の剥き身のようなびらつきがはみだしそうになる。
「どうだった? この間、紹介してあげた若手俳優。時代劇向きの端正なマスクだけど、ああいうのが、けっこうしつこかったりしてさ。満足しただろ」
泡まみれの指先で、上べりの膨らみをいじられ、瑶子の顔は、淫らな興奮で上気したように染まっている。
「そんな恥ずかしいこと、とても言えないわ」
「よかったんだな。いまでも思いだすくらいに」
三枝にささやかれると、瑶子は、よじれた肉びらがしんなり弛み、うるみの湧出が濃くなってくる。
「知らないわ。あなたが嫉くんですもの」
「嫉かないから、ぼくにも気を入れてくれよ」
頬を染めながら、瑶子は、蟻の門渡りからお尻のほうまでぬるぬるしたものが伝いおちる気がする。
「なんだ、もう、とろとろになってるじゃないか」
三枝は、内心の嫉妬を押し隠しながら、人さし指を悩ましい内腿からくぐらせ、瑶子の臀裂を軽く押し揉みする。
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