官能小説販売サイト 北原双治 『優雅なる獲物』
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北原双治    優雅なる獲物

目 次
肉欲の逆流
スキャンダル
姦謀
魔淫の女天狗
秘密の共有者
真昼の輪舞ロンド
恋盗人
秘めやかな約束
淫血の系譜
真昼の淫奉仕

(C)Souji Kitahara

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   肉欲の逆流

     1

 不意に、ドアが開き可見勝則が入ってくる。
 同時に、玄関の方から「お邪魔しますぅ」と言う、女の声が聞こえた。
(ちょっとお、……困るじゃあない)
 チャイムを鳴らして来るとばかりおもっていた彼女は、慌ててリモコンへ手を伸ばした。
 息子の勝則が新しい恋人を連れて来ると言うので、クラシック曲のCDをかけ、二人を迎え入れるつもりでいた。だが、予定の時刻を過ぎても現れず、それでテレビをけお昼のワイドショーを観ていたのだ。
「お土産を探していて、遅くなっちまったんだ。紹介するよ……」
 入ってきた女性の肩へ手をかけ、勝則が明るい声で言う。
 千香子は横向きのまま会釈し、テレビのスイッチを切る。
「よくいらっしゃいましたわね、勝則の……」
 ソファから腰をあげしとやかに会釈しながら、改めて挨拶しかけた刹那、にこやかな笑顔を向けている女の顔を見て、千香子は息を呑み絶句していた。
 かつて彼女がOLをしていたときの同僚の、きったか里砂が人懐こい笑みを浮かべて立っていたからだ。
(どういうことよ、……)
 何か気の利いたことをとおもったものの、衝撃で言葉が出てこない。
 ただの同僚なら、こんなにも驚かなかっただろう。橘高里砂とは、二年間も親密な関係をもっていたのだ。それも、彼女が結婚する直前まで、だ。
「はじめまして、里砂ですぅ。ご厄介かけますが、よろしくお願いしますぅ」
 絶句したままの彼女へ助け船をだすように、神妙な顔で橘高里砂が言う。
 はじめましてと言うからには、二人の過去を伏せようとしているに違いない。
「ええ、……こちらこそよろしくね」
 ぎこちない声で言い、ソファへ座るよう手振りで示す。
「どうしたんだよ、千香子さん。なんか、あったの」
「ううん、……あんまり美しい方なんで、ビックリしちゃったの」
 げんがおで訊いてくる勝則へ、慌てて言い訳する。
 橘高里砂がくすっと笑い、ソファへ尻を下ろす。
「なんだよ、脅かさないでくれよ。こっちはてっきり、千香子さんの嫌いなタイプの女なのかと、おもっちまったぜ」
 おどけた声で勝則が言い、橘高里砂の隣へ腰を下ろす。
「そんなこと、あるわけないでしょう。いま、コーヒーを煎れますからね」
 引きつる口許を綻ばせて言うと、千香子は逃れるようにキッチンへ立った。
(よりによって里砂を連れてくるなんて、どういうことよ。……)
 何度も頭の中で疑問をはんすうするものの、見当もつかない。
 短大卒の橘高里砂とは入社が同期で、新人研修を一緒に受けている。だが、年齢は彼女の方が二歳上だ。千香子は四年制の大学を出ていたからだ。
 その新人研修の合宿で彼女と同室になり、早くも深い関係に陥っている。
 千香子は高校までバレーボールのレギュラー選手をしており、そのスポーティで宝塚的な容姿に、橘高里砂が魅かれたらしい。彼女の方から、仕掛けてきたのだ。女子校から短大と、女ばかりの学校で、そういうのに馴れているらしく、全くその気がないとおもっていた彼女を、純真そうな瞳と妖しい微笑みで、巧みにろうらくしてきたのだ。
 一度ぐらいはレズ体験もと好奇心をみせ、深く考えずに応じた。だが、橘高里砂の濃密な戯技に翻弄され、ずるずる深みにまってしまったのだ。
 それも、ネコタイプとおもわれたぽっちゃりとした愛くるしい顔立ちの橘高里砂が、タチ役を積極的にこなし、彼女を自在に翻弄する。
 そして、橘高里砂が営業事務へ配属され、彼女は秘書課へ配属になったあとも続行し、二人の関係は絶えることはなかった。
 だが、三年目に入り、千香子は専務の秘書に抜擢された。その専務から「退職して、会社を興すんだけど、きみも来ないか」と、説得されたのだ。
 それがプロポーズの言葉になり、専務が興したシステムの新会社の設立パーティと、結婚の披露宴を一緒に行ったのだ。
 その男が、現在の夫である可見信誠で、二十六歳も年上の彼は再婚だった。
 ピアノ教師の男と女房が出奔し、離婚になったと、言う。
 そんな経緯で求愛されたものの、さすがに彼女も最初は逡巡した。年齢差があり過ぎるし、しかも彼女と二歳しか違わない一人息子が居ると、言う。
 だが、専務が資産家であることを知り尽くしており、ここは玉の輿こしにのるべきだと打算した。それに、橘高里砂との関係を清算するには、絶好の好機とも考えた。
 濃密なレズテクニックに翻弄されてはいたものの、将来の展望のない関係だ。
 それで、結婚に踏み切り、橘高里砂へ訣別を宣している。
 当然、すんなりと別れることはできず、わだかまりを残したまま、強引に彼女は意志を貫いたのだ。
 そのレズビアンの関係にあった橘高里砂が、突如として邸宅へ現れたことになる。それも、義理の息子である勝則の新しい恋人として、だ。
 夫の信誠が九州へ二泊三日の出張中で、それをいいことに息子は恋人を泊めると宣していた。
「まずは、千香子さんに会ってもらって、親父へはその後にする」と言われ、彼女は好意的に受け止め、応諾したのだ。
 夫の財産相続に絡んでくる相手であり、そのへんを彼女へ気づかい、勝則が配慮してくれたのだと、考えたからだ。
 
 
 
 
〜〜『優雅なる獲物』(北原双治)〜〜
 
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