由紀かほる 『女医亜矢香 禁断クリニック』
由紀かほる 女医亜矢香 禁断クリニック
目 次
第一章 悩ましすぎる脚線
第二章 出会い系サイトの男
第三章 年上の女の誘い
第四章 恥辱のレッスン
第五章 性態クリニック
エピローグ
(C)Kaoru Yuki
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第一章 悩ましすぎる脚線
1
お腹を二つに開いて、ドロンとした内臓を
掌
てのひら
で掴んだ日の夜は、やっぱりお酒が呑みたくなる。
それもワイン程度のものではなく、ツーンと神経にダイレクトに響くものがよかった。
その日は、製薬会社の営業マンの接待で、藤原亜矢香は青山のスペイン料理店へ入った。
連れに看護婦の坂下美保とインターンの
東
あずま
谷
や
洋二にも声をかけたのは、営業の万田が、美保に気があるのを知っていたからだった。
もっとも万田の大本命は、美保ではなく、この自分であることを、亜矢香は見抜いていた。
が、関東医大付属病院の消化器外科で、その能力においても、女としての外観の美しさにおいても図抜けた女医では、到底落とせないと諦めて、美保の方へ乗り換えたのである。
その辺りの、身の程を知っている点が、万田の可愛いところだった。
が、美保も正看護婦として現場で揉まれてきただけに、小柄でおとなしそうな印象とは異なり、芯は恐ろしく強かった。
当然、男を見る目も厳しいし、
辛
しん
辣
らつ
だった。
口から先に生まれたような万田が、プライドの高い美保をくどけるかどうかは、かなり怪しいと言わねばならない。
これで、ルックスが抜群であるとか、親の財力が圧倒的であるとかなら別ではあるが。
むしろ、可能性としては生真面目な東谷の方が高いかも知れなかった。まだインターンではあるが、勉強熱心だし、人柄に嫌味がない。少々、一途になり過ぎて、ガンコな面はあるが、将来性としてはそこそこの有望株ではある。
スペイン料理店を出たあと、四人は心地良い五月の夜風に浸りながら、渋谷方面に向かってだらだらと坂を下っていった。
「あれ、占いだわ」
裏道を歩いている途中で、美保が前方の右手を指した。
雑居ビルのすぐ前で、痩身の若い男が小さなテーブルを前に座っていた。テーブルには〃手相占い〃と書かれた字が、ほの暗い照明によって浮かび上がっている。
「面白そう。万田さん、観てもらったら」
「いや、僕はイイっスよ」
万田は両手を振りながら、チラッと亜矢香の方をふり向き、
「僕なんかより、やっぱりここは亜矢香先生にご出馬して頂かないと」
「私は結構よ。自分の人生は自分で決めるから」
両手を胸の前で組んだまま、亜矢香は落ち着いた口調で答えた。
「でも、自分じゃ気づかなかったことに気づくかもしれませんし、それに」
万田は急に声を落として、
「あの占い師、妙にカッコつけて、イイ男ぶってるじゃないスか。少しからかってやりましょうよ」
「そうだわ。絶対自分がイイ男って思ってますよ。先生、ギャフンと言わせてあげてください」
美保までが煽ってきた。
亜矢香は苦笑した。普段なら乗らなかっただろう。が、ワインの心地良い酔いのせいもあってか、
「仕方ないな、君たち」
そう言って、亜矢香は占い師の方へと近づいていった。
あるいは亜矢香の中に、占いへの興味が実は強くあったのかもしれない。
色つきのメガネをかけた占い師は、
細
ほそ
面
おもて
の顔を上げて微笑みかけてきた。
その仕草がひどく自然だった。営業臭さのない笑みと、亜矢香は久しぶりに出会った気がした。
つられたように、亜矢香は笑みを返しかけていた。
この時点で、すでに相手のペースに陥っていたのかもしれない。
だいたい、自分を見て目を
瞠
みは
らぬ男はいなかった。
今日は淡い、上品な色づかいの、ブルーのミニスーツ姿で、パンプスを履けば一七〇センチを越える肢体だけに、イヤでも人目を引いた。
当然、タイトなミニから伸びる太腿も、充分な肉付きを誇りながら、足首まで、ほぼ一直線に伸びきっているのである。
しかも、よくありがちな太腿の太さに比べて、貧弱なふくら
脛
はぎ
の脚線ではなく、自慢の脚はふくら脛の後ろから内側までムッチリと肉がついていた。
何度でも、何回でも繰り返し眺めたいと思わせる脚線だった。
ましてや、初対面の男なら、まず左右にピーンと張ったミニの裾と、そこからニョキッ、ニョキッと生え並ぶ二本の太腿に、ほとんど圧倒されるのが常だった。
が、占い師にはその気配がまるで感じられなかった。
いや、サングラスの奥の目は、あるいは動揺しているのかもしれない、きっとそうだ。
「お待ちしていました」
亜矢香が向かい側に座るなり、占い師は口を開いた。ほとんど口が動かないように見えたのは、やはり酔っているせいなのだろう。
「あら、そう。私は別に待たせた覚えはないけど」
絡むように言って、掌をさし出した。
「私の未来を占ってもらおうかしらね」
「かしこまりました。で、未来の中の何が知りたいのですか」
「フフ、色々あるわ。でも、何に一番興味があるか、あなたがプロの占い師なら、それくらいわかるんじゃなくて?」
亜矢香は正面から見据えたまま、あくまで挑発的に言い返した。
並の男なら、これだけで大抵ひるむ。
〜〜『女医亜矢香 禁断クリニック』(由紀かほる)〜〜
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