官能小説販売サイト 一条きらら 『背徳の円舞曲』
おとなの本屋・さん


一条きらら   背徳の

目 次
第一話 愛人のいる女
第二話 もてあそぶ女
第三話 別れられない女
第四話 片想いの女
第五話 尽くす女
第六話 冷酷な女
第七話 母性愛の女
第八話 したたかな女
第九話 燃えたい女
第十話 酒びたりの女

(C)Kirara Ichijo

◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。


   第一話 愛人のいる女

     1

 井の頭線の久我山駅の改札口を出たかざは、ショルダーバッグからメモの紙片を取り出した。
 メモを見ながら、歩き出す。駅前の北口商店街を通り、一つ目の信号を左に折れ、四、五十メートル歩くと、右手に五階建てのマンションがあった。
 マンションの名はスカイハイツ。メモを見て、その名を確かめた友香は、管理人室の前を通り過ぎ、エレベーターの前に立った。
 ボタンを押して、ケージが降りて来るのを待つ間、友香の胸にかすかな興奮が湧き上がる。きょう、三十一歳、学習塾講師。どんな女性だろう――。
 風間友香は三十歳で、フリーライターである。十社近くの出版社の仕事をしているが、今日、矢部京子と会うのは、せい出版の女性月刊誌《ドリーム》の取材だった。
《ドリーム》は、ファッション、美容、料理、エッセイや法律相談など、さまざまな記事が載っているが、その中に『女のドラマ』というページがある。事件に巻き込まれた女性をインタビューし、他のマスコミ誌より真相に迫った告白をその女性にしてもらうのが狙いだった。
 その記事を、風間友香が担当しているのだった。毎月、どの事件の女性を取り上げるかは編集長と打ち合わせで決めるが、インタビューの承諾を取るのも、友香の役目だった。
 矢部京子が関わった事件は、先月起こった。愛人の矢部京子のマンションを訪ねた大学教授が、彼女の浮気相手の大学生を監禁、暴行した事件である。
 その事件をスキャンダラスに取り上げた週刊誌はどれも、矢部京子を、複数の愛人を持った悪女と受け取れる書き方をしていた。
 矢部京子は独身である。友香は、自分とほぼ同年齢の彼女が二人の愛人を得ていてどこが悪いのだろう、と同情していた。
 また、一方では、年上の愛人と年下の恋人が彼女の部屋ではち合わせしたというハプニングが、興味深くもあった。
 矢部京子は一体、二人のうちのどちらを、深く愛していたのだろう。二人とも、彼女にとっては必要な存在だったのだろうか。三十歳を過ぎて独身生活を続ける一人の女の、愛と性をうかがい知ることができるかもしれない――。
 風間友香は、そんな期待を抱いていたのだ。
 エレベーターを五階で降りて、廊下を歩いた。矢部京子の部屋は五〇五号室、角部屋である。
 表札を確かめ、チャイムを鳴らす。インターホンから矢部京子の声が送られてきた。風間友香は名前を告げた。
 ドアが開けられ、矢部京子が姿を現した。黒いカシミヤのセーターに山吹色のスラックスを穿いた彼女は、大柄で、知的な美貌の持ち主である。黒髪は背にかかるほど長く、一見、塾の講師というより、女優のような華やかな雰囲気が漂っていた。
 ただ、化粧は薄く、彼女の顔はいくぶん青ざめて見えた。
「初めまして。風間友香です」
 友香は名刺を差し出した。お入り下さい、と矢部京子は少し冷ややかに言って奥へ歩き、リビングルームに友香を通した。
「素敵なお部屋ですね」
 室内を軽く見回して友香は言った。十畳ぐらいのその部屋は、鮮やかなブルーの絨毯が敷きつめられ、高価そうな家具や調度品が配置されている。
 スプリングのきいたソファには毛皮のカバーが掛けられ、テーブルは大理石である。
 矢部京子が紅茶セットをトレーにのせて運んで来た。洒落た陶器の花柄のポットからカップに紅茶を注いで、友香にすすめた。
「駅から近いのに、静かな所ですね」
「ええ」
「このマンションは、賃貸ではなく分譲ですね」
「ええ、でも、週刊Sに書かれてあったように、彼が買ってくれたのではなく、七年前、父が買ってくれたのです」
 矢部京子は、ほとんど無表情で答える。マスコミに顔をさらすことになり、悪女と書きたてられて怒りと屈辱感を覚え、プライドを傷つけられただろうと、彼女の無表情から友香は察するのだった。
「今日はお仕事は?」
「塾は五時からですから、二時間で終わらせてお帰り下さい」
「わかりました」
「それから、記事の原稿は、見せていただけるのでしょうね」
「お約束しますわ」
 友香はそう言って、バッグの中から小型のテープレコーダーと、ノートとペンを取り出した。テープレコーダーをテーブルの上に置いて、スイッチを入れた。
「事件の起きたその日ですが、矢部さんは大学生とこの部屋にいらしたんですね」
 と友香は質問した。
「彼は前の晩、ここに来て、泊まって行ったのです。明け方近くなって、ようやく眠りに落ちて、その朝……」

     2

 その朝、先に目覚めたのは京子だった。
 あお向けになった圭吾の胸に手をのせ、抱かれるような恰好で寝ていた京子は、静かに瞼を開けた。
 けいはかすかな寝息をたてている。その寝顔は少年のようにあどけなく、昨夜、京子の肉体を激しくむさぼった男の雄々しさは消えていた。
 蒲団の中で、二人とも全裸だった。京子は、男の身体にいっそう密着するように抱きつき、彼の足に太腿をからみつかせた。
 無邪気な彼の寝顔を見つめていると、その顔に乳房をこすりつけて、いたずらしたくなった。それは、情欲とは違う、たわむれのようなしぐさで、胸の中には圭吾への愛が満ちていた。
 京子はずり上がり、圭吾の顔に白いふっくらした乳房を軽く押しつけた。乳房の先端が彼の頬や唇に触れると、かすかなうずきが身体の奥に生じた。
 固くなり始めた乳首を、圭吾の薄く開けられた唇にたわむれさせていた時である。いきなり、京子は、彼の強い力で抱き締められ、悲鳴をあげた。乳首が、痛いほど吸いたてられた。
 
 
 
 
〜〜『背徳の円舞曲』(一条きらら)〜〜
 
*このつづきは、ブラウザの「戻る」をクリックして前ページに戻り、ご購入されてお楽しみください。
 
「一条きらら」 作品一覧へ

(C)おとなの本屋・さん