由紀かほる 美女アナ・盗まれた美唇
目 次
１ｓｔ ｓｔａｇｅ
２ｎｄ ｓｔａｇｅ
３ｒｄ ｓｔａｇｅ
４ｔｈ ｓｔａｇｅ
５ｔｈ ｓｔａｇｅ
６ｔｈ ｓｔａｇｅ
７ｔｈ ｓｔａｇｅ
８ｔｈ ｓｔａｇｅ
９ｔｈ ｓｔａｇｅ
10ｔｈ ｓｔａｇｅ
11ｔｈ ｓｔａｇｅ
(C)Kaoru Yuki
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１ｓｔ ｓｔａｇｅ
１
シルバーのきらびやかなミニのドレスは、サイド・スリットが深く入って、自慢の脚が太腿の付根近くまでのぞいていた。
ハイヒール・パンプスにのった脛はスラッとまっすぐに伸び、形のよい膝から上は、逆に不遜なまでの豊かな肉付きを誇っていた。
本当はイヴニングでもと思ったが、恋人のフランクの強い要望でミニにしたのだった。
その選択は、結果的には正解だったと奈々村恵美子は思った。
たしかに、脚線美の華麗さや豊麗さ、その存在感で、これまで他人に引け目を感じたことは一度もない。今でも、その自信に変りはない。
いや、脚以上に、そのスタイルと容貌においても。
ただ、ここは日本ではない。ニューヨーク、マンハッタンだった。
しかも、そこはトップ・デザイナー、ジェリー・カスティアーノのパーティ会場だった。
来週からはじまるショーの前夜祭ということもあって、集まった客たちもとことんお洒落だった。
正真正銘の世界のトップ・モデルの中に混じって、有名な女優や歌手の姿も見かけられた。
いくら恵美子の身長が一七〇近いとはいえ、それだけでは目立ちようもなかった。
それでも、その日のパーティの主賓の一人として、恵美子が注目されたのは理由があった。
一つは、ジェリー・カスティアーノの息子のフランクの恋人と噂されたこと。一つは、今年の三月まで日本のテレビ局のアナウンサーとして、その端麗な容姿で圧倒的な人気を誇っていたことだった。
実際、退社後もマスコミの注目度は下がることがなかった。今夜も、パーティ会場の外には、恵美子と恋人のツー・ショットを撮ろうと、何人かの日本人カメラマンが待機していた。
いや、その肩書きを別にしても、恵美子はパーティ会場で特別な輝きを放っていた。
ゴージャスすぎない、シンプルなミニ・ドレスは、ショート・カットのヘア・スタイルとマッチして、どこか異国の妖精という雰囲気を漂わせていた。
とかく、日本人は実際の年齢より若く、子供っぽく見られることが多いが、恵美子の場合もそうだった。
誰も恵美子の本当の歳を言い当てることはできなかったに違いない。
笑貌を作ることは、職業柄、お手のものだった。が、今夜恵美子の貌に浮かんだそれは、もっと自然な、内側から滲むものだった。
自分が本来いるべき場所にいる――そんな満足感から湧き起こる笑みだった。
局アナ時代もそれなりに悪くはなかった。自分の恵まれた容姿、磨かれたセンス、そして知性と能力の高さが、そこそこに評価されていた。
男性誌やスポーツ紙などにとり上げられる回数は、人気タレントや女優でも脚もとに及ばないほどだった。
〃激写、奈々村恵美子の超ミニ姿〃
〃激写、奈々村恵美子、生脚通勤ショット〃
〃激写、奈々村恵美子パンチラ・ショット〃
迷惑といえば迷惑な話だった。それだけ、自分という存在が、世間から注目され、憧れられていると思えば、まあ許せなくもない。
ただ、その割に実入りは大したことはなかった。局アナである以上、給料は決まっているのだから、仕方がないといえばそれまでではある。
が、人気タレント以上の注目を集めているわりには、あまりにもその差は大きかった。
それに、自分のまわりに群がってくる人種を見ていると、そのレベルのあまりの低さにうんざりすることがあった。
局アナを退めて、フリーになることをすすめる者、タレント転身をすすめる芸能プロダクション、ヘア・ヌード写真集を出さないかと持ちかける者。
話の一つ一つはいかがわしいものから、思わず身を乗り出したくなるものまで色々だった。
が、どれを選ぶにしろ、その一つを選んだ瞬間が、美人アナ、奈々村恵美子の真価の、ピークを迎えるような予測があった。ピークに達すれば、あとは下るだけだ。
もし、そうなら、できるだけ株価の上がったときに売りたいと思うのが人情だろう。
ジェリー・カスティアーノの息子、フランクとの出会いは、だから恵美子に新しい扉を開かせてくれることになった。
日本で開かれたショーの取材で知り合ったのが昨年の秋だった。
自身がカスティアーノの若者向けブランドのデザイナーであるフランクは、イタリア系らしく、一眼惚れした恵美子に、熱烈な求愛ぶりでまとわりついてきた。
悪くない、いえ、かなりいいわ――と恵美子は胸の中で呟いていた。
局アナとして、天下をとった今、さらにステップ・アップするのに、カスティアーノＪｒとの恋愛は、恵美子の自尊心も充分満足させたのだ。
フランクとの出会いがなければ、まだ局アナを続けていたかもしれない。
退社後の自由な空気というのは、想像以上だった。毎日同じ時刻に起きなくてもよかったし、嫌いな上司の貌色を窺わなくてもよい。バケモノみたいな芸能人におべっかを言い、バカなスポーツ選手に口を合わせないでもよいのだ。
東京とニューヨークを行き来し、食べていくためにしたくない仕事をしなくてもよいのだ。
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