影村英生 淑女の診察室
目 次
梔子の章
紅薔薇の章
無花果の章
三色菫の章
耶悉茗の章
睡蓮の章
酔芙蓉の章
胡蝶蘭の章
雛罌粟の章
(C)Eisei Kagemura
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梔子の章
1
(へんだな、こんな時間に)
産婦人科研修医の綿引淳一は、新生児室の角をまがったとき、毛布ぐるみの赤ちゃんを抱いた白衣の女が、ひそやかに廊下を歩み去ろうとするのに気づいた。
「待ちたまえ、ちょっと」
綿引の声に、女はおちついた表情でふりむいた。彫りの深い印象的な美貌で、知的な雰囲気がある。
「なんですか」
低いが、官能的なふくらみのある声がながれる。
「その白衣、この病院のものと違うね。あなた、看護士じゃないんでしょ」
女の顔にチラッと狼狽のかげがよぎる。
「おーい、だれかいないか」
綿引の声に、ナースステーションで仮眠中の看護士がとびだしてくる。
女は物もいわずに足をはやめたものの、もはやこれまでと思ったのか、階段脇のソファに赤ちゃんを置くと、脱兎のように階段をかけおり、たちまち姿をくらました。
犯人追跡よりも、新生児の安否が気づかわれた。
「どうしたんですか。先生」
かけつけたのは、顔みしりの看護士、桑野光子だった。丸顔で、愛嬌があり、芯のつよそうなベテランである。
「のんきだなあ、赤ちゃんがさらわれかけたんですよ。だれなの、もうひとりの当直は」
甘いマスクの綿引も、さすがに眉をひそめた。
ととのった顔だちだけに、ムッとすると、どこかに底意地のわるさが感じられる。ただ唇がぽってりと肉感的なので、院内の看護士たちからは好意を持たれている。
「すみません。宮沢由香利さんと交替で看てたんですけど……。彼女、どこへ行ったのかしら。トイレかもしれませんわ」
「あやうく看護ミスになるところですよ。さ、はやくベッドに戻して。宮沢さんは、ぼくが探してくる」
桑野看護士が赤ちゃんと一緒に新生児室に戻るのをみとどけてから、綿引は、犯人を通報すべきか、それとも宮沢看護士を探すべきかを考えた。
この東亜総合病院は、あかるい象牙色の鉄筋地上三階建てだが、なぜか夜間も、新館の玄関や、二階の新生児室の前室は施錠されていない。
(おおごとになると、病院の信用にかかわるな)
綿引は、とっさの判断で、すべてを内聞にすまそうと、とりあえず宮沢看護士を探すことにした。
だが、トイレにも、調乳室にも、洗面室にも姿が見えない。午後九時消灯の隣接病棟も、深夜のいまは、廊下の明かりがついているだけである。
陣痛室、重患室も空いている。
綿引は、産婦人科フロアを一巡したあと、念のため、デイルームと吹き抜けのそばを通って、廊下の奥のリネン室に近づいた。
ドアのノブをまわすと、明かりが洩れ、かすかな喘ぎ声がする。
(なにかを収納にきて、気分がわるくなったのかな。いや、ひとりじゃない)
リネン室には、シーツ、タオル、綿毛布、ベッドカバー、枕カバー、新生児用備品、患者用カバー、ナース用ガウン、ナース予備着などが、それぞれの棚にぎっしり積み重ねられている。
喘ぎ声の聞こえる場所は、出入口から死角になっていて、よほど奥まで入っていかなければ見えない位置だった。
「ひどい。そんなにじらさないで……。おかしくなりそう。おへそだけじゃなく、アソコのびらびらを舐めて……。いじって」
拗ねるような悩ましい声は、まぎれもなく宮沢由香利のものだった。
(なんてことだ。重大な看護ミスになりそうだったのに、身勝手なスケベ女め)
綿引は、いまにもとびだして面詰したい衝動をやっと抑え、リネン棚のかげにひそんで、じっと奥をのぞきこんだ。
床には毛布が敷かれ、胸乳もあらわに白衣をはだけた由香利があおむけになり、同じ恰好の看護士に、ちいさくて深く窪んだ臍や、ねっとり吸いつくような太腿のつけ根を舐めずられている。
そばには、ナースキャップや、共布のベルト、ガードル、ショーツなどがぬぎ捨てられ、おぞましい双頭タイプの疣つきバイブレーターが置かれている。
「由香利、目をつむってごらん。もっと好い気持ちにさせてあげる」
すこし鼻にかかった声と、黒ぶちの眼鏡をかけたインテリ風の横顔から、すぐに看護主任の高瀬真奈美だと分かった。ショートヘアで、あさぐろい肌だが、熟れた果実のような乳房だけが重たげにゆれている。
眉が濃く、野性的な顔だちの由香利は、長い髪をキュートなシニヨンでまとめ、色白な肌ぜんたいに、かすかな雀斑が浮いている。
「ああン。なにしてるの。いたずらはいやよ」
真奈美は、艶めかしく震える肉びらの割れ目に舌をさしこみ、塩からい分泌液を味わい、麝香とヴァニラがまじった秘所の匂いを嗅ぎとった。
「ね、くさいでしょ。恥ずかしいわ。そんなにされると」
言葉とはうらはらに、目を閉じた由香利の表情には、激しい喜悦がこみあげている。
「ああッ、とてもじょうずね。そこ、いい。だめよう」
真奈美が、よじれた肉びらの下べりを舐めあげ、開口部に舌をすべりこませるたびに、由香利は肉の小突起をヒクヒク勃起させ、ねっとりした粘糸を蟻の門渡りまでにじませる。
「さっきみたいに、お乳も一緒に揉んで。ねえ、おねがい」
真奈美は、すばやく舌をうごかした。
彼女はどんな舌の動きが相手を夢見心地にさせるか、じゅうぶん知っている。
看護主任は、舌を平らにしてゆっくり舐めあげ、先をとがらせて、肉茎のように突っこむ。
時には、蛇がふたまたの舌をチラチラさせるように、なかでくるりくるりとえぐりたてる。
「いいわ。またおさねが勃ってきた。あむう、イキそう」
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